追放聖女のもふもふスローライフ

臥龍岡四月朔日

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追放聖女のもふもふスローライフ

第3話 コトコトポトフと不思議な少女

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 チュン、チュン、チュン

 窓から差し込む朝の光と、小鳥のさえずりで目を覚ます。

「モキュ……」

 目覚めた私に気づいたもふぞーが、ふわりと毛並みを揺らしながら擦り寄ってきた。

「おはよう、もふぞー」

「キュキュゥ!」

 元気いっぱいに鳴くと、もふぞーは私の頬をぺろぺろと舐める。くすぐったいが心地良い。

「さてと、朝ごはんにしようか」

 私は大瓶から水を汲み、携帯用のパンと干し肉を準備する。台所も綺麗になったし、そろそろちゃんとした料理が食べたいよね……今日は村で食材を売ってもらおう。

 ふと、窓の外で小鳥たちが賑やかにさえずっているのに気付いた。
 パンを細かく砕き、小皿にのせて窓辺に置く。

「君たちも、朝起こしてくれてありがとう」

 チュンチュン――小鳥たちは首をかしげ、嬉しそうについばんだ。
 屋敷の中にも、森の朝の澄んだ空気がふわりと流れ込んでくる。

 コンコンとドアを叩く音が聞こえた。

「すいませーん、聖女様いるかい?」

 ……誰だろう? それに私は聖女様なんて立派なものじゃない。ただの無能聖女だ。

「はーい、どちら様ですか?」

 ギギィ、と軋む音とともにドアを開けると、そこには雑貨屋のお姉さんが立っていた。

「おはよう、聖女様。昨日うちの子が世話になったみたいで、お礼にこれ持ってきたんだ」

 そう言って差し出されたのは、少し大きめの木箱。

「重いから気を付けて」

 箱の中には、小瓶がたくさん詰まっていた。

「昨日、うちで小瓶を買っていったでしょ? もしかしたらもっと欲しいんじゃないかと思って、在庫をかき集めてきたの」

 ……昨日? うちの子? あの転んだ子? この人、お母さんなの? 若っ。

「……ありがとうございます」

「他にも、あたしにできることなら何でも協力するから」

「それじゃあ……これ、そちらに置いてもらえますか?」

 昨日作ったポーションを三つ手渡す。

「いいよ。で、いくらで売る?」

「このくらいで……」

 材料費に少し上乗せした程度の額を口にする。無能聖女のポーションだし、高くなんて取れない。

「……それで生活できるのかい? それに、この質ならもっと取れるはずだよ」

 いやいや、無能聖女の作ったポーションですし。

「あまり高いと、気軽に買ってもらえないかなって……」

「そうかい? じゃあ、このくらいでどうだい?」

 彼女が提示した額は予想よりもずっと高かった。それでも街の相場に比べたら安い。

「……これで売れますか?」

「売れる売れる、爆売れさ」

 豪快に笑う彼女に、思わずこちらも笑みがこぼれる。

「それじゃあ、よろしくお願いします。……あの、」

「ああ、自己紹介が遅れたね。私はケイト。昨日あんたに治療してもらったアリサの母親さ」

「ありがとうございます、ケイトさん。私はリリアナといいます」

「何かあったら、いつでも言っておいで」

 そう言って、ケイトさんは軽やかに村へ戻っていった。

 ――うん、これで何とか生活はできそうだ。

「ん?」
「キュゥ?」

 ふと、背筋を撫でるような視線を感じた。振り返るが、そこには誰もいない。
 森の風が、静かにカーテンを揺らしていた。

 何か視線を感じたけど気のせいかな?
 ……うん、気のせいってことにしておこう。


 それにしても、思わず小瓶がたくさん手に入ってしまった。これはポーション作りが捗るな。

 まあ今日は食材を調達しに行こう。

 私はもふぞーを連れ村を歩き回って、農家さんたちから食材を買う。どの人も笑顔で迎えてくれて、村の温かさを感じた。

「聖女様、これも持っていきなよ」
「これはサービスだ、持ってきな」

 そう言われて、気づけば帰る頃には持ちきれないほどの野菜が集まってしまった。

 屋敷に戻り、早速料理に取り掛かる。

 よし、今日はポトフを作ろう。

 野菜をざくざくと切って鍋に放り込み、干し肉と水を加えてコトコト煮込む。ふわりと漂う湯気と香りに思わずお腹が鳴った。

「キュキュゥ♪」

 もふぞーも鼻をひくひくさせて待ちきれない様子だ。
 できあがったポトフは、野菜の甘みと干し肉から染み出した塩味だけでも十分に美味しい。

 もふぞーに食べさせても大丈夫だろうか? そんな心配をよそに、もふぞーも夢中で平らげた。

 食後、私は机いっぱいに材料を広げ、ポーション作りを始める。いくつ売れるか分からないけど在庫を作っておくに越したことはない。

「ねえ、何をやっているの? リリアナ」

 突然、背後から声がして、思わず手元の瓶を落としそうになった。
 振り返ると――そこには見知らぬ少女が立っていた。七歳くらいだろうか。ウェーブがかかった肩下までの亜麻色の髪に、フリルのついた質の良いドレス、大きなリボン。けれど裾も髪も、どこかくすんで色褪せている。

「……誰?」

「私? 私はロゼ」

 ――ロゼ。その名前、どこかで聞いたことがある気がする。

「ロゼちゃんは迷子?」

 ふるふる、と首を横に振る。

「この村の子かな?」

 また、ふるふる。

 うーん、どういうことだろう? 村に来たお貴族様のお嬢様とか? でも、そんなに裕福そうには見えない。

「何してるの?」

「ポーション作りだよ」

「見てていい?」

 私が頷くと、ロゼは机の向こうでじっと作業を見つめ始めた。
 ……なんだか、物静かな子だな。

 ――よし、今日の分はこれで終わり。

「どうだった? ロゼちゃん」

 顔を上げると――そこには、誰もいなかった。

「……ロゼちゃん?」

 周囲を見回す。もふぞーが首を傾げている。

「ねえ、もふぞー。ロゼちゃん、どこ行ったか知らない?」

「キュキュゥ?」

 もふぞーも知らないらしい。
 ――いつの間に帰ったんだろう。ドアの音も、足音も聞こえなかったのに。

「ロゼちゃーん。いたら返事してー!」

 しばらく屋敷内を呼びながら歩き回ったが、返事はなく、物音ひとつもしなかった。

 さてと、ロゼちゃんの事は気になるけど、そろそろ水浴びにいかないと。
 森を抜け泉にたどり着くと、私はいつものように服を脱ぎ水面に身体を沈める。ひんやりとした感触が肌を包み込んで気持ちがいい。澄んだ水が肌を滑り、心のざわめきまで洗い流していくようだ

​「……ふぅ、気持ちいい」

​ もふぞーも気持ち良さそうに水の上にプカプカと浮いている。

 ――ガサガサ

 物音に反射的に振り返る。胸が一瞬、きゅっと強張った。

 茂みの奥から現れたのは、一匹の野うさぎだった。こちらを見上げ、小首を傾げると泉の水をひと口飲み、再び茂みの中へ消えていった。

「……ウサギで良かった」

 泉の水面が、先ほどよりも静かに揺れている。
 危険な魔獣の噂はない。けれど、背後の森の奥を覗く気にはなれなかった。

 ――明日も頑張ろうね、もふぞー。
 私は小さくつぶやき、もふぞーの背をそっと撫でた。
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