追放聖女のもふもふスローライフ

臥龍岡四月朔日

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追放聖女のもふもふスローライフ

第24話 いただきますと新しい道具

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 チュンチュン

 小鳥たちのさえずりと、窓からの朝の光で目を覚ます。
 ……新しい朝が来た、希望の朝が♪ なんて歌を思い出す。

 まあいいや。

 そろそろ次のステップに進んでみようかな。
 結局、泉の水に浸かってもアリサちゃんに覚醒の兆候は見られなかった。
 それでも、私は先生としてやれるだけのことはやらなきゃね。

「よし、今日も一日がんばりまっしょい!」

「モキュ」

 ティンカの移動式ベッド、もとい、もふぞーがもそもそと丸い身体を揺らして相槌を打った。
 私はもふぞーの身体をひとなですると、大きな伸びをしてベッドから身を起こす。

 そのまま、台所に向かうと朝の支度を始めた。
 野菜を刻むトントンという音が朝の空気に響く。

「おはようリリアナ」
「おはようございます!」

「二人ともおはよう」

 軽く挨拶を交わすと、二人はそのまま外へ自分たちの役割をこなしに行く。
 だんだんとみんなこの生活にも馴染んできたね。

 やがてスープがコトコトと煮え、ハーブのいい匂いが家中に漂い始めた頃、二人が戻ってくる。
 木製の器にスープをよそい、食卓に並べ、パンを添える。

 小鳥たちにパン屑をあげに行ったロゼが戻ると、みんな揃って朝ごはんだ。

 みんなで「いただきます」と声を合わせ、食事を始める。

「これって人間の習慣?」

 ティンカが首をかしげる。

 ……あー、無意識のうちにやってたけど、どう説明しよう?
 無論これは前世の、日本での習慣だ。この国の習慣じゃない。この国では神に祈りを捧げるのが普通だ。

「これは、食べ物や作ってくれた人への感謝の言葉だよ」

 それだけを説明する。

 ……大体、前世での習慣です、なんて言えるわけもない。うまく誤魔化す方法も思い浮かばなかった。

「じゃあ、リリアナに感謝」

 そう言ってロゼは私に手を合わせる。

「私もリリアナに感謝です!」
「じゃあ私もー」
「モキュ」

 みんなロゼの真似をして私に手を合わせる。もふぞーは手を合わせられないので頭を下げただけだけど。

 ……ちょっ!? こういうのすごく恥ずかしいんですけど! 思わず顔が熱くなる。

「……いや、だからこれは食材を作ってくれた農家さんとか……」

 恥ずかしさのあまり慌てて補足するが、うまく説明できない。

「こうするとリリアナ照れるの、かわいい」

 そう言ってロゼは、いたずらな笑みを浮かべた。

 ……全く、ロゼには敵わないなぁ


 * * *

 いつものように雑貨屋へと足を運ぶ。

「こんにちはー」

「いらっしゃい」
「こんにちはおねーちゃん」

 今日も雑貨屋に元気な声が響き渡った。

「そうだ、頼まれたもん。入ったよ」

「ほんとですか!?」

 思わず身を乗り出す。前に頼んでおいたものを仕入れてくれたらしい。

「レイナルドさんにお礼言っておいてください」

 受け取った品を大事に抱えながらそう言う。

「それ、アリサのためのものだろう? ならお礼を言うのはこちらのほうさ」

「いえいえ、私が好きでやってることだから」

 私は笑顔でそう返す。
 ケイトさんにはここに来たばかりの時からお世話になってるしね。それにアリサちゃんも大事な弟子だ。

「おねーちゃんそれ何?」

 アリサちゃんが首を傾げながら尋ねる。

「屋敷に着いたら教えるね」

「うん! 楽しみ!」

 こうして私たちは並んで歩き、屋敷へと戻るのだった。


 屋敷に戻り、テーブルの上に買ってきた包みを広げる。
 中から現れたのは、真新しい調合道具一式だった。

「アリサちゃん用の道具だよ」

「わ、私用の……! ありがとうございます!」

 ぱぁっと表情を輝かせるアリサちゃん。
 いつまでも私のを使わせるのも悪いしね。やっぱり、自分専用のものを持たせてあげたい。

 ついでに、大きめの鍋も買ってきた。
 蒸留水の作り方を教えるために必要なものだけど、台所にあれば何かと便利だろう。

「それじゃあまずは……道具を洗おう」

「洗うんですか?」

「うん。新しい道具には埃や見えない汚れがついてるかもしれないからね」

「わかりました!」

 アリサちゃんは嬉しそうに、自分専用の道具をひとつひとつ丁寧に洗っていく。
 時折、思い出したように「えへへ」と笑みをこぼす。――やっぱり、自分の道具を持てたのが本当に嬉しいんだろうな。

