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六話 剣に死ね 中
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剣聖アラストールが俺の前に立っている。
剣聖なんて大した事、言われてるけど普通のおっさんじゃないか。
騎士団百人抜き、そしてアラストールのおっさんを倒して俺は勇者として旅に出るんだ。
「必ず勝ってくるぜ」
俺は振り返ると、自分でイケてると思う角度で、俺の女達に向けてにこやかに微笑んでやった。
「お前達のためにな!」
やべえ、これマジ決まったろ……!
……と思ったけど、あれ? リアクションがない……?と思った瞬間だった。
「キャァァァァァァ!」
すげー大歓声が俺目掛けて、一斉に押し寄せてきた。
「勝てよ、アカツキ!」
「ミ、ミィはご主人様が勝つって信じてます!」
「あ、あんたが負けるとは思ってないけど……怪我するんじゃないわよ!」
これが俺の絆。
前の世界では誰とも繋がれなかった暁 良二ではなく、今は勇者リョウジ アカツキだ。
昔からやっていた剣道で、このカイセイア王国を救う勇者アカツキだ!
「来い、聖剣エクスカリパー!」
空から稲光を纏い、勇者にしか使えない聖剣エクスカリパーが現れ、俺の手に収まる。
『絶対不壊』の力を持ったエクスカリパーでなければ、『信じる心を力にする』能力を持った勇者の力には耐えられないんだ。
「行くぞ、剣聖……奥義の貯蓄は充分か?」
「……………」
なんだよ、おっさんノリ悪ィな。
ここは勇者の敵らしく、ビシッとやられ役のセリフ言ってくれないとさ。
そんな時だった。
おっさんの背後の人だかりから、白いドレスを着た女が現れたのは。
よく目を引く赤いルージュを塗った唇は、今にもとろけそうな甘さを湛えていて、潤んだ青い瞳は俺をじっと見つめている。
「……やべえな、こいつは」
俺のハーレムの女達と比べても、いや……それ以上に綺麗だ。
そんな女が俺に……恋しちゃってるとか。
しかも、腰にあるのは日本刀か? こっちの世界にもあるのか。
なるほど、あれを俺に献上しようってわけね。
あんな美人さんに惚れられちゃったなら、
「これは……格好いい所、見せるしかないよなァァァァ!」
勝負は先手必勝!
俺は足元に魔力を集めて、爆発させ前に出る。
騎士団の誰もが見切れなかった―――名付けて、ライトニングムーブだ!
案の定、おっさんは見切れなかったらしく、だけどやっぱり腐っても剣聖、振り下ろしたエクスカリパーを勇者である俺ほどの人間でも見えないくらいのスピードで、防いでみせた。
「やるな、おっさん!」
おっさんのノリが悪い事はもうわかっているから、返事は期待してない。
後ろにバックステップしてから、今度は右から周りこんでやる。
直線的な攻撃は止められても、この左右の揺さぶりは止められまい!
「ウオオオオオ、ライトニングファントムストライク!!!」
全方位、360゜から繰り出される俺の必殺技ライトニングファントムストライクは、一発二発はおっさんくらいでも止められるだろう。
しかし、十発、百発、千発と繰り出される雷光のような乱打を止められはしない!
おっさんの鎧を砕き、宙に跳ね上げた所でトドメの一撃を決めてやる……!
「あっれ?」
という所でさっきの美人さんをちらりと見たら……一度だけクラスの子とデートをして、必死に頑張って喋ったはいいけど、だだ滑りして帰られた時の表情と同じ顔になっていた。
ど、どういう事、これ!?
