28 / 47
第3章 自由な悪意
第7話
しおりを挟む
「あ、旭くん」
「……え? あ、なに? ごめん、考え事してた」
「もしかして、ウォッチャーの仕事? 旭くんのウォッチャーの仕事にこの事件が関係あるの?」
「……あー」
旭は曖昧な返事をした後、コーヒーカップに口を付け、考える時間を稼ぐ。
流石に気づかれたか。
茜は、旭がウォッチャーであることを知っている。
旭は高校を早期卒業する際、仲の良い友人に教えたのだ。彼らのリアクションは驚きや応援が大半だった。茜にも知らせておこうと、ある日の学校の帰り道に教えた。他の友人と同じようなリアクションを取るのかなと思っていたが、茜は予想外の反応を示す。
話を聞いた茜は顔面蒼白になり、「テロリストと戦うなんて、そんな危険なこと……。旭くんが死んじゃう!」と卒倒。焦った旭は茜をお姫様抱っこで自宅まで走って連れていき介抱した。
さて、なんて答えよう。
旭は頭を悩ませる。
いくら友人とはいえ、部外者の茜に本当のことは言えない。
悩んで悩んでようやく出た答えが、「……守秘義務」という曖昧な回答だった。
「……」
茜はじっと旭を見つめる。
いくらなんでも苦しい回答だったか。
内心焦る旭の手に、茜が自分の手を重ねた。その手は柔らかく暖かい、そしてかすかに震えている。
「あまり無茶しちゃ、駄目だよ」
「……わかってる」
「旭くんに何かあったら悲しい」
「うん。大丈夫、死んだりしないから」
それは紛れもない旭の本心だ。
凶悪なテロリスト達から人々を守りたい。だけど、ドラマや小説のように、自分の命と引き換えに他者を救った英雄になるつもりもない。
自分が死んだら悲しむ人間がいる。それは重々承知している。
だから死なない。絶対に死ねない。
「おまたせ」
軽い足取りで電話から戻ってきた悠は、リビングの入口で立ち止まる。どうしたんだろうと悠の視線と辿ると、旭と茜の手に注がれていた。
悠は口に手を当て、にやにやと笑う。
「あら、お邪魔だったかしら?」
茜は「い、いえ!」と慌てて否定し、旭に重ねていた手を引っ込める。
「若いっていいわね」
茜は顔を真っ赤にし、俯く。悠はそんな茜の様子を微笑ましそうに見つめていた。
一方の旭は二人のやりとりの意味がわからず、頭にハテナマークを浮かべる。
「あ、そうそう、さっきの電話ね、お父さんからだった。今日もお父さん、会社に泊りだって」
「ん、わかった」
息子の素っ気ない態度に悠は苦笑。その後何かを思いついたようで、悠はそうだと手を合わせる。
「茜ちゃん。夕飯ウチで食べていかない?」
「いいんですか?」
「構わないわよ。お父さんの分捨てるの、もったいないし。それに賑やかでいいわ。旭の大学生活も聞きたくない?」
「それはぜひ!」
二人のやりとりを見て、旭は自然と頬が緩む。
なんとも平和な光景だ。このごく普通な光景を拝めることは本当に幸せなことなのだろう。
ウォッチャーの仕事において、成果は出ていない。今回の事件において核心的なことは何一つわかっちゃいない。
だから、少し息抜きをしてみよう。
今日はもうウォッチャーの仕事は休んで、母や茜と楽しく過ごそう。頭を休めれば、何か良い方法が思いつくかもしれない。
旭はキッチンで料理を作る悠と手伝う茜を見て、頬を緩ませながらそう思った。
「……え? あ、なに? ごめん、考え事してた」
「もしかして、ウォッチャーの仕事? 旭くんのウォッチャーの仕事にこの事件が関係あるの?」
「……あー」
旭は曖昧な返事をした後、コーヒーカップに口を付け、考える時間を稼ぐ。
流石に気づかれたか。
茜は、旭がウォッチャーであることを知っている。
旭は高校を早期卒業する際、仲の良い友人に教えたのだ。彼らのリアクションは驚きや応援が大半だった。茜にも知らせておこうと、ある日の学校の帰り道に教えた。他の友人と同じようなリアクションを取るのかなと思っていたが、茜は予想外の反応を示す。
話を聞いた茜は顔面蒼白になり、「テロリストと戦うなんて、そんな危険なこと……。旭くんが死んじゃう!」と卒倒。焦った旭は茜をお姫様抱っこで自宅まで走って連れていき介抱した。
さて、なんて答えよう。
旭は頭を悩ませる。
いくら友人とはいえ、部外者の茜に本当のことは言えない。
悩んで悩んでようやく出た答えが、「……守秘義務」という曖昧な回答だった。
「……」
茜はじっと旭を見つめる。
いくらなんでも苦しい回答だったか。
内心焦る旭の手に、茜が自分の手を重ねた。その手は柔らかく暖かい、そしてかすかに震えている。
「あまり無茶しちゃ、駄目だよ」
「……わかってる」
「旭くんに何かあったら悲しい」
「うん。大丈夫、死んだりしないから」
それは紛れもない旭の本心だ。
凶悪なテロリスト達から人々を守りたい。だけど、ドラマや小説のように、自分の命と引き換えに他者を救った英雄になるつもりもない。
自分が死んだら悲しむ人間がいる。それは重々承知している。
だから死なない。絶対に死ねない。
「おまたせ」
軽い足取りで電話から戻ってきた悠は、リビングの入口で立ち止まる。どうしたんだろうと悠の視線と辿ると、旭と茜の手に注がれていた。
悠は口に手を当て、にやにやと笑う。
「あら、お邪魔だったかしら?」
茜は「い、いえ!」と慌てて否定し、旭に重ねていた手を引っ込める。
「若いっていいわね」
茜は顔を真っ赤にし、俯く。悠はそんな茜の様子を微笑ましそうに見つめていた。
一方の旭は二人のやりとりの意味がわからず、頭にハテナマークを浮かべる。
「あ、そうそう、さっきの電話ね、お父さんからだった。今日もお父さん、会社に泊りだって」
「ん、わかった」
息子の素っ気ない態度に悠は苦笑。その後何かを思いついたようで、悠はそうだと手を合わせる。
「茜ちゃん。夕飯ウチで食べていかない?」
「いいんですか?」
「構わないわよ。お父さんの分捨てるの、もったいないし。それに賑やかでいいわ。旭の大学生活も聞きたくない?」
「それはぜひ!」
二人のやりとりを見て、旭は自然と頬が緩む。
なんとも平和な光景だ。このごく普通な光景を拝めることは本当に幸せなことなのだろう。
ウォッチャーの仕事において、成果は出ていない。今回の事件において核心的なことは何一つわかっちゃいない。
だから、少し息抜きをしてみよう。
今日はもうウォッチャーの仕事は休んで、母や茜と楽しく過ごそう。頭を休めれば、何か良い方法が思いつくかもしれない。
旭はキッチンで料理を作る悠と手伝う茜を見て、頬を緩ませながらそう思った。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる