スペースチャンバラNo.1

久保田

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交差

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「さ、ゆるりと殺し合おうか」

 先に動いたのはNINJAである。 と、いうよりもクラリスを背に守るサブには動きようがない。
 それに気付いたクラリスは這ってでも逃げようとするが、NINJAの疾走に比べれば話にならない。

「動くな、クラリスの姉ちゃん!」

「ひっ」

「おっと、先に女を狙ったのがバレていたか」

「わざとバラしてるくせにふざけんな!」

 サブとクラリスにしてみれば、絶対の殺し間に落ちたような物。 しかし、NINJAからすれば児戯にも等しい。

「殺気くらいは読めるか。 いいぞ、装備に頼るだけの雑兵ではないだけマシよ」

 クラリスに向けていた殺気をNINJAはサブに向け直した。 敢えて見せびらかすようにして、殺気を向けてみれば、サブの震えが止まった。
 NINJAからしてみれば意外の一言。 殺気を向けられ、震えが止まるなど理解の範疇にはない。
 そして、そんな事はどうでもいい話だ。

「まず一手、凌げよ」

 疾走をぴたりと止め、両手を振るえば電磁苦内が一本、レーザーガンにも勝るとも劣らぬ速度でサブの脳天に飛んで行く。

「ナメてんのか!」

 しかし、サブとて無頼と共に旅する者である。 そのくらいは頭を倒すだけで避けてみせる。

「おお、ナメておるわ」

 一本、避けた。 しかし、サブの身体はその先の危機を見た。 飛来する電磁苦内は一本。
 そして、空気を切り裂く音は三十二。 三十一本はどこに。
 脳が考える間にサブの身体は、動いていた。
 抗磁場アロハを一瞬にして脱ぐと、叩き付けるように振り回す。 するとどうだ。 アロハにぐっとかかる重みが生まれたではないか。

「ふむ、この程度は凌ぐか」

 見せ札の電磁苦内を避ければ、次に控えるはステルス苦内というえげつない罠を、この程度と言い切るNINJA。
 対するサブはアロハを脱ぎ捨てた上半身に、滝のように流れる汗。 僅かの間で磨り減った精神が、肉体に防御反応を起こさせたのである。

「どれ、二手目と行こうか」

 電磁苦内、その先にはステルス苦内。 初見で攻略した技をサブは容易く、六十の苦内を受けたアロハと引き換えに避けた。
 しかし、

「それは悪手」

 苦内だけならそれでいい。 しかし、アロハを振り切ったせいで、無様に崩れた姿勢は次のNINJAの一手には対応出来ぬ。
 まさに疾風迅雷としか言えぬ瞬時の踏み込み。 サブが気付いた時には、NINJAの声が背後から聞こえていた。

「噴ッ」

 まるでスーパー鞠のように、サブの身体が地面を勢いよくバウンド。 一、二、三、四、五、六とサブを転がしたのは、ただの筋肉の膨張であった。
 脱力し、収縮していた筋肉を爆発的に膨張させ、サブを跳ね飛ばしたのだ。
 しかし、そんな事はクラリスにはわからぬ。 ただわかるのは、ソニックエアカーに轢かれたような勢いで吹き飛ばされたサブが、すでに生きていないであろう事だけ。

「あ、あ、あ……!」

「ふむ、なかなかよい師がいたようだな」

「うるせえ、死ね!」

 しかし、クラリスの予想とは違い、弾き飛ばされた勢いに倍する速度でサブは戻ってきた。
 その速度がサブの振りかぶった拳に乗る。 百獣の王エンペライオンでも、サブの拳の前には道を譲るだろう。

「三手、覚悟を決めろ」

 ソニックブームすら起こすサブの拳に、いっそ優しくすら思える手付きでNINJAは触れた。
 音速超過の一撃により速い速度であっさりと触れた上、完璧に力をコントロールする余裕すらあるのである。
 触れた部分からサブの力のベクトルは変化。 打ち込まれた杭にぶつかる水のように、明後日の方向へと身体が流れた。

