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最終話 世界の全てを敵に回してでも 上下
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拳を切り落とす。
「焼けろよ!」
その切り口に向けて、一瞬で構成出来る範囲で全力の雷をぶちこむ。
「カカカ、刺激的だなあ、おい」
焼け焦げる切り口は、まばたき一つの間に再び再生してしまう。
なんて冗談みたいな光景だ。
「ヒドラより、可愛げがない……!」
「ヒドラより可愛げがあったら、魔王なんて名乗れるかよ」
まったくだなあ、と納得しかけてしまったけど、そういう問題じゃない。
十を超えた辺りから、魔王の腕を何本切ったか数えるのを僕はやめた。
無駄かもしれない、という弱気が数として示されるのは、なかなかつらいものがある。
魔王の拳には城塞都市でも使っていたように、少しでも想像力があるなら触れたいとは到底思えない黒い光を纏っていた。
反撃として放たれたストレート、風圧で花びらが散るのではなく、拳に向かって落ちるように集まる。
ぎりぎりでその拳を避ければ髪がそちらに引かれるのが感じられ、切り落とすと黒い光に腕自体が飲まれていく。
「ギャグ漫画じゃないんだぞ……」
そして、再生。
とかげの尻尾より、魔王の腕が軽いとか笑えない。
魔王の技量は初めて見た時に比べれば格段に上がっており、自分の身体の特性を活かしている。
斬られながら前に出る彼の腕を切り落とし続けているが、それ以上に手数が多い。
「おいおい、どうしたよ? なんで下がってんだ」
「うるさい……!」
魔王のきょとんとした表情に、無性に腹が立った。
斬っても斬ってもダメージになっている気配がないとか、どういう原理なんだ。
このままでは勝ち目はない。
「下がっても意味ねえだろ、来いよ」
大きく後ろに下がると魔王の挑発を無視し、深く息を吐く。
下がるな、と言ったという事は、下がられると不味いという事だろうか?
それとも剣には強くなる代わりに、魔術などには弱くなるような呪いじみた強化なのか……いや、さっき魔術を撃ち込んでも平然としていた。
何とかして弱点を見付けださないと……。
「何か下らねえ事を」
距離にして五歩はあった。
「考えてやがるな」
「なっ!?」
魔王の声が聞こえたのは、僕の正面ど真ん中だ。
「いいか、一つ教えておいてやる」
腰を落とし、右拳が引かれている。
次に来るのは、考えるまでもなく、考える暇もない。
「お前が今、考えているのは全部、間違いだ」
カタパルトから発進する戦闘機のような勢いで放たれた拳は、僕の顔面狙い。
「くっ」
掠めるように避けては、黒い光に吸い込まれてしまう。
飛び退くようにして避けた僕に、魔王は追随してくる。
「勇者の力が信じる心が力になるように」
足を止め、迎え撃つ。
左の軽く速いジャブを頭を振って避け、次に来る右ストレートを切り落として、何とか距離を取るんだ。
このままじゃ押しきられてしまう。
「魔王の能力ってやつがある」
予想通り、右ストレートが来る。
速いけど、ソフィアさんほどじゃない。
再生されようと、まだ対応は出来る。
何とか凌いで、反撃の機会を窺うしかない……!
振るう刃が魔王の腕に食い込み、
「そいつは」
皮一枚、食い込んだ所で止まった。
「『信じないなら、救わない』だ」
嘘だ、と目の前の光景が信じられなかった。
「お前、自分を疑ったな?」
そんなはずはない。
「てめえが迷えば迷うだけ、考えれば考えるだけ。 ただでさえ無敵の俺様が強くなっちまう」
負けないと、約束した。
ルーを守ると、誓った。
誰かを守ると、決めた。
「何勝手に負け犬の目になってんだよ、てめえは」
驚きに動きを止めてしまっていた僕を、魔王は軽く撫でるように蹴りあげる。
「あ」
と、思う間もなく、腹をどでかいハンマーで打ち抜かれたような衝撃。
打ち上げられ、風に吹かれた葉っぱのように僕の身体が宙を舞う。
そして、重力に捉えられ、落下を始め、
「くそっつまんねえ」
回し蹴り、だったように思う。
水切りの石でもこんなに跳ねないんじゃないか?と水平に吹き飛ばされながら、一発で飛びかかっている意識の中で考えた。
「てめえ勇者だろ。 あんだけ格好つけたんだろ、何へばってやがる。 手加減してやったんだぞ、さっさと起きろよ」
声は聞こえる。
「ふざけんな! この時を俺様がどれだけ楽しみにしてたと思うんだよ! 全っ然、本気出してねえんだ! さっさと立って、俺様を斬ってみせろよ!」
無理だ、と思った。
腹が、まだきちんとあるのかすらわからない。
勝てるはずがなかった、やっぱり僕なんかよりソフィアさんの方がよかったんだ、格好つけて上手くいった試しがない、僕は駄目だ、これじゃ駄目だ。
押さえ込んでいた弱音と弱気が、一気に吹き出す。
「俺様はてめえら人間ってやつを尊敬してんだよ」
怒り狂う魔王の叫びから、逃げ出したい。
「なのに、もう終わりなのか!?」
