剣戟rock'n'roll

久保田

文字の大きさ
131 / 132

一話 上

しおりを挟む
 何とも困ったもんだ。
 僕はそうぼやきそうになるのを、必死に止めた。

「隊長、お願いします!」

「はいはい、じゃあ僕が行ってくるよ」

 誰か止めてくれるかと思ったけど、そんな事もなく僕は人だかりの中から前に出る事になった。
 魔王を倒してから三年、何の因果か王都で警官の真似事をさせられていて、

「黒いコートに腰の後ろに回した二本の剣。 お前が勇者か!」

「勇者じゃない。 ただのリョウジ・アカツキだ」

「ふははははは! 今日で勇者の最強伝説は終わりだ! このウラジミール・カマセイヌー様が終止符を打ってやろう!」

「聞けよ、人の話……」

 こんな手合いが増えてしまっている。
 行き止まりの狭い路地に、二人の人影があった。
 一人は筋骨粒々の鉄鎚を構えたテンションの高いマッチョ、その後ろには脅えて涙を浮かべた小さい女の子の姿だ。
 騒ぎを起こせば警官の真似事をしている僕が来る、と広まっているのか、自分から事件を起こす一攫千金狙いの馬鹿が多い。
 何せ僕は魔王退治の勇者様というやつだ。
 名前を売るには最高だろうし、僕が勇者の力を失っているのもポイントが高い。
 そんな馬鹿の中でも、こいつは最悪だ。

「……とりあえず女の子を開放してくれない?」

「断る! 知っているぞ、勇者! お前は魔術と剣を組み合わせた戦い方をするのだとな! 後ろにいる人質に当たる事を恐れるのなら、お前は魔術を撃てまい!」

 小さな女の子を人質に取って、高笑い出来る神経は理解が出来ないし、理解する気にもなれない。
 この三年で学んだ一番大きな事は、馬鹿の言うことは理解しようとするのが間違い、という事だ。
 こいつは僕を倒した後、どうする気なんだろう?とか何も考えてない。
 まぁ考えていようといまいと、

「止めるぞ、外道」

「何が外道か! ならば貴様はよってたかって武人を貶める臆病者だ!」

「それが僕の仕事だ」

 警官や正義のヒーローがよってたかって一人をぼこぼこにするのは、単純な理由だ。
 負ければ外道が悪さをする以上、絶対に負けてはいけない。
 魔王にこの国の貴族や兵士が壊滅させられたせいで、王都に残されていたのは若い騎士か、年を取って戦場に出る事のなかった兵士だけだ。
 そうである以上、そこにロマンを持ち込む余裕なんてこれっぽっちもなく、新撰組を参考にしての集団戦闘を導入しようとしたものの、ノウハウのない僕ではなんとも出来ず、マゾーガのお兄さんが手伝ってくれなかったら、どうなっていたか本気でわからなかった。
 今、マゾーガはシャルロットと、ペネペローペさんはマゾーガと名乗り、色々やり始めているらしい。
 その事は感謝しているけど僕がマゾーガと話すと、怒り出すから近付けないのは何とかしてくれないもんか。
 そんな風に目の前の光景から意識を飛ばしていたけど、男……カマセスキーだったかが唾を飛ばしながらまだ喚いているのを思い出した。

「大体、お前には武人としての誇りが!」

「ないよ、そんなもん」

 こっそりと編んだ魔術の構成を発現させ、カマセスキーの目の前に光の珠を生み出す。

「ぬおっ!?」

「調べるなら、ちゃんと調べてこい」

 強烈な光に目が眩んだ相手に近付き、左でボディブロー、頭が下がった所でアッパー一発。

「大魔術なんて使えないし、こういう小技を使うスタイルだ」

 それだけで地面に沈んだ相手に、言い捨てる。
 僕を狙う手合いが、あまりに多かったせいでソフィアさんから盗んだ戦い方は封印中だ。
 未熟な僕では手の内がバレてしまえば負ける可能性がある以上、少しは頭を使わないと。

「大丈夫?」

「は、はい……ありがとうございます、勇者様!」

 キラキラと目を輝かせる女の子に、僕はぼやくように返した。

「勇者じゃない。 ただのリョウジ・アカツキだよ」

 しかし、ソフィアさんはどこに行ったのか。
 三年前、魔王を倒した後、ソフィアさんとクリスさんは姿を消していた。
 お陰で僕とルーが救国の英雄扱いだし、何より最強の看板を降ろすに降ろせない。

「どうにも困ったもんだなあ……」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

愛する夫が目の前で別の女性と恋に落ちました。

ましゅぺちーの
恋愛
伯爵令嬢のアンジェは公爵家の嫡男であるアランに嫁いだ。 子はなかなかできなかったが、それでも仲の良い夫婦だった。 ――彼女が現れるまでは。 二人が結婚して五年を迎えた記念パーティーでアランは若く美しい令嬢と恋に落ちてしまう。 それからアランは変わり、何かと彼女のことを優先するようになり……

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...