ゆきち創作短編集

ゆきち

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洞窟

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 慌てて逃げ込んだ洞窟、あいつは、そこまでは追ってこないようだった。

 洞窟の奥を探索する。奥は行き止まりだった。頭が辛うじて通るくらいの狭い穴が横一文字に空いており、苔のようなものが生えてふかふかだった。
 あいつもここからはさすがに入れないだろう。洞窟は居心地がよく、あいつが去るまでここに隠れていようと思った。


 洞窟でうとうとしていると、突然激しい地震に見舞われた。
 天井まで飛び上がり背中を打ちつけながら、入り口までなんとかたどり着く。しかし入り口があったはずの場所は外には繋がっておらず、さらに通路が続く。

 混乱していると、突如として轟音と暴風が吹き荒れる。洞窟の奥から吹いてきているようだ。
 壁に必死につかまる。何かの破片や瓦礫が猛スピードで目の前をかすめていく。

 その時、壁をつかんでいた手に瓦礫が直撃し、思わず手を離してしまった。

 入り口より先の、未知の通路になすすべなく飛ばされる。壁に身体中を打ちつけながら、瓦礫に蹂躙されながら。

 そして見た。

 嵐の終着点、そこに実に凶悪な殺戮兵器があったのだ。
 刃がプロペラのように、残像が残るほどの速度で回っている。あれに触れたらどんな奴でも粉々だ。もう目の前まで死が迫っている。
 満身創痍で暴風にあらがえるわけもなく、運命を受け入れて目を瞑る。せめて一瞬で終わりますように。しかしその願いは叶わなかった。

 いつまでたっても衝撃が来ない。それどころか、何か柔らかいものに包まれているかのようだ。
 おそるおそる目を開けると、遥か天井に、静止した刃が何事もなかったかのように佇んでいた。さらに先ほどの天変地異もいつの間にか収まっている。
 今のうちに、と慌ててプロペラの先の通路に飛び込もうと走り出す。が、あと一歩というところで又しても空間が揺れた。しがみつく間も無く、なぜか空中に投げ出される。外だ!
 危なげなく着地し周囲を確認しようと顔をあげた。

 ひゅっ、と息を呑む。
 あいつと目が合った。
 あいつも驚いた顔をしている。
 あいつが動き出す前に、ほとんど無意識に走り出していた。


 ここまで来れば大丈夫だろう。大きく安堵の息が漏れる。安心したらお腹が空いていることに気付いた。そもそも、食べ物を探していたところをあいつに見つかり、逃げていたのだった。
 あつらえたように、どこからかいい匂いが漂って来る。空腹には逆らえず、フラフラと引き寄せられ、そして見つけた。

 美味しそうだなあ。
 こんなにたくさんあるんだ、家族にも持ち帰ろう。
 その前に少し腹に入れておこう。
 ああ、美味しい。

 夢中で食べた。腹が膨れたからか、何だか胸が苦しくなってきた。

 眠い。
 少し休憩してから出発しよう。
 帰ったら、あいつから逃げおおせた話をみんなにしてやろう…。…それがいい……。
 きっと、楽しい、だろう…な……。
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