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最終話 世界の全てを敵に回してでも 下
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例えば世界平和。
一応、仮に、恐らく勇者な僕のわけだけど、僕一人で世界を平和に出来るはずもないし、僕が駄目なら他の人が何とかしようとするだろう。
僕ことリョウジ・アカツキが必ずやらなければいけない、というようなものではない。
例えばルー。
僕にとって、ルーは女神だ。
素面でルーを女神だと言えて、僕にとっての幸せだと思う。
だけど、その逆はどうだろう。
僕にルーはあらゆる意味で必要だし、側にいて欲しい。
一言で言うなら愛してる。
愛されている、という自覚もあるし、側にいたいと思ってくれている、という自惚れもあるわけで。
しかし、ルーテシア・リヴィングストンという少女にとって、リョウジ・アカツキは必要なんだろうか?
大貴族の娘で見目も麗しく、気立てもよい。
少しばかり押しが強いが、そこを瑕と見ない男は沢山いるだろう。
その中には彼女を愛する、僕よりハンサムで、僕より金持ちで、僕より性格がよくて、僕よりルーに相応しい誰かがいるはずだ。
この世界で生きる基盤を全く持っていない僕より、ルーを幸せにしてくれる誰かはごまんといる。
そこに悔しさと自分でもうんざりするようなネガティブだけど、ルーテシア・リヴィングストンにとって、リョウジ・アカツキは必須ではないんだ。
例えばソフィア・ネート。
貴族の娘と聞いた覚えがあるけど、きっと実際にはどこかのアマゾネスの族長かなにかだろう。
黙って大人しく動かなければ、鮮やかな金髪と碧眼、色気のある泣き黒子、スタイルだってかなりのものだし、礼儀作法もやる気になれば出来るらしい。
ただそれをやる気もなく、三度の飯より剣が好きという剣鬼だ。
彼女を幸せに出来るとしたら、どんな人なんだろうか。
見た目は拘りがありそうだし、金があるならそれに越したことはないと言うと思う。
だけど、それだけでソフィアさんは満足しないはずだ。
刃物の上で踊るような生き方をしているソフィアさんは、きっと最初だけは満足して、何日かすれば飽きて逃げ出す。
とはいえ、同じタイプの人間がいたとしたら、「こんにちは死ね」くらいのスピーディーな殺しあいが始まってしまう。
難儀な人だ。
僕にとってのルーが、ソフィアさんの前に現れればいいな、と思う。
少なくともそれが僕では絶対に、間違いなく、あり得ない。
正直な話をすれば、僕はソフィアさんの事を好きなのだろう。
しかし、それはルーに抱いているものとは決定的に違うし、甘やかさに満ちた関係になれるとも、なりたいとも思えない。
そして、友人と言うには何か違う。
気のおけない友人どころか、気を許した瞬間に斬られそうなスリル溢れる関係だ。
躊躇いなく人を斬れる感性は、あまり好きではない。
でもソフィアさんの技は、好きだ。
ひゅんひゅんと小気味よく風を切り、きらりきらりと刀が踊っているのを見ると、胸がすっとする。
刀が光を反射し、ソフィアさんを彩るように輝いていると、どこかの妖精のようにすら思えてくる時があったりもする。
まぁ、あんな物騒な妖精はどうかと思うけど。
ソフィアさんを見ていると、天才という言葉は決して褒め言葉ではないと気付かされてしまう。
彼女の剣は全てを投げ打った剣だ。
崖から飛び降りるように、全てを投げ出して剣を振るっている。
それは真似をしたいとは思えない。
人としての幸せを捨てて剣を振った先にあるのは、ぞっとするほど暗い場所だろう。
導いてくれる師にはしたい人ではない。
剣を見て盗んだ、という意味では師匠なのだろうけど、僕の中では間違いなく違うし、ソフィアさんも僕の師匠をしようという気は全くないだろう。
だけど、やっぱりソフィア・ネートという存在を賭けた剣は、泣きたくなるほど綺麗で。
僕がここにいる事自体が、何かの間違いで、あの綺麗な存在を汚してしまったとしか思えない。
「だから、せめて……」
僕が負ければ、更にソフィアさんの剣は貶められる。
あの綺麗な剣を、僕より劣る取るに足らないつまらないものだと誰にも言わせてなるものか。
「世界全てを敵に回してでも」
朦朧とする頭、どれだけの血が流れているのか。
血が流れれば、体重は軽くなるはずだ。
なのに立ち上がるだけの事が辛い。
たった二発まともに受けただけで、こんな有り様だ。
もしも魔王が、ただ別な種ならよかった。
魔王という圧倒的な、人間以上の存在なら仕方ないと言えたんだと思う。
だけど、彼は話の通じて、戦うための技を用意してきてしまった。
なら、僕が負ければ、ソフィアさんは汚される。
「同じ場所に住んでいた誰かだろうと、最強の魔王だろうと、人間相手だろうと、剣聖だろうと、隠密だろうと、どこの誰だろうと、どんな事情があろうと、大層な伏線があろうと、大仰な運命だろうと」
あちこち折れていて、立ち上がった身体が揺れる。
だけど、構わない。
「全部、斬って捨ててやる」
「なら来いよ、勇者!」
「違う」
僕は、勇者なんてものじゃない。
勇者は強さを誇ったりはしない。
結局、僕は勇者にはなれなかった。
「僕は最強になる。 最強になって、ソフィアさんを待つ」
控え目に言って、半死半生。
深い泥沼に踏み入れたかのように動かない足は、まだ動く。
腕が意識に逆らい、刀を取り落とそうとするけど、 足が動くならまだ身体で刀を振れるだろう。
斬れると、思った。
魔王を、斬れると思った。
一応、仮に、恐らく勇者な僕のわけだけど、僕一人で世界を平和に出来るはずもないし、僕が駄目なら他の人が何とかしようとするだろう。
僕ことリョウジ・アカツキが必ずやらなければいけない、というようなものではない。
例えばルー。
僕にとって、ルーは女神だ。
素面でルーを女神だと言えて、僕にとっての幸せだと思う。
だけど、その逆はどうだろう。
僕にルーはあらゆる意味で必要だし、側にいて欲しい。
一言で言うなら愛してる。
愛されている、という自覚もあるし、側にいたいと思ってくれている、という自惚れもあるわけで。
しかし、ルーテシア・リヴィングストンという少女にとって、リョウジ・アカツキは必要なんだろうか?