なんという、茶番だろうか。
勇者と思われる少年の攻撃は、全てアラストール卿が綺麗に自らの鎧で防がせている。
厚い鉄板で出来た鎧は、確かに見かけこそ派手に穴やへこみやらが出来ているが、その実、アラストール卿の身に傷はないだろう。
その技量はさすが剣聖と言うしかない。
それに比べ、アラストール卿の配慮に気付かない勇者の見苦しさよ。
「はぁ……はぁ……や、やっと追い付きましたよ、お嬢様!」
「帰るぞ、爺」
「え、ええっ!? あんなに凄いじゃないですか!」
「……見せ物、か」
マゾーガの声もどこか沈んでいた。
我々、武芸者は強い存在に恋い焦がれる。
それが虚名だった。
百回、剣を振り回し、それで相手が斬れないのなら己の未熟を恥じるべきだろう。
それをあのように誇示するように闇雲に剣を振り回す相手など、チィルダで斬るに値しない。
真の強者のみを斬る刀であるべきだ。
無意味な弱者の血を啜るだけのくだらない刀に、チィルダをしたくない。
「仕方ない……」
勇者に比べて名こそ落ちるが、まずはアラストール卿を斬ろう。
だが……アラストール卿の身のこなし、私に出来るか。
鎧の厚い部分、薄い部分を把握し、相手の斬撃を見切り、わざと破壊させ、それでもなお無傷など生半可な腕ではあるまい。
そう考えていけば、萎んだ私の心が再び浮き立ち始める。
だが問題は立ち合いを受けてくれるか、だな。
失う物がほとんどない私に比べ、アラストール卿は失う物が多いだろう。
それにチィルダの名を高めるためには、私が勝ったと何人もの人間が見ていなければ意味がない。
……闇討ち出来れば、手っ取り早く立ち合えるのだが。
「マゾーガ、あとでちょっと相談に乗ってくれ」
「ああ」
私達はくだらぬ茶番に背を向けた。
「ちょっと待った、そこの美人さん!」
まぁ今日はせっかくの王都である事だし、適当に飯でも食いに行くとしよう。
「お嬢様……あの、勇者様が呼んでるようなのですが」
爺が私のドレスを引いてくる。
「気のせいだろ」
「いやいや、気のせいじゃねーから! 俺が、勇者の俺が! あんたを呼んでるんだって!」
「ばかめと言ってやれ、爺」
「言えませんよ、そんな事!?」
はぁ……お前が無視していれば、さっと逃げられたものを。
すでに私の忍耐は売り切れている。
帰りたいと心底、思いながら私は振り返った。
「なんの用でしょうか、勇者様」
なるべく失礼のないように、取り繕った笑顔を浮かべ、なるべくうんざりした内心が出ないように言ってやる。
いまさら手遅れだろうな、と思ったが、勇者は好色以外が見当たらないだらしない笑みを浮かべた。
「あんたの腰に差してる刀、俺に献上するために持ってきたんだろ? 恥ずかしがらずに渡してもいいんだぜ」
「……は?」
勇者が何を言っているのか、私には理解が出来ない。
何がどうなって、そんな結論が出るんだ。
チィルダを渡せ、だと。
「お、そうか! これは私に勝ったら、刀も私もお好きにってイベントか。 いいぜ、勇者様が相手してやる!」
「おお、さすがは勇者様だ! 恥ずかしがる乙女の気持ちを汲んでこんな形に持ち込んで差し上げるなんて!」
誰かがそう叫ぶと、辺りを囲んでいた民衆が熱狂に包まれる。
勇者という存在は、前の世で言う所なら仏が世界を救うために現れた、というようなものだろうから、この熱狂もわからなくはない。
誰かが自分をタダで守ってくれるなら、そら感謝の百や二百をしても惜しくはないはずだ。
感謝で財布は減らんしな。
生贄が私でなければ、私も感謝くらいはしてやろう。
「ア、アカツキの浮気者っ!」
「英雄、色を好むというやつだろう、仕方あるまい」
「ご主人様ァ、頑張ってくださーい!」
だが、あの勇者の女達の中に混じる気は一切、無い。
男として、人として尊敬出来ぬ相手に、尻尾を振って、生きてたまるか。
「いいでしょう」
私は人ごみから一歩、前に出た。
「借りますよ」
「お、おう!?」
まだ何故かへたり込んでいる貴族から、杖を借り受ける。
特に何があるわけでもない、ただの木の杖だ。
「私に勝てれば、貴方のお好きなように」
まったくどうしようもない話だが、ここまでどうしようもないと逆に面白い。
更ににやける勇者の顔面に、どでかい穴を開けてやりたいという気持ちを必死に抑え、
「しかし、この見せ物の主役、私が頂きます」
今、出来る最高の笑みを浮かべ、私は勇者に向かい合った。
剣聖なんて大した事、言われてるけど普通のおっさんじゃないか。
騎士団百人抜き、そしてアラストールのおっさんを倒して俺は勇者として旅に出るんだ。
「必ず勝ってくるぜ」
俺は振り返ると、自分でイケてると思う角度で、俺の女達に向けてにこやかに微笑んでやった。
「お前達のためにな!」
やべえ、これマジ決まったろ……!