「それじゃあ……新しい道具を使う前に、蒸留水を作ってみようか」

「蒸留水……!」

 私は大鍋に水を張り、中央に五徳を置いて、その上にガラス容器を据える。
 火をかけ、鍋の口には蓋を逆さにしてかぶせる。蓋の傾斜を伝って滴る水滴が、中央のガラス容器に落ちていく仕組みだ。

「へぇ……こうやって作るんですね」

「そう。時間もかかるし、量も多くはないけど、きれいな水を得るには一番手軽なんだよ」

 アリサちゃんは興味深そうに、じっと鍋をのぞき込んでいた。

「それじゃあ、水がたまる間に新しい道具を試してみようか」

「はい!」

 しばらくして、乾燥ハーブが粉末になった頃。

「そろそろたまったかな?」

 私は蓋を少し開け、中の様子を確かめようとする。

「――熱っ!」

 反射的に手を引っ込める。

「おねーちゃん、大丈夫っ!?」

 アリサちゃんが慌てて身を乗り出してくる。
 ……失敗失敗。私は慌てて指先に回復魔法をかけた。

「うん、大丈夫。お鍋は熱いからね。アリサちゃんがやる時は気をつけよう」

「……はい」

 心配そうに返事をするアリサちゃん。
 ……うぅ、弟子の前で失敗しちゃった。幻滅されたかも。

 いや、気を取り直して。

「あとね、蒸留水を作る時は空焚きに気をつけよう。水がなくなったまま火をつけてると、鍋が焦げて火事になるかもしれないから」

「はい!」

「だから、ある程度沸騰したら火を止めちゃったほうが安全かもね」

「わかりました!」

 アリサちゃんは力強くうなずいた。
 ……よし、これでまた一歩、調合師らしくなってきたかな。

「それじゃあ、早速この蒸留水を使ってポーション、作ってみようか」

「はい!」

 こうして完成したポーションを、アリサちゃんは嬉しそうに見つめていた。


 * * *

 今日も、早めの水浴びに来ていた。
 アリサちゃんが「また泉で水浴びしたい」と言い出したからだ。
 
 みんなで連れ立って泉に着くと――そこには先客がいた。

 真っ白な体毛、澄んだ瞳。額には一本の角。
 ユニコーンだ。

「また、いる」
「いますねー。もしかして、私たちを待っていたんでしょうか?」

 ロゼとミミィが顔を見合わせながら言う。

「ユニコーンさん、こんにちは!」

 アリサちゃんが手を振ると、ユニコーンは小さくいなないて応えた。

「じゃあ、入ろうか」

 私たちは服を脱ぎはじめる。
 ……なんというか、馬とはいえ見られていると思うと、ちょっと抵抗があるなぁ。でも、獣だし……たぶん気にする必要はないはず。

「そういえば、ティンカさんって服は着ないんですか?」

 アリサちゃんがふと首をかしげる。

「あたしたちの種族には、そういう習慣は無いからね」

「そうなんですか……それにしても、ティンカさんの身体って……おねーちゃんにそっくりですね」

「そりゃあ、この姿になる時にリリアナ様を参考にしたからね!」

 ……なんですと!?

「ティンカ。今日は光の玉になっておこうか」

「えっ!? ……なんで? って、リリアナ様なんか怖い」

 「怖い」じゃない! それ、私の裸をそのまま晒してるのとほぼ同じじゃん!!
 いくら他の人には不可視にしているとはいえ、気分的にもう、恥ずかしいどころの話じゃない。

「今度からは、ティンカも服を着ようね」

「……はい」

 しょんぼりとうなずくティンカ。
 ……よし、これで次からは安心だ。

 そんなやり取りに、みんなくすくすと笑っていた。

 ――まったく、ティンカときたら。そういうのもっと早く教えてよね。
 私は小さくため息をつき、もふぞーの背をそっと撫でた。
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