5 / 6
交差
しおりを挟む
「さ、ゆるりと殺し合おうか」
先に動いたのはNINJAである。 と、いうよりもクラリスを背に守るサブには動きようがない。
それに気付いたクラリスは這ってでも逃げようとするが、NINJAの疾走に比べれば話にならない。
「動くな、クラリスの姉ちゃん!」
「ひっ」
「おっと、先に女を狙ったのがバレていたか」
「わざとバラしてるくせにふざけんな!」
サブとクラリスにしてみれば、絶対の殺し間に落ちたような物。 しかし、NINJAからすれば児戯にも等しい。
「殺気くらいは読めるか。 いいぞ、装備に頼るだけの雑兵ではないだけマシよ」
クラリスに向けていた殺気をNINJAはサブに向け直した。 敢えて見せびらかすようにして、殺気を向けてみれば、サブの震えが止まった。
NINJAからしてみれば意外の一言。 殺気を向けられ、震えが止まるなど理解の範疇にはない。
そして、そんな事はどうでもいい話だ。
「まず一手、凌げよ」
疾走をぴたりと止め、両手を振るえば電磁苦内が一本、レーザーガンにも勝るとも劣らぬ速度でサブの脳天に飛んで行く。
「ナメてんのか!」
しかし、サブとて無頼と共に旅する者である。 そのくらいは頭を倒すだけで避けてみせる。
「おお、ナメておるわ」
一本、避けた。 しかし、サブの身体はその先の危機を見た。 飛来する電磁苦内は一本。
そして、空気を切り裂く音は三十二。 三十一本はどこに。
脳が考える間にサブの身体は、動いていた。
抗磁場アロハを一瞬にして脱ぐと、叩き付けるように振り回す。 するとどうだ。 アロハにぐっとかかる重みが生まれたではないか。
「ふむ、この程度は凌ぐか」
見せ札の電磁苦内を避ければ、次に控えるはステルス苦内というえげつない罠を、この程度と言い切るNINJA。
対するサブはアロハを脱ぎ捨てた上半身に、滝のように流れる汗。 僅かの間で磨り減った精神が、肉体に防御反応を起こさせたのである。
「どれ、二手目と行こうか」
電磁苦内、その先にはステルス苦内。 初見で攻略した技をサブは容易く、六十の苦内を受けたアロハと引き換えに避けた。
しかし、
「それは悪手」
苦内だけならそれでいい。 しかし、アロハを振り切ったせいで、無様に崩れた姿勢は次のNINJAの一手には対応出来ぬ。
まさに疾風迅雷としか言えぬ瞬時の踏み込み。 サブが気付いた時には、NINJAの声が背後から聞こえていた。
「噴ッ」
まるでスーパー鞠のように、サブの身体が地面を勢いよくバウンド。 一、二、三、四、五、六とサブを転がしたのは、ただの筋肉の膨張であった。
脱力し、収縮していた筋肉を爆発的に膨張させ、サブを跳ね飛ばしたのだ。
しかし、そんな事はクラリスにはわからぬ。 ただわかるのは、ソニックエアカーに轢かれたような勢いで吹き飛ばされたサブが、すでに生きていないであろう事だけ。
「あ、あ、あ……!」
「ふむ、なかなかよい師がいたようだな」
「うるせえ、死ね!」
しかし、クラリスの予想とは違い、弾き飛ばされた勢いに倍する速度でサブは戻ってきた。
その速度がサブの振りかぶった拳に乗る。 百獣の王エンペライオンでも、サブの拳の前には道を譲るだろう。
「三手、覚悟を決めろ」
ソニックブームすら起こすサブの拳に、いっそ優しくすら思える手付きでNINJAは触れた。
音速超過の一撃により速い速度であっさりと触れた上、完璧に力をコントロールする余裕すらあるのである。
触れた部分からサブの力のベクトルは変化。 打ち込まれた杭にぶつかる水のように、明後日の方向へと身体が流れた。
「なっ!?」
「まずは腹」
