スペースチャンバラNo.1

久保田

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斬・剣・Rock

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「よーし、駄モヒカン共」

 スライムのトライモヒカンは雄々しくギンギンに逆立っている。 このハードでスタイリッシュなモヒカンに比べれば、ただのモヒカンはしなびたハイスイート人参でしかない。

 村人達の抵抗を食らい尽くしたスライムは右手を高らかと上げた。 その人差し指は真っ直ぐと天を突く。

 銀河に悪名高きスライム・ザ・リッパー。 彼の前に立って、生き残った者はいない。
 そして、駄モヒカンとは言え、その数は百。
 最新鋭の装備に身を包んだ彼らの戦闘力は、この村を飲み込んでもお釣りが来るだろう。
 その恐るべき野獣どもが解放されるのかと村人の心に恐怖が宿る。
 観衆のハートをがっちり掴んだスライムは、高らかに叫んだ。


「レェェェェェェェェツっっっっ!……ロック!!!」



 百のモヒカン達が一斉に動く。 サンダーエレキギター、オン・ザ・ベース、ルートルートドラム。

「聞けよ、クソ村人どもォ! これが!」

 ルートルートドラムが三十。 思い思いにバラバラのリズムを刻み始める。

「これが!」

 オン・ザ・ベースが三十。 情熱的な独りよがりが、ルートルートドラムと聞くに耐えない不協和音を作る。

「俺様達!」

 サンダーエレキギター四十。 爆発的な轟音は、うっかり逃げ遅れていたマヌケの鼓膜を破裂させる。

「ディィィィィィッメンション! モヒカンだッ!」

 百のバンドを上回る炎のシャウトは、村人達の魂魄を震わせる。 恐怖と狂乱にて震わせる。
 それはまさにスライム、魂の爆発。 ハードなウェーブ。
 しかし、

「うるせえ」

 スライムの爆発では無頼の魂を震わせるには足りぬ。 いつの間にやら現れたスペーステンガロンハットが一振りすれば、スライムの脳天から股下までを一直線に断ち割った。
 それはまさに神速という名が相応しい。 抵抗一つさせぬ一撃は、スライムの顔に絶叫を貼り付けたまま斬り捨てた。
 外道、死すべし。
 刀がきらりと陽光を照り返せば、スライムの首が落ちる。
 きらり、きらりと右腕、左腕。 目にも止まらぬ技の冴えはスライムが地に倒れるまでに、七度振られた。
 首から胴までを輪切りにされたスライムは、音を立てて地に落ちる。
 これでディメンションモヒカンは壊滅した―――というにはまだ早い。
 モヒカン達のギグが止まらぬ。 溢れる獣性を発散するかのように、無軌道なパッションが鳴り響く。
 音ではなく、直接的な振動としか感じられない音の世界は、スライムの身体を震わせる。

「アハーン」

 斬り刻まれたはずのスライムの頭から、轟音の中でもやたらと通る声。 音に震えるスライムの身体が、まるで水にでもなったかのように溶け出すと、再び一カ所に集まり出した。

「おいおいおいおい、ギグにクソ観客が上がったら駄目だろうが」

 集まった粘性のある水が一つになれば、まるで何も無かったかのように起き上がるスライム。 それを一匹の無頼はじっと見つめた。
 一体これは如何なる魔技か。 斬られれば死ぬ。 当たり前の道理を平然と踏みにじるスライム・ザ・リッパーを前に、無頼は一体どう立ち向かうというのか。

「カカカカカカカカ!」

 再び斬りかかる無頼の刃は、正しくスライムを開きへと変えた。 しかし、耳障りな笑い声は消えず。

「無駄だ、無駄! 俺様の名はスライム・ザ・リッパー! 刃物殺しのスライム・ザ・リッパー様だ!」

 どれだけ斬られようと、その身体は再び集まり、一つになる。 まさに名は体を表す。
 軟体のスライム、刃物殺しのリッパー。 斬られながら無頼へと、どこからか取り出したレーザーガンを撃ち込む余裕すらある。
 レーザーガンを避け、斬りながらも無頼はさすがにこれは攻めあぐむ。
 何せ斬っても死なぬ不死身の身体である。 刀一本でどうしろというのか。

「ただのクソ刀一本で俺を殺せると思ってんのか、このクソ侍さんよォ!?」

 右腕、左腕にレーザーガンを一丁ずつ。 斬れども斬れども生えてくる。 それどころかスライムの首の後ろから、もう一本の腕が生えてきたではないか。 無論、その手にはレーザーガンが握られている。
 それどころか、スライムの身体から水の触手が何本も伸び、その先端にはレーザーガン。 前と左右から、光線が次々と無頼へと放たれるではないか。
 これには無頼も参ったのか、後方に大きく跳ねる。
 距離を取り、右へ左へレーザーガンを軽やかに避ける無頼にとって、百や二百はレーザーを何とかするのは容易い。
 しかし、スライムを斬れぬというのであれば先の見えない千日手である。 それどころか体力が尽き、僅かでも動きを止めてしまえば、煌めく光線にその身を貫かれる事となるだろう。