大貴族の娘で見目も麗しく、気立てもよい。
少しばかり押しが強いが、そこを瑕と見ない男は沢山いるだろう。
その中には彼女を愛する、僕よりハンサムで、僕より金持ちで、僕より性格がよくて、僕よりルーに相応しい誰かがいるはずだ。
この世界で生きる基盤を全く持っていない僕より、ルーを幸せにしてくれる誰かはごまんといる。
そこに悔しさと自分でもうんざりするようなネガティブだけど、ルーテシア・リヴィングストンにとって、リョウジ・アカツキは必須ではないんだ。
例えばソフィア・ネート。
貴族の娘と聞いた覚えがあるけど、きっと実際にはどこかのアマゾネスの族長かなにかだろう。
黙って大人しく動かなければ、鮮やかな金髪と碧眼、色気のある泣き黒子、スタイルだってかなりのものだし、礼儀作法もやる気になれば出来るらしい。
ただそれをやる気もなく、三度の飯より剣が好きという剣鬼だ。
彼女を幸せに出来るとしたら、どんな人なんだろうか。
見た目は拘りがありそうだし、金があるならそれに越したことはないと言うと思う。
だけど、それだけでソフィアさんは満足しないはずだ。
刃物の上で踊るような生き方をしているソフィアさんは、きっと最初だけは満足して、何日かすれば飽きて逃げ出す。
とはいえ、同じタイプの人間がいたとしたら、「こんにちは死ね」くらいのスピーディーな殺しあいが始まってしまう。
難儀な人だ。
僕にとってのルーが、ソフィアさんの前に現れればいいな、と思う。
少なくともそれが僕では絶対に、間違いなく、あり得ない。
正直な話をすれば、僕はソフィアさんの事を好きなのだろう。
しかし、それはルーに抱いているものとは決定的に違うし、甘やかさに満ちた関係になれるとも、なりたいとも思えない。
そして、友人と言うには何か違う。
気のおけない友人どころか、気を許した瞬間に斬られそうなスリル溢れる関係だ。
躊躇いなく人を斬れる感性は、あまり好きではない。
でもソフィアさんの技は、好きだ。
ひゅんひゅんと小気味よく風を切り、きらりきらりと刀が踊っているのを見ると、胸がすっとする。
刀が光を反射し、ソフィアさんを彩るように輝いていると、どこかの妖精のようにすら思えてくる時があったりもする。
まぁ、あんな物騒な妖精はどうかと思うけど。
ソフィアさんを見ていると、天才という言葉は決して褒め言葉ではないと気付かされてしまう。
彼女の剣は全てを投げ打った剣だ。
崖から飛び降りるように、全てを投げ出して剣を振るっている。
それは真似をしたいとは思えない。
人としての幸せを捨てて剣を振った先にあるのは、ぞっとするほど暗い場所だろう。
導いてくれる師にはしたい人ではない。
剣を見て盗んだ、という意味では師匠なのだろうけど、僕の中では間違いなく違うし、ソフィアさんも僕の師匠をしようという気は全くないだろう。
だけど、やっぱりソフィア・ネートという存在を賭けた剣は、泣きたくなるほど綺麗で。
僕がここにいる事自体が、何かの間違いで、あの綺麗な存在を汚してしまったとしか思えない。
「だから、せめて……」
僕が負ければ、更にソフィアさんの剣は貶められる。
あの綺麗な剣を、僕より劣る取るに足らないつまらないものだと誰にも言わせてなるものか。
「世界全てを敵に回してでも」
朦朧とする頭、どれだけの血が流れているのか。
血が流れれば、体重は軽くなるはずだ。
なのに立ち上がるだけの事が辛い。
たった二発まともに受けただけで、こんな有り様だ。
もしも魔王が、ただ別な種ならよかった。
魔王という圧倒的な、人間以上の存在なら仕方ないと言えたんだと思う。
だけど、彼は話の通じて、戦うための技を用意してきてしまった。
なら、僕が負ければ、ソフィアさんは汚される。
「同じ場所に住んでいた誰かだろうと、最強の魔王だろうと、人間相手だろうと、剣聖だろうと、隠密だろうと、どこの誰だろうと、どんな事情があろうと、大層な伏線があろうと、大仰な運命だろうと」
あちこち折れていて、立ち上がった身体が揺れる。
だけど、構わない。
「全部、斬って捨ててやる」
「なら来いよ、勇者!」
「違う」
僕は、勇者なんてものじゃない。
勇者は強さを誇ったりはしない。
結局、僕は勇者にはなれなかった。
「僕は最強になる。 最強になって、ソフィアさんを待つ」
控え目に言って、半死半生。
深い泥沼に踏み入れたかのように動かない足は、まだ動く。
腕が意識に逆らい、刀を取り落とそうとするけど、 足が動くならまだ身体で刀を振れるだろう。
斬れると、思った。
魔王を、斬れると思った。
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