鈍い、とても鈍い音がした。 腹筋にぶち込まれたNINJAの拳を起点に、サブは口から反吐を撒き散らしながら、くの字に折れ曲がる。
「顎」
まるで稽古でも付けられているとしか思えぬ扱いに、屈辱を覚えている暇はサブにはない。
動かぬ身体に鞭打って、サブは顎の下に手を滑り込ませた。
それを待っていたかのように。 いや、事実待っていたのだろう。 NINJAの半月を描くサマーソルトキックが、サブの顎をかち上げた。
「ふむ」
と、NINJAはそこで動きを止めた。 地に倒れるサブを見下し、それでありながら、どこか興味深そうに見た。
「お主、無手の使い手ではないな」
明らかにおかしかった。 今も常人であれば、とっくに絶命している猛攻を受けながら、三を数えるまでもなく起き上がってきている。
それだけの鍛え抜かれた身体を持ちながら、気の利いた技の一つくらいはあるはずだ。 先ほどの拳は勢いはよし。 しかし、技の煌めきの欠片もなかった。
「けっ、うるせえ」
立ち上がるサブに、NINJAは脇差しを抜いた。
「使え」
「いらねえよ」
「我が使えと言っている」
「いらねえって言ってんだろ」
「……そうか」
と、僅かにNINJAは俯き、一瞬の間が生まれた。
「使え」
その間はサブの油断を生んだ。 脇差しが紫電のようにサブの胸へと飛ぶ。
僅かな油断と、人体で最も避けにくい身体の中心、正中線上に投げられてしまえば、避ける間はない。 ならば、掴み取るしかない。
「握ったな」
「てめえ、それだけのために……!」
わざわざ柄側が当たるように投げた脇差しは、しっかりとサブの手に握られた。
「次は四手。 見せてみろ、お主の技を」
経過を経ずして、結果のみが現れる。 地を縮めたとしか思えぬ踏み込みは、サブの右手側にNINJAを運んだ。
サブの膝下よりも深く身体を沈めたNINJA、最初の一手はスプリング大蛇が身を起こすような拳。
地を削るほど下から、そして天を突くようにして放たれるアッパーカットである。
「っ!」
避けられはしない。 先ほどまでの攻防で、サブの回避は見切った。 ならば受けるしかない。
そして、サブが真に剣士であれば、いくら脇差しを手放そうとしても、その身に迫る死を前に身体が動くはずだとNINJAは判断した。 間違っているのであれば、相手が死ぬだけだ。
期待は見事に応えられた。
柄尻で逆に殴りつけるようにして、拳を防御。 これがNINJAの拳でなければ、拳が破壊されていた。
二手目。 柄尻で打たれた反動を拳から肘に流せば、それは力となる。 上半身を力に逆らわず、前に倒す。
手を地面に着き、背を向けた逆立ちのまま足をサブの首に伸ばせば、横薙ぎの刃が振られる。
もし、地面に着いた腕を曲げていなければ、NINJAの足は斬られていただろう。
三手目。 ぬるりとした動きで、サブの足に手を伸ばした。 僅かにでも触れられれば、経穴を突き、足どころか全身を麻痺させる。
しかし、サブは完璧な運足を見せた。 身体の軸に一切のブレはなく、大きく後方に下がる。
それは刀の距離である。
自らの慧眼に歓喜を得たNINJAは、とりあえずとばかりに四手目。 やる気の欠片もなく、五十ばかりのステルス苦内を投げつけた。
なかなかの剣士だ。 こんな物はあっさりと避けてくれるに違いない。
そんな奇妙な信頼が、NINJAの中に生まれていた。
しかし、
「ゲェェェェェ……!」
信頼した剣士は身を折って、反吐を吐いていた。
「貴様、ふざけているのか!?」
あれがフェイクのはずはない。 そんな意味はない。 必ず当たる。
ステルス苦内はサブの身体を貫通し、穴だらけにするだろう。
