追放聖女のもふもふスローライフ

臥龍岡四月朔日

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追放聖女のもふもふスローライフ

第27話 不安と恩寵

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 チュンチュン。

 小鳥たちの声に催促されるように目を覚ます。

 ……眠い。
 明け方まで動き回っていたせいで、体が鉛のように重い。
 でも、朝の支度をしないとね。

 隣では、みんながまだぐっすり眠っている。
 疲れ切った顔で眠る姿を見ると、起こす気にはなれなかった。
 私は静かに身を起こし、そっと台所へ向かう。

 鍋に火をかけ、野菜スープを仕込みながら、昨日のことを思い出す。

『魔女め!』

 昨日、野盗に言われた言葉だ。
 無能聖女に加えて、今度は魔女の烙印か。私がどう呼ばれるかは構わない。
 だけど、……もしかしたら、この村での生活は、もう終わってしまうのかもしれない。

 もしそうなったとしても、みんなのことは守ってあげないと。
 まずは村の人達に二人のことをちゃんと説明してあげないとね。
 なにせ、ミミィがミミズクの姿から変わる所も、撃たれたロゼが消えてまた現れる所も見られてしまったのだ。

「リリアナ! おはよう!」
「おはようございます、リリアナ嬢」

 明るい声に振り返ると、マリーとアルフレッドが立っていた。

「おはようございます。……アルフレッドさん、もう大丈夫なんですね」

「ええ、おかげさまで。リリアナ嬢、本当にありがとうございました」

 老執事は深々と頭を下げたあと、しばし私のことを見つめる。

「どうかしましたか?」

「いえ……何でもありません。失礼いたしました」

 小さく首を振って言葉を濁すアルフレッド。
 その眼差しは、感謝だけではなく、どこか測るような色を帯びていた。

「そろそろ朝ごはんができますので、よろしければどうぞ。お口に合うかわかりませんが」

 私はそう言って、湯気の立ち上る鍋をかき混ぜた。
 香ばしい野菜の香りが、少しだけ張り詰めていた空気を和らげていった。

「おはようございます」

 スープの匂いに誘われるように、ミミィが起き出してくる。今日はロゼがお寝坊さんだ。やっぱり分身とはいえ、消えるほどのダメージを受けたのは堪えるのかな?

「キュキュゥ」

 もふぞーも起き出してくるがその背にティンカはいない。よく見るともふもふの中に光の玉になって隠れていた。

 ロゼがまだ寝ているので、今日はミミィが畑の見回りのついでに瓶の回収をし、私が小鳥さんたちの食事を用意した。

 食事の準備が終わる頃、ロゼが起き出してきてみんなで朝ごはんだ。……ティンカの分はもふぞーの分と一緒にテーブルの下、マリーたちからは見えない位置に用意した。いくら見えなくしていても食べ物だけが消えていったら変だものね。

 今日はマリー達に合わせて「いただきます」ではなく神へ感謝の祈りを捧げる。
 ロゼもミミィも、空気を読んで一緒に祈ってくれた。

 食事を終えたあと、私はもふぞーとティンカを連れて雑貨屋へ向かう。

 ……気が重い。
 アリサちゃんに、私が正式な聖女じゃないと告白したばかりだし、村人からも昨日の件で怖がられているかもしれない。

 それでも平静を装い、私はいつもの調子で雑貨屋の扉を開けた。

「こんにちはー」

「いらっしゃい」
「おねーちゃん、こんにちは」

 ……二人とも、いつも通りだった。
 昨日の件が広まっていないのか、それとも気にしていないのか。
 いずれにしても、私の不安はただの杞憂だったのかもしれない。希望的観測にすぎないけれど、それでも胸が少し軽くなった。

「アリサちゃん、今日はどうする?」
「今日も行く!」

 即答するアリサちゃんに思わず笑みがこぼれる。

 アリサちゃんを連れて屋敷へ戻る途中、村人たちに声をかけられた。

「昨日はありがとうね」
「聖女様の活躍、すごかったな」

 ……正直、私はみんなを支えていただけなんだけど。
 それでも、誰一人として私や仲間を責める人はいなかった。
 いつものように接してくれる村人たちに囲まれ、胸の奥の不安がゆっくりと溶けていくのを感じた。


