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九話 Not in Education, Employment or Training 中下
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「てめえ……コルデラート一家に逆らう気か!」
チンピラは長目のナイフを懐から抜くと、オークの正面に立った。
そのくせ近付く気はないらしく、戦斧の間合いに入ろうとはしていない。
チンピラの問い掛けに対して、オークは無言だ。
答えるまでもない、と態度で示すのみ。
「あんまりおてんばが過ぎるのは、ちょっと笑えねえな……」
魔術師が不快げに口を歪める。
この状況は間違いなく悪い。
二対一という不利は言うまでもなく、それ以上に勇者として召喚された時に教わった対魔術師戦闘でなってはいけない状況に陥っている。
まず隠れる場所の無い所で魔術師と戦うべきじゃない。
現場はきちんと整理され、オークの巨体が隠れられる都合のいい物はなかった。
そして、数の差がある時に戦うべきじゃない。
小さな雷に打たれただけでも、スタンガンを食らったみたいに俺のように動きを止められてしまう。
もしソフィアさんがいれば、どちらか一人が雷を受けても、残った一人が魔術師を倒せばいい。
でも、もし僅かな間でも動けなくなってしまえば、チンピラにトドメを刺されてしまうだろう。
明らかに攻め気はなく、時間稼ぎをする姿勢のチンピラは、魔術師を味方にした戦い方を熟知している。
自分で敵を倒す必要はない。 ただ魔術師が相手の動きを止めればいいのだから、これほど楽な戦いはなく、それがわかっているチンピラはにたにたといやらしい笑みを浮かべて、オークを見つめる。
「俺と兄貴のコンビに、たった一人で勝てると思ってんのか?」
「おでを、無駄口で殺せるのか」
ピシリ、と亀裂の入った音がした。
それはほんの少しくらいは残っていたかもしれない、丸く収まる可能性が割れた音で、チンピラの堪忍袋が切れた音で、
「殺すなら、黙って殺せ」
オークの斧が風を砕く音だ。
まだ何事か言おうとしていたチンピラは、あっと言う間に間合いを詰めたオークが下から上に跳ね上げた斧でかち上げられる。
「人って……あんな風に飛ぶのか」
呆けたようなシーザー先輩の声の通り、チンピラがトラックに跳ねられたかのようにぽーんと放物線を描き、近くにあった二階立ての建物の屋根に乗った。
ピクリとも動かないチンピラの手から零れたナイフが、下で人間の争いを無視して逃げもせずふてぶてしく昼寝をしていた猫の目の前に落ち、びっくりした猫は悲鳴を上げながら走り去る。
「ちっ、油断しやがって、サムの野郎!」
だけど、まだ魔術師は無傷のまま。
斧を振り上げた姿勢のオークは、武器の重さのせいで動きが取れずにいる。
魔術師の杖の先には、小さな雷の塊が三つ。
奇跡的に一発避けられたとしても、まだ二発も撃てるとなれば、
「ちくしょう……!」
俺のせいで皆が傷付く。
このままじゃシーザー先輩も親方も、露骨に冷たい態度をしていたのに、助けに来てくれたオークまで……こんな所で寝転がって何やってんだ、俺は!
「オーク!」
いつの間にか声が出ている事にも気付かず、俺は必死に脚に力を篭めた。
魔術師を倒せなくても、オークの盾くらいにはなれる。
動け、俺の足……!
「討て」
だけど間に合うはずもなく、俺が何とか立ち上がるのと、魔術師が雷を放つのはほぼ同時だった。
大した音もなく、人を殺す力もないけど、相手の動きを止めるだけの力を持った雷球がオークの胸にぶつかるのが、妙にはっきりと見え、
「フンッ」
「えええええええ!?」
ぱちん、と消えた。
避ける素振りも見せず、斧を下ろしたオークはそのまま土煙を上げながら戦車のように突進。
ふらつく様子もなく、しっかりとした足取りだ。
「あ、当たったはずだろ!?」
次弾を撃つ事を忘れ、動揺する魔術師にオークはさらりと言い放つ。
「筋肉があれば、問題ない」
「問題しかないわ!?」
筋肉すげー。
集中が切れたらしく、雷球を霧散させてしまった魔術師は、必死に杖をかざして防ごうとするが、そんな物で防げるはずもなく。
「お前、肉を食わないからだ」
オークの一撃は人体を水平に吹き飛ばし、石壁にめり込ます事が出来るという事を、俺は初めてしった。
「肉食えば、ああなれるのか……」
「先輩、無理っす!? そ、それよりオーク」
大丈夫か、と聞こうとした俺をオークは手を上げて制する。
「マゾーガだ」
「へ?」
「おでの名前は、マゾーガだ。 オークって名前じゃ、ない」
「ご、ごめん、マゾーガ」
「うん」
オーク、いや、マゾーガの表情はわかりにくいけど、心なしか満足げな雰囲気を出している気がする。
「そ、それより魔術食らったけど大丈夫なのか!」
俺はマゾーガの元に走り寄ると、雷球を食らった胸元に手を当てた。
ひょっとしたら我慢してるだけで、怪我してるんじゃ。
「お前、殴るぞ」
「ぐぼぉ!?」
マゾーガの顔を見ていたはずが、俺は地面にキスさせられていた。
多分、ボディブローかストレートが顔に刺さったんじゃないかな、痛すぎてわからないけどさ。
「なん……でだ……」