何という無様な終わり方か。 燃え始めたNINJAの魂は、どこにぶつければいいのだ。
問答は、無かった。
NINJAの踏み込みに負けず劣らず。 いずこからか現れたスペーステンガロンハットの男が、刀を振った。
愚かな若い剣士に向かっていたステルス苦内は、たったの一振りで全てが斬り捨てられた。
―――強者。
これこそがNINJAの求めていた相手。 NINJAは足を踏み出した。
逆立ちの姿勢のまま、足を踏み出した所で何の意味もない。 そう思うのは常人である。
宇宙空間を走るNINJAにすれば、惑星の重力圏内は足場に不自由する事はない。
何故なら大気がある。 大気を足場とし、踏み込んだNINJAの速度はサブを相手にした時よりも上がっていた。
下から上に、上から右に。 スペーステンガロンハットに向かい、弧を描くように、時には鋭角に、NINJAはランダムな軌道を描きながら加速した。
そんな揺さぶりに動じる事のないスペーステンガロンハットの男は、どうしようもなくNINJAの身を熱くさせる。
交差。
スペーステンガロンハットの一撃は、NINJAの魔眼をして見切れず、NINJAの一撃はスペーステンガロンハットをして見切れず。
NINJAは腹を薄く斬られ、スペーステンガロンハットは左足を浅く刺されていた。
「その風体、ナルカミ・ブンタか!」
「そういう貴様は飛びカトウ!」
交差。
一瞬の間に七つの傷を得て、同じだけを返す。
「知っているぞ、ただの刀を担いでの、レーザー柳生百人斬り!」
「そんな古い話は忘れた!」
交差。
六を得て、八を返した。
「ああ、そんな事よりも今だ!」
「最近のNINJAは随分と口数が多いんだな!」
交差。
十三を返し、零。
NINJAは動きを止めた。 これだけの使い手が、ただ受けに回るはずがない。
一撃を、狙っている。
僅かな優位に溺れ、最後の一撃を相手に与えるわけにはいかないのだ。 赤く燃えたぎる心はそのままに、ただその身の欲するがままに動く。
全身を極限まで脱力。 最後の交差に備える。
「サブ」
スペーステンガロンハットが、口を開いた。
「見てろ。 これが俺の剣だ」
構えは上段。 狙いは我が脳天。 単純明快なその構えに、恐怖を感じる。
「我が電光石火、捉えられるか」
ブラックホールに飛び込む方が、まだ生き残れる。 そんな相手を前にして、つい口を開いてしまった。
それは恐怖ではなく、歓喜を共有して欲しいという欲であった。
「御託はいらねえよ。 来い」
その望みは叶えられた。 スペーステンガロンハットの剣が、そう言っている。
だから、脱力、緊張。 飛びカトウの人生最速の踏み込みが始まった。
左足があまりの負担に血を噴き出す。 しかし、すでに右足の踏み込みに移っている。 最新の大型レーダーでも捉えられぬ速度を得た。 だが、飛びカトウの速さを、剣士の切っ先は捉えていた。
―――斬られる。
飛びカトウは自らの死を、そこに見た。
「NIN!」
「感謝するぞ。 お主のお陰で……我は更に強くなれた」
仰向けに倒れるスペーステンガロンハット。 その胸にはNINJA刀が深々と突き刺さっている。
「嘘だろ……」
「もし、その男が傷を負っていなければ、敗北していたのは我の方だった」
スライム・ザ・リッパーを相手にした負担は重かったらしい。 身体中の筋をずたずたにされていた。
しかし、その最後の剣はカトウの覆面を切り裂き、誰にも見せた事のない素顔を晒させた。
「嘘だ……兄ィが負けるはずない!」
「我の、勝ちだ」
飛びカトウの勝ち名乗りが、荒野に響いた。
先に動いたのはNINJAである。 と、いうよりもクラリスを背に守るサブには動きようがない。