 アリサちゃんを連れて屋敷へ戻ると、別の問題が待っていた。

「まったく……アルフレッドったら、失礼にもほどがありますわ」

 マリーは語気を強め、憤慨していた。

「マリー様、何があったのですか?」

「アルフレッドときたら、命の恩人に向かって『得体が知れない』などと……」

 ああ……やっぱり。今朝からアルフレッドさん、私を警戒してる感じだったもんね。

 それにしても……無能聖女、魔女の次は「得体がしれない」か。レッテルのコレクションが増えていく……。

「……誠に申し訳ございません。少々、お話よろしいでしょうか?」

 アルフレッドさんが静かに声をかけてきた。
 すぐにマリーが彼をキッと睨みつける。

「マリー様、私たちとお話ししましょう」
「お話聞かせてください!」

 すぐさまロゼとミミィがマリーを誘う。うちの子達は察しがいいなぁ。

「アリサちゃんも」

「はい!私もマリー様のお話が聞きたいです!」

 ロゼの呼びかけにアリサちゃんも応える。
 みんながマリーを引き止めている間に、私はアルフレッドさんと二人きりになる。

「……それで、お話とは?」

 正直、「得体がしれない」対象が私というのが気になった。アルフレッドさんは昨日の事は知らないはずだ。

「……申し訳ございません。私の伝え方が拙かったのです」

「得体がしれない、とはどういう意味ですか?」

 問いかけると、アルフレッドさんは一瞬言葉を選ぶように目を伏せ、やがてゆっくりと口を開いた。

「リリアナ嬢、『恩寵ギフト』についてはご存知ですよね」

 もちろん知っている。神から授かる特殊な力――。『聖女の力』もその一つだ。

「……私は『鑑定』という恩寵を持っております。対象を視ることで、その者の本質をある程度、知ることができるのです」

 ……なるほど。便利だけど、プライバシーが丸裸にされそうでちょっと嫌かも。

「この力で、ロゼ嬢が『人形精霊』であること、ミミィ嬢が『シェイプチェンジャー』であること、そして、そちらのフードに隠れているお嬢さんが『小妖精』であることも承知しております」

 そこまで……全部わかっちゃうの?

「ですが――リリアナ嬢。あなたのことだけは、不明な点が多すぎるのです。そして……もふぞー殿に至っては、まったく鑑定できませんでした。このようなことは初めてのことです」

 アルフレッドさんの瞳は真剣で、冗談を言っているようには見えなかった。

「私はこの力でお嬢様をお守りしてきました。野盗のような暴力には無力ですが……それでも、危険を見抜くことはできる。なのに――あなたともふぞー殿は、まるで霧の向こうにいるように見えないのです。……だからこそ、お嬢様に報告いたしました」

「……なるほど。そういうことでしたか」

 事情はわかった。でも、なんで私だけそんな得体のしれない扱いになってるの?

「正直、身に覚えがないので困惑してます」

 でも、ロゼたちのことが分かるのに私だけ分からないなら……そりゃ警戒されても仕方ないか。

「リリアナ嬢が悪人でないことは、私も承知しております。……改めて、無礼をお詫びします」

「いえいえ、事情は理解しましたので頭を上げてください」

「ところで――身に覚えがないということは、『聖女の力』以外の恩寵についても把握されていないのですか?」

「えっ!? 私、『聖女の力』以外にも恩寵持ってるの!? それってどういう?」

「……はい。『ある』ことは確かに分かるのですが……それ以上は、私の目をもってしても見えないのです」

 ……そう言えば、忘れてたけど私、転生者だった。もしかしたらそっち関係の何かかもしれない。見えないのもそのせいとか?
 ……まあ、わからないものを気にしても仕方ないか。

「まあ、誤解は解けたので戻りましょうか」

「はい、お嬢様にはこのことは内密に」

「わかりました。二人だけの秘密ですね」

「私もいるよー」

 フードの中からティンカが顔を出す。……そう言えばすっかり忘れていた。
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