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☆バルデン王宮にて☆
バルデン15世は夕食後、自室に息子であり王太子でもあるテレスを招き入れた。1番自分が特に愛情を注いだ息子と2人で雑談をすることが、多忙な国王にとって安らぎのひとときであった。
バルデン15世は、テレスの真心を信じていた。他の息子や娘たちに比べても、自分のテレスに対する愛情は格別なものであると認識していた。
テレスは、実は次男である。本来、バルデン王国の王位継承における伝統として、在位中の国王の長男が自動的にその地位を受け継ぐという不文律があった。そしてはじめのうちはバルデン15世もそのつもりだった。
しかし、長男のルザルのことがどうも気に入らなかった。ルザルのことを国王にふさわしいかどうかという目線で見た場合に、どうしてもそうは思えなかったのである。はっきりした答えは出ていない。が、抽象的な観念でいうととにかく「弱い」のである。常にルザルはテレスによって言い負かされ、悪戯を暴かれ、鼻を明かされてきた。言ってしまえばテレスとルザルは光と闇。もちろん、光はテレスである。少なくともバルデン15世は、そう考えていたのである。そういう考えから、彼はルザルから王太子の地位を剥奪し、テレスに与えた。今までの慣例を無視した、異例の決断であった。
「しかし、とんだ災難だったな、テレスよ」
「とんでもございません。私はセルナとその家族を貧困から救えただけでもよかったと思っております。たとえ私の善意を踏みにじられたとしても」
「テレス、お前はなんてできたやつなんだ。それでこそ国王の地位にふさわしいというものだ。にしても、あの恩知らずの小娘が…! まあいい。その件についてはあの一族に何かしら制裁を課すことにしよう」
テレスの口元が一瞬緩んだ。国王はもちろん気づかなかった。
「そんなことより父上。先ほどルザルが、料理番を怒鳴りつけておりました。野菜が嫌いとのこてです」
「何? あの馬鹿息子が。やつは王家の心配分子だ。まったく、どうしようもない。お前を見習ってほしいよ」
そう言って国王は笑った。事実、ルザルは料理番を怒鳴りつけたりなどしていない。1から10までテレスが作り上げた話である。もちろん、ルザルを貶めるために。これはテレスの常套手段である。このようなやり方によって、テレスは現在の地位を手中に収めているのだ。
「にしても、テレス。お前はイザモアを大切にしてやれ。嫌な女にいびられ続けた侍女を救った王太子テレス。お前の支持は絶大なものとなる」
「い、いえ父上。私はただ、イザモアのことを愛しているだけです」
もちろん、気分屋のテレスは、とっくにイザモアのことなど考えていなかった。考えていることは父である国王と同じ。自分に酔いしれているだけだった。
バルデン15世は夕食後、自室に息子であり王太子でもあるテレスを招き入れた。1番自分が特に愛情を注いだ息子と2人で雑談をすることが、多忙な国王にとって安らぎのひとときであった。
バルデン15世は、テレスの真心を信じていた。他の息子や娘たちに比べても、自分のテレスに対する愛情は格別なものであると認識していた。
テレスは、実は次男である。本来、バルデン王国の王位継承における伝統として、在位中の国王の長男が自動的にその地位を受け継ぐという不文律があった。そしてはじめのうちはバルデン15世もそのつもりだった。
しかし、長男のルザルのことがどうも気に入らなかった。ルザルのことを国王にふさわしいかどうかという目線で見た場合に、どうしてもそうは思えなかったのである。はっきりした答えは出ていない。が、抽象的な観念でいうととにかく「弱い」のである。常にルザルはテレスによって言い負かされ、悪戯を暴かれ、鼻を明かされてきた。言ってしまえばテレスとルザルは光と闇。もちろん、光はテレスである。少なくともバルデン15世は、そう考えていたのである。そういう考えから、彼はルザルから王太子の地位を剥奪し、テレスに与えた。今までの慣例を無視した、異例の決断であった。
「しかし、とんだ災難だったな、テレスよ」
「とんでもございません。私はセルナとその家族を貧困から救えただけでもよかったと思っております。たとえ私の善意を踏みにじられたとしても」
「テレス、お前はなんてできたやつなんだ。それでこそ国王の地位にふさわしいというものだ。にしても、あの恩知らずの小娘が…! まあいい。その件についてはあの一族に何かしら制裁を課すことにしよう」
テレスの口元が一瞬緩んだ。国王はもちろん気づかなかった。
「そんなことより父上。先ほどルザルが、料理番を怒鳴りつけておりました。野菜が嫌いとのこてです」
「何? あの馬鹿息子が。やつは王家の心配分子だ。まったく、どうしようもない。お前を見習ってほしいよ」
そう言って国王は笑った。事実、ルザルは料理番を怒鳴りつけたりなどしていない。1から10までテレスが作り上げた話である。もちろん、ルザルを貶めるために。これはテレスの常套手段である。このようなやり方によって、テレスは現在の地位を手中に収めているのだ。
「にしても、テレス。お前はイザモアを大切にしてやれ。嫌な女にいびられ続けた侍女を救った王太子テレス。お前の支持は絶大なものとなる」
「い、いえ父上。私はただ、イザモアのことを愛しているだけです」
もちろん、気分屋のテレスは、とっくにイザモアのことなど考えていなかった。考えていることは父である国王と同じ。自分に酔いしれているだけだった。
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