「少し、口を閉じろ」

 その絶体絶命の死地の中、スペーステンガロンハットは揺るがなかった。
 それどころかスライムの正面に、何の躊躇も小細工もなく、愚直に前に出た。
 コンマ一秒の間に、全方位から放たれる光速のレーザーは十二。 一秒で百二十。
 その全てを避け、再びスライムの前に踏み込んだ。

「無駄だってーの!」

「知るか」

 縦に一斬、横に一斬。 スライムの身体を十文字に斬り裂くが、そんな物でスライムの口は動きを止める事はない。

「知れよ、このクソクソクソクソ侍よォォォォォ!? てめえのクソ刀に百回斬られようと、二百回斬られようと何の意味もねえんだよ!」

「なら千回斬るか」

「はぁ!?」

 スライムでなくとも唖然とするしかあるまい。 斬っても斬っても殺せぬ魔人を如何に攻略するか。
 その答えは単純明快。

「死ぬまで叩き斬ってやるよ」

 斬れぬ魔神を前に、きっぱりと言い切った。

「兄ィ! マジ渋いっす!」

「サブ」

 スライムの前で、無頼は足を止めた。 降り注ぐレーザーの雨は体捌きで避け、着流しの裾に掠らせもしない。

「黙ってろ」

 刀が、疾った。

 背後に控える百の駄モヒカン達の百のモヒカンレーダーが並列化し、一のレーダーの能力の数千倍にまで高める。 光の粒子すら数えられるほどだろう。
 しかし、その高まったレーダーの能力をもってしても無頼が何度、刀を振ったか捉えきれなかった。
 地面に水を叩きつけたかのように、斬り刻まれ過ぎて破裂したようにすら見えるスライム。

「シッ」

 しかし、それでも終わらぬ。
 僅かに息を吐くと第二段の剣舞。 一段目の処理が終わらない内に、再び大量のデータを叩き込まれたモヒカン達のモヒカンレーダーが爆発を起こした。

「シッ」

「てめえ……!?」

 三段。 とっくの昔に三百など超えた。

「シッ」

「クソふざけんな!?」

 四段。 無頼の身体から赤い煙が上がり始める。 あまりの速度に体温が急上昇し、体内の血液が沸騰し始めているのだ。

「シッ」

「おい、おいおいおいおい!?」

「シッ」

「待てよ!? このままじゃエネルギーが尽きちまう!?」

「シッ」

「クソっ! あり得ねえだろ!? 最新鋭の人体変換装置だぞ!? それを」

八、九、十段。

「ただ斬るだけでぶっ潰すとかよォォォォォ!?」

 朝霧よりも細かく叩き斬られたスライムは、もはや風に吹かれて消えるのみ。

 一度、刀を振るい、穢れを払う。 あまりの酷使にあちこちが破裂し、断裂した身体ではあるが、その動作に淀みはない。
 腰のハードポイントに納刀し、無頼はスライムが存在していた空間に背を向けた。

「てめえらのギグは気に食わねえんだよ」

 スペーステンガロンハットが、風に揺れた。



























「クソックソックソッ……!」

 それは如何なる執念か。 ほんの一滴ほどの身になりながら、スライム・ザ・リッパーは生き延びていた。
 ディメンションモヒカンの壊滅を喜ぶ村人達の歓声が聞こえる。
「クソックソックソックソックソックソッ……!」

 スライムの命はここまでだ。 すでに再生のエネルギーは尽きた。
 しかし、復讐しなければならない。 可愛いモヒカン達と、己をこんな目に合わせた憎き怨敵を殺し尽くさねば、スライムの魂に平穏は訪れぬ。

「クソックソックソックソックソックソックソックソックソッ!」

 その一念が動かぬはずの身体を、死したモヒカンの頭にまで運んだ。 全員のモヒカンレーダーは爆発し、脳を吹き飛ばしたが、スライムが辿り着いたモヒカンは比較的損傷が軽かった。

「先生ぇ……!」

 スライムの怨念に満ちた声が、レーダーに付随する通信機を通して、宇宙へと電波に乗り発信された。

「先生ぇ……!」

 死ねぬのだ。 このままでは死ねぬのだ。 その一念はすでにエネルギーが完全に尽き、存在が霧散するはずの液体の身体を繋ぎ止める。

「先生ぇ……!」

 答えはない。 しかし、スライムは通信機の先にいる誰かを、確かに感じた。

「先生ぇ……! お願いします……!」

 ぶつん、と音を立てて通信が途切れる。

「ヒャ」

 楽しげに、スライムは笑った。

「ヒャッハー……! これで、お前達はおしまいだ、クソども!」

 風が、吹いた。
 スライム・ザ・リッパーが存在していた痕跡は、すでに残っていなかった。
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