追放聖女のもふもふスローライフ

臥龍岡四月朔日

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追放聖女のもふもふスローライフ

第26話 夜の襲撃と聖獣の加護

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「それじゃあ、ここで執事さんについていてください」

 私はマリーにそう言い残し、部屋を後にした。
 ――この村の聖女として、やれることはやらなければ。そう心に決めて。

 屋敷を出ると、いつの間にか馬車は玄関先に移され、青年団の人たちが天幕を張っていた。

「聖女様、申し訳ありません。ここを対策本部として使わせていただきます」

 ……まあ、いいけど。いざという時はここを最後の砦にするつもりだろう。貴族の屋敷は堅固に作られているので籠城するのに村で一番適していた。

「それで、状況はどうですか?」

 ディアンさんに尋ねる。

「今のところ、野盗が迫ってくる気配はありません。ただ……油断は禁物です」

「うん。多分来るなら夜……闇に紛れて襲ってくるはず」

 言葉にした途端、胸の奥に冷たいものが広がった。

「リリアナ!」

 頭上から声がして、ミミィが羽ばたきながら舞い降りてくる。そして着地と同時に人の姿へ――。

「ちょっ!?」

 思わず叫んでしまった。
 全裸のミミィがそこに立っていたのだ。

「え、あっ、ごめんなさいっ!」

 慌ててミミズクの姿に戻るミミィ。
 ディアンさんや青年団の人々は目を丸くし、口を半開きにしたまま固まっていた。

「……えっと、後でちゃんと説明します」

 私は気まずさを隠しつつ問いかける。

「それで、どうだった?」

「はい。村の外の森の影に、数人の人が隠れていました。村の様子をうかがっているみたいです」

「……多分、偵察かな」

 私は小さく息を呑む。
 ――となれば、夜になれば必ず動いてくる。
 村に危機が迫っていることを、改めて痛感した。

「引き続き、空から見張っていて。危険を感じたらすぐ戻るんだよ」

「はい!」

 ミミィは翼を広げ、再び大空へと舞い上がった。
 彼女がいて本当に良かった。空も飛べるし、夜目も効く。夜襲への警戒には最適だった。


 そして――夜。

 野盗たちは予想通り、暗闇に紛れて攻めてきた。意外にも真正面から。
 ザクソンの村は三方を森に囲まれている。おそらく危険な夜の森を避けたのだろう。ミミィの報告でも側面からの襲撃はなかった。

 村の入り口では自警団が応戦し、剣戟と怒号が飛び交う。

「私も前線に行きます! 私の力が役に立つはずですから!」

「はい!護衛は任せてください!」
「キュキュゥ!」
「私も行く」

 ディアンさん、もふぞー、ロゼが後に続く。
 私は戦う村人たちに祝福の加護をかけていく。光が彼らを包み、剣や槍に力を宿した。
 だがやはり、数で勝る野盗たちに自警団の人たちは押されていく。

 その時――。

 森の方から、長い遠吠えが響き渡った。

「……狼?」

 野盗の一人が、森から飛び出した影に襲われ、悲鳴を上げる間もなく首筋を噛み切られ絶命する。
 次の瞬間、森の闇を裂いて、無数の狼たちが姿を現した。

「な、なんだあれは!?」
「ひっ、ひぃぃ!」

 野盗たちが恐慌に陥る。自警団の皆も突然現れた狼を警戒する。
 だが狼の牙は野盗にのみ向けられていた。

「あれ、精霊王様の眷属だよ!」

 フードの中からティンカが声を上げる。

「皆さん! 狼は味方です! 決して攻撃しないで!」

 私の叫びに、村人たちは頷き、声を合わせて叫んだ。

「聖獣様の加護だ!」
「野盗を追い返すぞ!」

 その瞬間、形勢は一気に逆転した。
 狼たちが野盗を蹂躙し、村人たちが勇気を取り戻して反撃に転じる。

 夜の広場には、勝利を告げる咆哮が響き渡っていた。

 戦闘が終わると、私は傷ついた村人や狼たちをひとりずつ治療していった。

 その時だった。
 倒れたはずの野盗のひとりがもぞりと動き、這うようにしてクロスボウをこちらへ向けた。
 治療に集中していた私は、反応が遅れる。

「危ない、リリアナ!」

 気がつくと、私の前にロゼが立ちはだかっていた。
 クロスボウのボルトが彼女の胸を貫いていた。

「ロゼ!」

「リリアナ、大丈夫?」

「そんなことよりロゼが……!」

「私は、大丈夫」

 そう告げると、ロゼの身体は淡い光に包まれ、静かに消えていった。

「ロゼ……」

 ――私を守って。
 その一心で身を投げ出した彼女の姿に、胸が張り裂けそうになる。
 心は悲しみに打ちひしがれ、視界が滲んだ。

 ロゼを射た野盗はすぐに自警団に取り押さえられる。

「……だから、大丈夫」

 幻聴か。
 どこからともなく、ロゼの声が聞こえた。

「リリアナ?」

 その声に顔を上げる。
 そこに――ロゼが、立っていた。

「えっ……!? あ、ああ……」

 頭が混乱する。だがすぐに気づいた。
 そうだ、ここにいるロゼは「分身」だ。
 分身ならば倒されても消えるだけ。本体さえ無事なら、命を落とすことはないのだ。

「ば、化け物!」

 取り押さえられていた野盗が叫んだ。

「そうだ、俺は見た! 村人に声をかけ、狼どもを操り、その化け物を従えて……! お前が……!」

「おとなしくしてろ!」

 自警団の人が怒声を上げ、野盗を押さえつける力を強める。
 それでも野盗は憎悪を込めて叫んだ。

「この、魔女め!」

 その瞬間――。

 見えない力が働き、野盗の頭が地面に叩きつけられた。
 呻き声をあげる暇もなく、男は身動きを奪われる。

「リリアナ、馬鹿にする……許さない」

 ロゼの声は冷たく響いた。
 野盗の体はなおも見えぬ力に押さえつけられ、地面に沈み込む。

「ロゼ、やめて!」

 私が慌てて叫ぶと、彼女は小さく頷いた。

「……わかった」

 力が解け、野盗はぐったりと横たわる。
 気絶しているが、息はあるようだった。

 生き残った野盗達は拘束され、自警団の詰め所まで運ばれていった。
 上空で哨戒をしていたミミィからの報告で、あたりにはもう敵影は見当たらないとのことだった。

 気がつけば、東の空がゆっくりと白んでいく。
 ――もう、そんな時間か。

 村人たちもそれぞれ家へ帰り始める。
 私たちも、屋敷に戻ろう。

 戻ったらマリーにも報告しなきゃ。

 そういえば、昨晩は水浴びできなかったな……。
 マリーがいる間は森の泉には行けない。仕方がないから、家のお風呂を使うしかない。

 でも、今は何よりも屋敷に帰って、泥のように眠りたい。

「ロゼ、ミミィ、もふぞー。帰るよ」

「うん」
「はい!」
「キュキュゥ!」

 こうして、長い襲撃の夜は終わったのだった。


 * * * 

「リリアナ、大丈夫?」

 帰り道、ロゼが心配そうに尋ねてくる。

「うん、少し疲れたけど……大丈夫だよ」

 私はそう答え、無理にでも笑顔を作った。
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