それに気付いたクラリスは這ってでも逃げようとするが、NINJAの疾走に比べれば話にならない。
「動くな、クラリスの姉ちゃん!」
「ひっ」
「おっと、先に女を狙ったのがバレていたか」
「わざとバラしてるくせにふざけんな!」
サブとクラリスにしてみれば、絶対の殺し間に落ちたような物。 しかし、NINJAからすれば児戯にも等しい。
「殺気くらいは読めるか。 いいぞ、装備に頼るだけの雑兵ではないだけマシよ」
クラリスに向けていた殺気をNINJAはサブに向け直した。 敢えて見せびらかすようにして、殺気を向けてみれば、サブの震えが止まった。
NINJAからしてみれば意外の一言。 殺気を向けられ、震えが止まるなど理解の範疇にはない。
そして、そんな事はどうでもいい話だ。
「まず一手、凌げよ」
疾走をぴたりと止め、両手を振るえば電磁苦内が一本、レーザーガンにも勝るとも劣らぬ速度でサブの脳天に飛んで行く。
「ナメてんのか!」
しかし、サブとて無頼と共に旅する者である。 そのくらいは頭を倒すだけで避けてみせる。
「おお、ナメておるわ」
一本、避けた。 しかし、サブの身体はその先の危機を見た。 飛来する電磁苦内は一本。
そして、空気を切り裂く音は三十二。 三十一本はどこに。
脳が考える間にサブの身体は、動いていた。
抗磁場アロハを一瞬にして脱ぐと、叩き付けるように振り回す。 するとどうだ。 アロハにぐっとかかる重みが生まれたではないか。
「ふむ、この程度は凌ぐか」
見せ札の電磁苦内を避ければ、次に控えるはステルス苦内というえげつない罠を、この程度と言い切るNINJA。
対するサブはアロハを脱ぎ捨てた上半身に、滝のように流れる汗。 僅かの間で磨り減った精神が、肉体に防御反応を起こさせたのである。
「どれ、二手目と行こうか」
電磁苦内、その先にはステルス苦内。 初見で攻略した技をサブは容易く、六十の苦内を受けたアロハと引き換えに避けた。
しかし、
「それは悪手」
苦内だけならそれでいい。 しかし、アロハを振り切ったせいで、無様に崩れた姿勢は次のNINJAの一手には対応出来ぬ。
まさに疾風迅雷としか言えぬ瞬時の踏み込み。 サブが気付いた時には、NINJAの声が背後から聞こえていた。
「噴ッ」
まるでスーパー鞠のように、サブの身体が地面を勢いよくバウンド。 一、二、三、四、五、六とサブを転がしたのは、ただの筋肉の膨張であった。
脱力し、収縮していた筋肉を爆発的に膨張させ、サブを跳ね飛ばしたのだ。
しかし、そんな事はクラリスにはわからぬ。 ただわかるのは、ソニックエアカーに轢かれたような勢いで吹き飛ばされたサブが、すでに生きていないであろう事だけ。
「あ、あ、あ……!」
「ふむ、なかなかよい師がいたようだな」
「うるせえ、死ね!」
しかし、クラリスの予想とは違い、弾き飛ばされた勢いに倍する速度でサブは戻ってきた。
その速度がサブの振りかぶった拳に乗る。 百獣の王エンペライオンでも、サブの拳の前には道を譲るだろう。
「三手、覚悟を決めろ」
ソニックブームすら起こすサブの拳に、いっそ優しくすら思える手付きでNINJAは触れた。
音速超過の一撃により速い速度であっさりと触れた上、完璧に力をコントロールする余裕すらあるのである。
触れた部分からサブの力のベクトルは変化。 打ち込まれた杭にぶつかる水のように、明後日の方向へと身体が流れた。
「なっ!?」
「まずは腹」
鈍い、とても鈍い音がした。 腹筋にぶち込まれたNINJAの拳を起点に、サブは口から反吐を撒き散らしながら、くの字に折れ曲がる。
「顎」
まるで稽古でも付けられているとしか思えぬ扱いに、屈辱を覚えている暇はサブにはない。