負けないと、約束した。
ルーを守ると、誓った。
誰かを守ると、決めた。
なのに、動けない。
「焼けろよ!」
その切り口に向けて、一瞬で構成出来る範囲で全力の雷をぶちこむ。
「カカカ、刺激的だなあ、おい」
焼け焦げる切り口は、まばたき一つの間に再び再生してしまう。
なんて冗談みたいな光景だ。
「ヒドラより、可愛げがない……!」
「ヒドラより可愛げがあったら、魔王なんて名乗れるかよ」
まったくだなあ、と納得しかけてしまったけど、そういう問題じゃない。
十を超えた辺りから、魔王の腕を何本切ったか数えるのを僕はやめた。
無駄かもしれない、という弱気が数として示されるのは、なかなかつらいものがある。
魔王の拳には城塞都市でも使っていたように、少しでも想像力があるなら触れたいとは到底思えない黒い光を纏っていた。
反撃として放たれたストレート、風圧で花びらが散るのではなく、拳に向かって落ちるように集まる。
ぎりぎりでその拳を避ければ髪がそちらに引かれるのが感じられ、切り落とすと黒い光に腕自体が飲まれていく。
「ギャグ漫画じゃないんだぞ……」
そして、再生。
とかげの尻尾より、魔王の腕が軽いとか笑えない。
魔王の技量は初めて見た時に比べれば格段に上がっており、自分の身体の特性を活かしている。
斬られながら前に出る彼の腕を切り落とし続けているが、それ以上に手数が多い。
「おいおい、どうしたよ? なんで下がってんだ」
「うるさい……!」
魔王のきょとんとした表情に、無性に腹が立った。
斬っても斬ってもダメージになっている気配がないとか、どういう原理なんだ。
このままでは勝ち目はない。
「下がっても意味ねえだろ、来いよ」
大きく後ろに下がると魔王の挑発を無視し、深く息を吐く。
下がるな、と言ったという事は、下がられると不味いという事だろうか?
それとも剣には強くなる代わりに、魔術などには弱くなるような呪いじみた強化なのか……いや、さっき魔術を撃ち込んでも平然としていた。
何とかして弱点を見付けださないと……。
「何か下らねえ事を」
距離にして五歩はあった。
「考えてやがるな」
「なっ!?」
魔王の声が聞こえたのは、僕の正面ど真ん中だ。
「いいか、一つ教えておいてやる」
腰を落とし、右拳が引かれている。
次に来るのは、考えるまでもなく、考える暇もない。
「お前が今、考えているのは全部、間違いだ」
カタパルトから発進する戦闘機のような勢いで放たれた拳は、僕の顔面狙い。
「くっ」
掠めるように避けては、黒い光に吸い込まれてしまう。
飛び退くようにして避けた僕に、魔王は追随してくる。
「勇者の力が信じる心が力になるように」
足を止め、迎え撃つ。
左の軽く速いジャブを頭を振って避け、次に来る右ストレートを切り落として、何とか距離を取るんだ。
このままじゃ押しきられてしまう。
「魔王の能力ってやつがある」
予想通り、右ストレートが来る。
速いけど、ソフィアさんほどじゃない。
再生されようと、まだ対応は出来る。
何とか凌いで、反撃の機会を窺うしかない……!
振るう刃が魔王の腕に食い込み、
「そいつは」
皮一枚、食い込んだ所で止まった。
「『信じないなら、救わない』だ」
嘘だ、と目の前の光景が信じられなかった。
「お前、自分を疑ったな?」
そんなはずはない。
「てめえが迷えば迷うだけ、考えれば考えるだけ。 ただでさえ無敵の俺様が強くなっちまう」
負けないと、約束した。
ルーを守ると、誓った。
誰かを守ると、決めた。
「何勝手に負け犬の目になってんだよ、てめえは」
驚きに動きを止めてしまっていた僕を、魔王は軽く撫でるように蹴りあげる。
「あ」
と、思う間もなく、腹をどでかいハンマーで打ち抜かれたような衝撃。
打ち上げられ、風に吹かれた葉っぱのように僕の身体が宙を舞う。
そして、重力に捉えられ、落下を始め、
「くそっつまんねえ」
回し蹴り、だったように思う。
水切りの石でもこんなに跳ねないんじゃないか?と水平に吹き飛ばされながら、一発で飛びかかっている意識の中で考えた。
「てめえ勇者だろ。 あんだけ格好つけたんだろ、何へばってやがる。 手加減してやったんだぞ、さっさと起きろよ」
声は聞こえる。
「ふざけんな! この時を俺様がどれだけ楽しみにしてたと思うんだよ! 全っ然、本気出してねえんだ! さっさと立って、俺様を斬ってみせろよ!」
無理だ、と思った。
腹が、まだきちんとあるのかすらわからない。
勝てるはずがなかった、やっぱり僕なんかよりソフィアさんの方がよかったんだ、格好つけて上手くいった試しがない、僕は駄目だ、これじゃ駄目だ。
押さえ込んでいた弱音と弱気が、一気に吹き出す。
「俺様はてめえら人間ってやつを尊敬してんだよ」
怒り狂う魔王の叫びから、逃げ出したい。
「なのに、もう終わりなのか!?」
負けないと、約束した。
ルーを守ると、誓った。
誰かを守ると、決めた。
なのに、動けない。
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