渇望の覇王が寵愛したのは、平凡な少年でした

冬苑

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★プロローグ

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 天蓋から落ちる絹のとばりが、世界のすべてを隔てていた。
 うつ伏せにさせられた豪奢な寝台の上で、少年はシーツを固く握りしめている。
 指の節が白くなるほど力を込めても、体の震えは止まらない。
 いつもは畑仕事で土にまみれている自分の指と、この世の物とは思えぬほど滑らかなシーツの感触が、あまりに不釣り合いだった。

 背後に、男の気配がある。
 この城の主、そして、つい先日まで敵国の王であったはずの男。
 その男が、少年のすぐ傍らに膝をついている。

「……っ!」

 不意に、熱を帯びた何かが尾てい骨のあたりに触れた。
 ひやりとした粘り気のある液体と共に、ごつりとした指が、これまで誰にも触れられたことのない場所に押し当てられる。
 少年は息を呑み、身を硬くした。

 つぷり――

 初めての感覚。
 異物が内側をこじ開けようとする違和感。

 粘度の高い香油をたっぷりとまとった男の指が、少年の入り口をなぞり、探り、そして、ゆっくりと熱を分け与えるように侵入してくる。

「ひ、…ぁ……っ」

 声にならない悲鳴が、喉の奥でくぐもった。
 少年はなけなしの力で体を固くし、侵入を拒もうとする。
 だが、それは赤子が巨人に抗うような、無意味な抵抗に過ぎなかった。

「……狭いな」

 男が、低く呟いた。
 その言葉が、少年の羞恥心をさらに煽る。
 一本だけ差し入れられた指は、少年の頑なな抵抗にあい、先へ進むのに苦戦しているようだった。

「ぁ……ぅ、や、め…っ」

 少年の懇願は、途切れ途切れの喘ぎに変わる。
 男は少年の抵抗など意にも介さず、一度抜いた指に更にたっぷりと香油を掬い取ると、再度その指を入り口に押し付けた。

 くちゅ…、ぐちゅり

 粘膜と油が混じり合う、聞きたくない水音が耳に届く。
 指が無理やりこじ開けようとするたびに、ぴちゃ、と生々しい音が響いた。
 少年はシーツに顔を埋め、ただ喘ぐことしかできない。

「は、ぁ…っ、…ぅ、あ……」

 男の指は、焦らすようにゆっくりと、執拗に内側を掻き回す。
 そのたびに体がびくりと跳ね、硬く閉ざされた場所が、否応なく熱い異物を受け入れる形にされていくのだった。

「力を抜け」

 頭上から、地の底を這うような低い声が降ってきた。
 命令、というよりは、決定事項を告げる響き。
 そんなことを言われても、どうすればいいのか分からない。
 呼吸すらままならず、ただシーツを握りしめることしかできない。

 なぜ、自分が。
 少年は自問する。

 ついこの間まで、辺境の村で、畑を耕すだけの平凡な生活を送っていたはずだ。

 なぜ、この城に。
 家族同然だった村人たちを守ろうとして、敵である男の目に留まった。
 ただ、それだけだったはずだ。

 なぜ、王の寝所へ──。

 自問は答えを得られぬまま、暗い思考の渦に沈んでいく。
 その間にも、男の指は執拗に内壁を掻き回し、少年が今まで知らなかった体の道を、その巨大な存在で満たすための準備を、着々と進めていた。

 未知の感覚に怯えながら、少年の記憶は一月ひとつき前に遡る――
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