……と思ったけど、あれ? リアクションがない……?と思った瞬間だった。
「キャァァァァァァ!」
すげー大歓声が俺目掛けて、一斉に押し寄せてきた。
「勝てよ、アカツキ!」
「ミ、ミィはご主人様が勝つって信じてます!」
「あ、あんたが負けるとは思ってないけど……怪我するんじゃないわよ!」
これが俺の絆。
前の世界では誰とも繋がれなかった暁 良二ではなく、今は勇者リョウジ アカツキだ。
昔からやっていた剣道で、このカイセイア王国を救う勇者アカツキだ!
「来い、聖剣エクスカリパー!」
空から稲光を纏い、勇者にしか使えない聖剣エクスカリパーが現れ、俺の手に収まる。
『絶対不壊』の力を持ったエクスカリパーでなければ、『信じる心を力にする』能力を持った勇者の力には耐えられないんだ。
「行くぞ、剣聖……奥義の貯蓄は充分か?」
「……………」
なんだよ、おっさんノリ悪ィな。
ここは勇者の敵らしく、ビシッとやられ役のセリフ言ってくれないとさ。
そんな時だった。
おっさんの背後の人だかりから、白いドレスを着た女が現れたのは。
よく目を引く赤いルージュを塗った唇は、今にもとろけそうな甘さを湛えていて、潤んだ青い瞳は俺をじっと見つめている。
「……やべえな、こいつは」
俺のハーレムの女達と比べても、いや……それ以上に綺麗だ。
そんな女が俺に……恋しちゃってるとか。
しかも、腰にあるのは日本刀か? こっちの世界にもあるのか。
なるほど、あれを俺に献上しようってわけね。
あんな美人さんに惚れられちゃったなら、
「これは……格好いい所、見せるしかないよなァァァァ!」
勝負は先手必勝!
俺は足元に魔力を集めて、爆発させ前に出る。
騎士団の誰もが見切れなかった―――名付けて、ライトニングムーブだ!
案の定、おっさんは見切れなかったらしく、だけどやっぱり腐っても剣聖、振り下ろしたエクスカリパーを勇者である俺ほどの人間でも見えないくらいのスピードで、防いでみせた。
「やるな、おっさん!」
おっさんのノリが悪い事はもうわかっているから、返事は期待してない。
後ろにバックステップしてから、今度は右から周りこんでやる。
直線的な攻撃は止められても、この左右の揺さぶりは止められまい!
「ウオオオオオ、ライトニングファントムストライク!!!」
全方位、360゜から繰り出される俺の必殺技ライトニングファントムストライクは、一発二発はおっさんくらいでも止められるだろう。
しかし、十発、百発、千発と繰り出される雷光のような乱打を止められはしない!
おっさんの鎧を砕き、宙に跳ね上げた所でトドメの一撃を決めてやる……!
「あっれ?」
という所でさっきの美人さんをちらりと見たら……一度だけクラスの子とデートをして、必死に頑張って喋ったはいいけど、だだ滑りして帰られた時の表情と同じ顔になっていた。
ど、どういう事、これ!?