「なっ!?」

「まずは腹」

 鈍い、とても鈍い音がした。 腹筋にぶち込まれたNINJAの拳を起点に、サブは口から反吐を撒き散らしながら、くの字に折れ曲がる。

「顎」

 まるで稽古でも付けられているとしか思えぬ扱いに、屈辱を覚えている暇はサブにはない。
 動かぬ身体に鞭打って、サブは顎の下に手を滑り込ませた。
 それを待っていたかのように。 いや、事実待っていたのだろう。 NINJAの半月を描くサマーソルトキックが、サブの顎をかち上げた。

「ふむ」

と、NINJAはそこで動きを止めた。 地に倒れるサブを見下し、それでありながら、どこか興味深そうに見た。

「お主、無手の使い手ではないな」

 明らかにおかしかった。 今も常人であれば、とっくに絶命している猛攻を受けながら、三を数えるまでもなく起き上がってきている。
 それだけの鍛え抜かれた身体を持ちながら、気の利いた技の一つくらいはあるはずだ。 先ほどの拳は勢いはよし。 しかし、技の煌めきの欠片もなかった。

「けっ、うるせえ」

 立ち上がるサブに、NINJAは脇差しを抜いた。

「使え」

「いらねえよ」

「我が使えと言っている」

「いらねえって言ってんだろ」

「……そうか」

と、僅かにNINJAは俯き、一瞬の間が生まれた。

「使え」

 その間はサブの油断を生んだ。 脇差しが紫電のようにサブの胸へと飛ぶ。
 僅かな油断と、人体で最も避けにくい身体の中心、正中線上に投げられてしまえば、避ける間はない。 ならば、掴み取るしかない。

「握ったな」

「てめえ、それだけのために……!」

 わざわざ柄側が当たるように投げた脇差しは、しっかりとサブの手に握られた。

「次は四手。 見せてみろ、お主の技を」

 経過を経ずして、結果のみが現れる。 地を縮めたとしか思えぬ踏み込みは、サブの右手側にNINJAを運んだ。
 サブの膝下よりも深く身体を沈めたNINJA、最初の一手はスプリング大蛇が身を起こすような拳。
 地を削るほど下から、そして天を突くようにして放たれるアッパーカットである。

「っ!」

 避けられはしない。 先ほどまでの攻防で、サブの回避は見切った。 ならば受けるしかない。
 そして、サブが真に剣士であれば、いくら脇差しを手放そうとしても、その身に迫る死を前に身体が動くはずだとNINJAは判断した。 間違っているのであれば、相手が死ぬだけだ。

 期待は見事に応えられた。

 柄尻で逆に殴りつけるようにして、拳を防御。 これがNINJAの拳でなければ、拳が破壊されていた。
 二手目。 柄尻で打たれた反動を拳から肘に流せば、それは力となる。 上半身を力に逆らわず、前に倒す。
 手を地面に着き、背を向けた逆立ちのまま足をサブの首に伸ばせば、横薙ぎの刃が振られる。
 もし、地面に着いた腕を曲げていなければ、NINJAの足は斬られていただろう。
 三手目。 ぬるりとした動きで、サブの足に手を伸ばした。 僅かにでも触れられれば、経穴を突き、足どころか全身を麻痺させる。
 しかし、サブは完璧な運足を見せた。 身体の軸に一切のブレはなく、大きく後方に下がる。
 それは刀の距離である。
 自らの慧眼に歓喜を得たNINJAは、とりあえずとばかりに四手目。 やる気の欠片もなく、五十ばかりのステルス苦内を投げつけた。
 なかなかの剣士だ。 こんな物はあっさりと避けてくれるに違いない。
 そんな奇妙な信頼が、NINJAの中に生まれていた。
 しかし、