ソフィアさんに殴られた時と、マゾーガのパンチのどちらが痛かったか、そんな事を考えながら、俺は意識を手放した。
どっちが強烈かはわからないけど、とりあえずどっちも雷食らったより痛かった事だけは確かだ……。
チンピラは長目のナイフを懐から抜くと、オークの正面に立った。
そのくせ近付く気はないらしく、戦斧の間合いに入ろうとはしていない。
チンピラの問い掛けに対して、オークは無言だ。
答えるまでもない、と態度で示すのみ。
「あんまりおてんばが過ぎるのは、ちょっと笑えねえな……」
魔術師が不快げに口を歪める。
この状況は間違いなく悪い。
二対一という不利は言うまでもなく、それ以上に勇者として召喚された時に教わった対魔術師戦闘でなってはいけない状況に陥っている。
まず隠れる場所の無い所で魔術師と戦うべきじゃない。
現場はきちんと整理され、オークの巨体が隠れられる都合のいい物はなかった。
そして、数の差がある時に戦うべきじゃない。
小さな雷に打たれただけでも、スタンガンを食らったみたいに俺のように動きを止められてしまう。
もしソフィアさんがいれば、どちらか一人が雷を受けても、残った一人が魔術師を倒せばいい。
でも、もし僅かな間でも動けなくなってしまえば、チンピラにトドメを刺されてしまうだろう。
明らかに攻め気はなく、時間稼ぎをする姿勢のチンピラは、魔術師を味方にした戦い方を熟知している。
自分で敵を倒す必要はない。 ただ魔術師が相手の動きを止めればいいのだから、これほど楽な戦いはなく、それがわかっているチンピラはにたにたといやらしい笑みを浮かべて、オークを見つめる。
「俺と兄貴のコンビに、たった一人で勝てると思ってんのか?」
「おでを、無駄口で殺せるのか」
ピシリ、と亀裂の入った音がした。
それはほんの少しくらいは残っていたかもしれない、丸く収まる可能性が割れた音で、チンピラの堪忍袋が切れた音で、
「殺すなら、黙って殺せ」
オークの斧が風を砕く音だ。
まだ何事か言おうとしていたチンピラは、あっと言う間に間合いを詰めたオークが下から上に跳ね上げた斧でかち上げられる。
「人って……あんな風に飛ぶのか」
呆けたようなシーザー先輩の声の通り、チンピラがトラックに跳ねられたかのようにぽーんと放物線を描き、近くにあった二階立ての建物の屋根に乗った。
ピクリとも動かないチンピラの手から零れたナイフが、下で人間の争いを無視して逃げもせずふてぶてしく昼寝をしていた猫の目の前に落ち、びっくりした猫は悲鳴を上げながら走り去る。
「ちっ、油断しやがって、サムの野郎!」
だけど、まだ魔術師は無傷のまま。
斧を振り上げた姿勢のオークは、武器の重さのせいで動きが取れずにいる。
魔術師の杖の先には、小さな雷の塊が三つ。
奇跡的に一発避けられたとしても、まだ二発も撃てるとなれば、
「ちくしょう……!」
俺のせいで皆が傷付く。
このままじゃシーザー先輩も親方も、露骨に冷たい態度をしていたのに、助けに来てくれたオークまで……こんな所で寝転がって何やってんだ、俺は!
「オーク!」
いつの間にか声が出ている事にも気付かず、俺は必死に脚に力を篭めた。
魔術師を倒せなくても、オークの盾くらいにはなれる。
動け、俺の足……!
「討て」
だけど間に合うはずもなく、俺が何とか立ち上がるのと、魔術師が雷を放つのはほぼ同時だった。
大した音もなく、人を殺す力もないけど、相手の動きを止めるだけの力を持った雷球がオークの胸にぶつかるのが、妙にはっきりと見え、
「フンッ」
「えええええええ!?」
ぱちん、と消えた。
避ける素振りも見せず、斧を下ろしたオークはそのまま土煙を上げながら戦車のように突進。
ふらつく様子もなく、しっかりとした足取りだ。
「あ、当たったはずだろ!?」
次弾を撃つ事を忘れ、動揺する魔術師にオークはさらりと言い放つ。
「筋肉があれば、問題ない」
「問題しかないわ!?」
筋肉すげー。
集中が切れたらしく、雷球を霧散させてしまった魔術師は、必死に杖をかざして防ごうとするが、そんな物で防げるはずもなく。
「お前、肉を食わないからだ」
オークの一撃は人体を水平に吹き飛ばし、石壁にめり込ます事が出来るという事を、俺は初めてしった。
「肉食えば、ああなれるのか……」
「先輩、無理っす!? そ、それよりオーク」
大丈夫か、と聞こうとした俺をオークは手を上げて制する。
「マゾーガだ」
「へ?」
「おでの名前は、マゾーガだ。 オークって名前じゃ、ない」
「ご、ごめん、マゾーガ」
「うん」
オーク、いや、マゾーガの表情はわかりにくいけど、心なしか満足げな雰囲気を出している気がする。
「そ、それより魔術食らったけど大丈夫なのか!」
俺はマゾーガの元に走り寄ると、雷球を食らった胸元に手を当てた。
ひょっとしたら我慢してるだけで、怪我してるんじゃ。
「お前、殴るぞ」
「ぐぼぉ!?」
マゾーガの顔を見ていたはずが、俺は地面にキスさせられていた。
多分、ボディブローかストレートが顔に刺さったんじゃないかな、痛すぎてわからないけどさ。
「なん……でだ……」
ソフィアさんに殴られた時と、マゾーガのパンチのどちらが痛かったか、そんな事を考えながら、俺は意識を手放した。
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