なんという、茶番だろうか。
勇者と思われる少年の攻撃は、全てアラストール卿が綺麗に自らの鎧で防がせている。
厚い鉄板で出来た鎧は、確かに見かけこそ派手に穴やへこみやらが出来ているが、その実、アラストール卿の身に傷はないだろう。
その技量はさすが剣聖と言うしかない。
それに比べ、アラストール卿の配慮に気付かない勇者の見苦しさよ。
「はぁ……はぁ……や、やっと追い付きましたよ、お嬢様!」
「帰るぞ、爺」
「え、ええっ!? あんなに凄いじゃないですか!」
「……見せ物、か」
マゾーガの声もどこか沈んでいた。
我々、武芸者は強い存在に恋い焦がれる。
それが虚名だった。
百回、剣を振り回し、それで相手が斬れないのなら己の未熟を恥じるべきだろう。
それをあのように誇示するように闇雲に剣を振り回す相手など、チィルダで斬るに値しない。
真の強者のみを斬る刀であるべきだ。
無意味な弱者の血を啜るだけのくだらない刀に、チィルダをしたくない。
「仕方ない……」
勇者に比べて名こそ落ちるが、まずはアラストール卿を斬ろう。
だが……アラストール卿の身のこなし、私に出来るか。
鎧の厚い部分、薄い部分を把握し、相手の斬撃を見切り、わざと破壊させ、それでもなお無傷など生半可な腕ではあるまい。
そう考えていけば、萎んだ私の心が再び浮き立ち始める。
だが問題は立ち合いを受けてくれるか、だな。
失う物がほとんどない私に比べ、アラストール卿は失う物が多いだろう。
それにチィルダの名を高めるためには、私が勝ったと何人もの人間が見ていなければ意味がない。
……闇討ち出来れば、手っ取り早く立ち合えるのだが。
「マゾーガ、あとでちょっと相談に乗ってくれ」
「ああ」
私達はくだらぬ茶番に背を向けた。
「ちょっと待った、そこの美人さん!」
まぁ今日はせっかくの王都である事だし、適当に飯でも食いに行くとしよう。
「お嬢様……あの、勇者様が呼んでるようなのですが」
爺が私のドレスを引いてくる。
「気のせいだろ」
「いやいや、気のせいじゃねーから! 俺が、勇者の俺が! あんたを呼んでるんだって!」
「ばかめと言ってやれ、爺」
「言えませんよ、そんな事!?」
はぁ……お前が無視していれば、さっと逃げられたものを。
すでに私の忍耐は売り切れている。
帰りたいと心底、思いながら私は振り返った。
「なんの用でしょうか、勇者様」
なるべく失礼のないように、取り繕った笑顔を浮かべ、なるべくうんざりした内心が出ないように言ってやる。
いまさら手遅れだろうな、と思ったが、勇者は好色以外が見当たらないだらしない笑みを浮かべた。
「あんたの腰に差してる刀、俺に献上するために持ってきたんだろ? 恥ずかしがらずに渡してもいいんだぜ」
「……は?」
勇者が何を言っているのか、私には理解が出来ない。
何がどうなって、そんな結論が出るんだ。
チィルダを渡せ、だと。
「お、そうか! これは私に勝ったら、刀も私もお好きにってイベントか。 いいぜ、勇者様が相手してやる!」
「おお、さすがは勇者様だ! 恥ずかしがる乙女の気持ちを汲んでこんな形に持ち込んで差し上げるなんて!」
誰かがそう叫ぶと、辺りを囲んでいた民衆が熱狂に包まれる。
勇者という存在は、前の世で言う所なら仏が世界を救うために現れた、というようなものだろうから、この熱狂もわからなくはない。
誰かが自分をタダで守ってくれるなら、そら感謝の百や二百をしても惜しくはないはずだ。
感謝で財布は減らんしな。
生贄が私でなければ、私も感謝くらいはしてやろう。
「ア、アカツキの浮気者っ!」
「英雄、色を好むというやつだろう、仕方あるまい」
「ご主人様ァ、頑張ってくださーい!」
だが、あの勇者の女達の中に混じる気は一切、無い。
男として、人として尊敬出来ぬ相手に、尻尾を振って、生きてたまるか。
「いいでしょう」
私は人ごみから一歩、前に出た。
「借りますよ」
「お、おう!?」
まだ何故かへたり込んでいる貴族から、杖を借り受ける。
特に何があるわけでもない、ただの木の杖だ。
「私に勝てれば、貴方のお好きなように」
まったくどうしようもない話だが、ここまでどうしようもないと逆に面白い。
更ににやける勇者の顔面に、どでかい穴を開けてやりたいという気持ちを必死に抑え、
「しかし、この見せ物の主役、私が頂きます」
今、出来る最高の笑みを浮かべ、私は勇者に向かい合った。
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