「ゲェェェェェ……!」

 信頼した剣士は身を折って、反吐を吐いていた。

「貴様、ふざけているのか!?」

 あれがフェイクのはずはない。 そんな意味はない。 必ず当たる。
 ステルス苦内はサブの身体を貫通し、穴だらけにするだろう。
 何という無様な終わり方か。 燃え始めたNINJAの魂は、どこにぶつければいいのだ。
























 問答は、無かった。
 NINJAの踏み込みに負けず劣らず。 いずこからか現れたスペーステンガロンハットの男が、刀を振った。
 愚かな若い剣士に向かっていたステルス苦内は、たったの一振りで全てが斬り捨てられた。

―――強者。

 これこそがNINJAの求めていた相手。 NINJAは足を踏み出した。
 逆立ちの姿勢のまま、足を踏み出した所で何の意味もない。 そう思うのは常人である。
 宇宙空間を走るNINJAにすれば、惑星の重力圏内は足場に不自由する事はない。
 何故なら大気がある。 大気を足場とし、踏み込んだNINJAの速度はサブを相手にした時よりも上がっていた。
 下から上に、上から右に。 スペーステンガロンハットに向かい、弧を描くように、時には鋭角に、NINJAはランダムな軌道を描きながら加速した。
 そんな揺さぶりに動じる事のないスペーステンガロンハットの男は、どうしようもなくNINJAの身を熱くさせる。

 交差。

 スペーステンガロンハットの一撃は、NINJAの魔眼をして見切れず、NINJAの一撃はスペーステンガロンハットをして見切れず。
 NINJAは腹を薄く斬られ、スペーステンガロンハットは左足を浅く刺されていた。

「その風体、ナルカミ・ブンタか!」

「そういう貴様は飛びカトウ!」

 交差。
 一瞬の間に七つの傷を得て、同じだけを返す。

「知っているぞ、ただの刀を担いでの、レーザー柳生百人斬り!」

「そんな古い話は忘れた!」

 交差。
 六を得て、八を返した。

「ああ、そんな事よりも今だ!」

「最近のNINJAは随分と口数が多いんだな!」

 交差。
 十三を返し、零。
 NINJAは動きを止めた。 これだけの使い手が、ただ受けに回るはずがない。

 一撃を、狙っている。

 僅かな優位に溺れ、最後の一撃を相手に与えるわけにはいかないのだ。 赤く燃えたぎる心はそのままに、ただその身の欲するがままに動く。
 全身を極限まで脱力。 最後の交差に備える。

「サブ」

 スペーステンガロンハットが、口を開いた。

「見てろ。 これが俺の剣だ」

 構えは上段。 狙いは我が脳天。 単純明快なその構えに、恐怖を感じる。

「我が電光石火、捉えられるか」

 ブラックホールに飛び込む方が、まだ生き残れる。 そんな相手を前にして、つい口を開いてしまった。
 それは恐怖ではなく、歓喜を共有して欲しいという欲であった。

「御託はいらねえよ。 来い」

 その望みは叶えられた。 スペーステンガロンハットの剣が、そう言っている。

 だから、脱力、緊張。 飛びカトウの人生最速の踏み込みが始まった。
 左足があまりの負担に血を噴き出す。 しかし、すでに右足の踏み込みに移っている。 最新の大型レーダーでも捉えられぬ速度を得た。 だが、飛びカトウの速さを、剣士の切っ先は捉えていた。

―――斬られる。

 飛びカトウは自らの死を、そこに見た。

「NIN!」






























「感謝するぞ。 お主のお陰で……我は更に強くなれた」

 仰向けに倒れるスペーステンガロンハット。 その胸にはNINJA刀が深々と突き刺さっている。

「嘘だろ……」

「もし、その男が傷を負っていなければ、敗北していたのは我の方だった」

 スライム・ザ・リッパーを相手にした負担は重かったらしい。 身体中の筋をずたずたにされていた。
 しかし、その最後の剣はカトウの覆面を切り裂き、誰にも見せた事のない素顔を晒させた。

「嘘だ……兄ィが負けるはずない!」

「我の、勝ちだ」

 飛びカトウの勝ち名乗りが、荒野に響いた。
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