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第1話 妹専用金庫

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 事の始まりは約一ヶ月前に遡る。
 それはいつも通りの日常だった。
 朝起きて学校に行き、授業を受け、帰ってからゲームをする。
 そんな何の変哲もない生活を送ってきた。
 しかしある日突然、それは起きたのだ。

「おにいちゃーん! あれかってぇ!」

 妹の美麗(みれい)がテレビ画面の向こう側のおもちゃを指さしながら俺を呼ぶ。
 蒼はコントローラーを置いて振り返る。
 そこには、段ボールで自作したプリティマジカルの魔法ステッキを持った美麗の姿があった。
 蒼は思わず苦笑する。
 もうすぐ小学六年生になるっていうのにまだこんなものに興味があるのか……。
 蒼はため息交じりに口を開く。

 可愛い……

 蒼は黒髪ツインテールの美少女、美麗の手を取り、こう言った。

「お兄ちゃんの言うこと、何でも聞くか?」
「うんっ」

 即答である。

 丁度、お年玉の残りがある。
 蒼は、美麗のために無意識に使わずにとっておいたお年玉の残りを使うことにした。

「行こう! イオゥンへ!」



 プリティマジカルの魔法ステッキ。

 これは魔法少女アニメの主人公、愛崎えみりが持つ魔法の杖だ。
 このアニメを見て育った子供たちなら誰もが憧れる代物だろう。
 だが、蒼は別にこれを欲しかったわけではない。

 可愛い美麗のためだ!

 ただ、自分のお金を使って買う以上、妹には喜んでもらいたいと思う!

「お兄ちゃん! ありがとう!」

 笑顔の美麗。
 蒼の身体に電気が走る。
 大好きな妹に喜ばれるなら、俺は妹専用の金庫になる。
 そう誓った時だった。

「きゃー!」

 イオゥンは人通りが多い。
 子供の鳴き声は珍しくない。
 だが、今聴こえたのは、悲鳴だ。
 若い女の。

「わー!」
「きゃー!」

 蒼は異常な事態だと悟る。
 前方の人だかりが蜘蛛の子を散らした様に、バラバラになる。
 血を流している人もいる。
 人をかき分け、日本刀を振り回す凶刃の姿が見えた。

「美麗、逃げるぞ!」

 蒼は美麗の手を取る。
 
「ううっ……」

 美麗は恐怖で動けなくなっていた。
 目に涙を一杯ため、さっき買ったばかりの魔法ステッキを握り締めている。
 美麗の足元には水たまりが出来ていた。
 おしっこを漏らしていた。

「やばい!」

 無敵の人が向かって来る。

「美麗に手を出すな!」

 蒼は無敵の人の前に立ちはだかる。

「どけー! 俺は死ぬんだー!」

 無敵の人が日本刀を袈裟切りに振り下ろす。

ザクッ!

 蒼は激痛の中、意識を手放した。



 目が覚めた。

 そこは真っ白な世界だった。

「あれ? 俺、死んだの?」

 俺、紅蓮蒼(ぐれんあおい)は普通の高校一年生。
 どこにでもいる高校生。
 家族構成、父、母、妹。
 身長170cm、62kg。
 顔、普通。
 髪、黒。
 好きなモノ、ラノベ、ゲーム。
 異世界系のものが特に。
 帰宅部。
 中学まで空手をやっていた、一応初段。
 そのせいで不良に絡まれることは無かった。
 女の子は好きだが、今は特定の好きな女の子なし。
 若干のシスコン癖あり。
 どうやら死んだらしい。

 通り魔に襲われそうになった妹を助けるために、死んだんだ。

 そこまでが現世での記憶だ。

「ようこそ」

 目の前に現れたのは、金髪ツインテールの目が大きな天使。
 めっちゃ可愛い。
 そして、見覚えがある。

「あ、お目に掛るの二回目ですよね」

「蒼様は今回で二回目ですね」

 確か天使の名前はリリナ。
 今回で会うのは二回目だ。

「確か、一回目はアボガルド大陸の魔王討伐の件でお会いしましたね」

「あ、そうでしたっけ」

「そうでしたっけって、覚えてないんですか?」

「はい。私も沢山の転生して来た人と会うので、覚えていません」

「そっすか……」

 リリナが俺のことを覚えていないのが、ちょっと残念だ。

「蒼さん。すいません。本題に入らせてください」

「はい」

「アボガルド大陸でまた魔王が復活しました」

「え!? 復活するの早くない!? あと、アボガルド王国弱すぎ!」

 俺が討伐してから一年くらいしか経ってない。
 一回目に転生したのは確か中学三年の夏くらいだった。
 その時は妹がトラックにはねられそうになったのをかばって、死んだんだ。

 よく死ぬな、俺!

 あと、よく災難にあうな、俺の妹!

 前回は魔王を討伐したことによって、俺は現世に蘇ることが出来た。

「おにいちゃ~ん」

 俺の胸に飛び込んで泣く、12歳の妹は可愛かった……

「で、蒼いさんは今回もアボガルド王国に転生し魔王討伐をお願いします」

「分かりました」

 二回目だから驚きもそれほどない。

「今回の魔王は前回よりも強力です。だから神様は多くの神聖力を用意しました」

 リリナが後ろを振り向いた。

 鏡が現れ、そこに白い顎髭の頭が禿げたおじさんが現れた。

「神様……蒼さんにスキルをお与えください」

つづく
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