動かぬ身体に鞭打って、サブは顎の下に手を滑り込ませた。
それを待っていたかのように。 いや、事実待っていたのだろう。 NINJAの半月を描くサマーソルトキックが、サブの顎をかち上げた。
「ふむ」
と、NINJAはそこで動きを止めた。 地に倒れるサブを見下し、それでありながら、どこか興味深そうに見た。
「お主、無手の使い手ではないな」
明らかにおかしかった。 今も常人であれば、とっくに絶命している猛攻を受けながら、三を数えるまでもなく起き上がってきている。
それだけの鍛え抜かれた身体を持ちながら、気の利いた技の一つくらいはあるはずだ。 先ほどの拳は勢いはよし。 しかし、技の煌めきの欠片もなかった。
「けっ、うるせえ」
立ち上がるサブに、NINJAは脇差しを抜いた。
「使え」
「いらねえよ」
「我が使えと言っている」
「いらねえって言ってんだろ」
「……そうか」
と、僅かにNINJAは俯き、一瞬の間が生まれた。
「使え」
その間はサブの油断を生んだ。 脇差しが紫電のようにサブの胸へと飛ぶ。
僅かな油断と、人体で最も避けにくい身体の中心、正中線上に投げられてしまえば、避ける間はない。 ならば、掴み取るしかない。
「握ったな」
「てめえ、それだけのために……!」
わざわざ柄側が当たるように投げた脇差しは、しっかりとサブの手に握られた。
「次は四手。 見せてみろ、お主の技を」
経過を経ずして、結果のみが現れる。 地を縮めたとしか思えぬ踏み込みは、サブの右手側にNINJAを運んだ。
サブの膝下よりも深く身体を沈めたNINJA、最初の一手はスプリング大蛇が身を起こすような拳。
地を削るほど下から、そして天を突くようにして放たれるアッパーカットである。
「っ!」
避けられはしない。 先ほどまでの攻防で、サブの回避は見切った。 ならば受けるしかない。
そして、サブが真に剣士であれば、いくら脇差しを手放そうとしても、その身に迫る死を前に身体が動くはずだとNINJAは判断した。 間違っているのであれば、相手が死ぬだけだ。
期待は見事に応えられた。
柄尻で逆に殴りつけるようにして、拳を防御。 これがNINJAの拳でなければ、拳が破壊されていた。
二手目。 柄尻で打たれた反動を拳から肘に流せば、それは力となる。 上半身を力に逆らわず、前に倒す。
手を地面に着き、背を向けた逆立ちのまま足をサブの首に伸ばせば、横薙ぎの刃が振られる。
もし、地面に着いた腕を曲げていなければ、NINJAの足は斬られていただろう。
三手目。 ぬるりとした動きで、サブの足に手を伸ばした。 僅かにでも触れられれば、経穴を突き、足どころか全身を麻痺させる。
しかし、サブは完璧な運足を見せた。 身体の軸に一切のブレはなく、大きく後方に下がる。
それは刀の距離である。
自らの慧眼に歓喜を得たNINJAは、とりあえずとばかりに四手目。 やる気の欠片もなく、五十ばかりのステルス苦内を投げつけた。
なかなかの剣士だ。 こんな物はあっさりと避けてくれるに違いない。
そんな奇妙な信頼が、NINJAの中に生まれていた。
しかし、
「ゲェェェェェ……!」
信頼した剣士は身を折って、反吐を吐いていた。
「貴様、ふざけているのか!?」
あれがフェイクのはずはない。 そんな意味はない。 必ず当たる。
ステルス苦内はサブの身体を貫通し、穴だらけにするだろう。
何という無様な終わり方か。 燃え始めたNINJAの魂は、どこにぶつければいいのだ。
問答は、無かった。
NINJAの踏み込みに負けず劣らず。 いずこからか現れたスペーステンガロンハットの男が、刀を振った。
愚かな若い剣士に向かっていたステルス苦内は、たったの一振りで全てが斬り捨てられた。
―――強者。
これこそがNINJAの求めていた相手。 NINJAは足を踏み出した。
逆立ちの姿勢のまま、足を踏み出した所で何の意味もない。 そう思うのは常人である。
宇宙空間を走るNINJAにすれば、惑星の重力圏内は足場に不自由する事はない。
何故なら大気がある。 大気を足場とし、踏み込んだNINJAの速度はサブを相手にした時よりも上がっていた。
下から上に、上から右に。 スペーステンガロンハットに向かい、弧を描くように、時には鋭角に、NINJAはランダムな軌道を描きながら加速した。
そんな揺さぶりに動じる事のないスペーステンガロンハットの男は、どうしようもなくNINJAの身を熱くさせる。
交差。
スペーステンガロンハットの一撃は、NINJAの魔眼をして見切れず、NINJAの一撃はスペーステンガロンハットをして見切れず。
NINJAは腹を薄く斬られ、スペーステンガロンハットは左足を浅く刺されていた。
「その風体、ナルカミ・ブンタか!」
「そういう貴様は飛びカトウ!」
交差。
一瞬の間に七つの傷を得て、同じだけを返す。
「知っているぞ、ただの刀を担いでの、レーザー柳生百人斬り!」
「そんな古い話は忘れた!」
交差。
六を得て、八を返した。
「ああ、そんな事よりも今だ!」
「最近のNINJAは随分と口数が多いんだな!」
交差。
十三を返し、零。
NINJAは動きを止めた。 これだけの使い手が、ただ受けに回るはずがない。
一撃を、狙っている。
僅かな優位に溺れ、最後の一撃を相手に与えるわけにはいかないのだ。 赤く燃えたぎる心はそのままに、ただその身の欲するがままに動く。
全身を極限まで脱力。 最後の交差に備える。
「サブ」
スペーステンガロンハットが、口を開いた。
「見てろ。 これが俺の剣だ」
構えは上段。 狙いは我が脳天。 単純明快なその構えに、恐怖を感じる。
「我が電光石火、捉えられるか」
ブラックホールに飛び込む方が、まだ生き残れる。 そんな相手を前にして、つい口を開いてしまった。
それは恐怖ではなく、歓喜を共有して欲しいという欲であった。
「御託はいらねえよ。 来い」
その望みは叶えられた。 スペーステンガロンハットの剣が、そう言っている。
だから、脱力、緊張。 飛びカトウの人生最速の踏み込みが始まった。
左足があまりの負担に血を噴き出す。 しかし、すでに右足の踏み込みに移っている。 最新の大型レーダーでも捉えられぬ速度を得た。 だが、飛びカトウの速さを、剣士の切っ先は捉えていた。
―――斬られる。
飛びカトウは自らの死を、そこに見た。
「NIN!」
「感謝するぞ。 お主のお陰で……我は更に強くなれた」
仰向けに倒れるスペーステンガロンハット。 その胸にはNINJA刀が深々と突き刺さっている。
「嘘だろ……」
「もし、その男が傷を負っていなければ、敗北していたのは我の方だった」
スライム・ザ・リッパーを相手にした負担は重かったらしい。 身体中の筋をずたずたにされていた。
しかし、その最後の剣はカトウの覆面を切り裂き、誰にも見せた事のない素顔を晒させた。
「嘘だ……兄ィが負けるはずない!」
「我の、勝ちだ」
飛びカトウの勝ち名乗りが、荒野に響いた。
0
あなたにおすすめの小説
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
義務ですもの。
あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる