1 / 75
第1話 クリア後の世界に彼女はいない
しおりを挟む
「うぐおおおおおおおおお!」
魔王デウスは勇者クルスの一撃を喰らい、叫び声を上げた。
その叫びで地が揺れ、石造りの壁にひびが入る。
遂に魔王デウスのHPに0になった。
(やったか……)
都内の高校一年生、山田久留洲はゲーム画面に釘付けになった。
ゲームパッドを握る手が震える。
仲間達のステータスを確認する。
どのメンバもHP、MP共に限界だ。
(お願いだ。このまま倒れてくれ)
これまで魔王デウスはHPが0になる度に、形態を進化させてきた。
その度に、姿は禍々しく、魔力は強力になって行った。
今、目の前でうずくまっている魔王は第3形態。
(噂じゃ、第4形態もあるらしいが……)
久留洲は気を引き締めた。
魔王が何回変化するか、全てのプレイヤーは誰も本当のことを知らない。
なぜなら、ラスボスの魔王デウスを倒したプレイヤーはこの世にまだ誰もいないのだから。
従って、久留洲が魔王デウスを倒せば『最速クリア』の称号を得ることが出来る。
(お願いだ……これで終わりにしてくれ!)
久留洲は苦しむ魔王を見ながら、祈った。
最速クリアはゲーマーにとって名誉なことだ。
その記録はサーバーに永遠に刻まれ、全てのプレイヤーの目に触れることになる。
「我が見滅ぶとも……我が野望は尽きぬ……」
魔王デウスは絞り出す様なボイスがスピーカーから出力される。
そして、画面が暗転。
魔王デウスは黒い闇に包まれ消滅した。
「やった……」
無音になる。
金曜日の深夜12時。
久留洲がこもる四畳半の部屋が、シンと静まり返った。
発売初日で1000万本売り上げた大人気RPG--
『ドラゴネスファンタジア』
今、エンディングを迎えようとしていた。
やがて画面は真っ白になり、ストリングスの優しい音楽が流れ出した。
久留洲が操作する勇者クルス、そして仲間達。
お互い顔を見合わせ頷いた。
仲間達の一人、白い衣装の可愛らしい少女がクルスの前に進み出た。
白銀の髪を揺らしながら、白い頬を赤く染めにこりと笑った。
ラインハルホ王国の姫、魔法剣士のガイアナ姫だ。
このゲームのヒロインでもある。
彼女の美しい顔がアップになる。
画面に向かう久留洲の細目と、ガイアナの黒く大きな目が合う。
「救世主、ありがとう」
その言葉が久留洲の胸に突き刺さった。
ゲームのクルスはこう返した。
「ガイアナ姫のお陰です」
画面を見つめる久留洲は、何か言葉を返そうと思っても、何も出て来ない。
ぽた、ぽた……
ゲームパッドに涙がしたたり落ちた。
それはうれし涙じゃなかった。
悲し涙だった。
最速クリアを達成した瞬間、全てが虚しくなったのだ。
「アティナ……」
思わず、死んだ幼馴染キャラの名前を呟いていた。
久留洲は画面に向かってアティナのことを想っていた。
最初の村でクルスとアティナは出会う。
アティナはゲームのカギを握るキャラクターで、『聖女』としての役割を担っていた。
久留洲は旅になど出たくなかった。
ずっと最初の村で彼女とずっとパン屋をしていたかった。
そう、彼は--
ゲーム内のキャラクターに恋をしていのだ。
だが、ゲームの中の主人公つまり、クルスの運命はそれを許さなかった。
クリア後の世界にアティナはいない。
そして、何度ゲームをやり直しても、その運命は変わらないだろう。
数々の名場面が流れ始めた。
スタッフの名前と共に。
だが、久留洲の脳裏にはアティナとの生活が浮かんでいた。
「THE END」
そして画面は暗転した。
『ドラゴネスファンタジア』をクリアした。
プレイ時間は300時間ちょうど。
発売開始から15日でのことだ。
「眠い……」
そりゃそうだ。
その間に学校へ行き、1日の睡眠時間はたったの1時間だ。
薄れゆく意識の中、アティナとの楽しかった日々が脳裏を過ぎて行く。
「うっ……えっ!」
……画面に何かが映っているのに気づく。
久留洲は我に返った。
そこにはなんと、アティナが映っていた。
「最速クリアおめでとう!」
屈託のない笑顔だ。
あの一緒にパンを焼いていた日々を思い出す。
つづく
魔王デウスは勇者クルスの一撃を喰らい、叫び声を上げた。
その叫びで地が揺れ、石造りの壁にひびが入る。
遂に魔王デウスのHPに0になった。
(やったか……)
都内の高校一年生、山田久留洲はゲーム画面に釘付けになった。
ゲームパッドを握る手が震える。
仲間達のステータスを確認する。
どのメンバもHP、MP共に限界だ。
(お願いだ。このまま倒れてくれ)
これまで魔王デウスはHPが0になる度に、形態を進化させてきた。
その度に、姿は禍々しく、魔力は強力になって行った。
今、目の前でうずくまっている魔王は第3形態。
(噂じゃ、第4形態もあるらしいが……)
久留洲は気を引き締めた。
魔王が何回変化するか、全てのプレイヤーは誰も本当のことを知らない。
なぜなら、ラスボスの魔王デウスを倒したプレイヤーはこの世にまだ誰もいないのだから。
従って、久留洲が魔王デウスを倒せば『最速クリア』の称号を得ることが出来る。
(お願いだ……これで終わりにしてくれ!)
久留洲は苦しむ魔王を見ながら、祈った。
最速クリアはゲーマーにとって名誉なことだ。
その記録はサーバーに永遠に刻まれ、全てのプレイヤーの目に触れることになる。
「我が見滅ぶとも……我が野望は尽きぬ……」
魔王デウスは絞り出す様なボイスがスピーカーから出力される。
そして、画面が暗転。
魔王デウスは黒い闇に包まれ消滅した。
「やった……」
無音になる。
金曜日の深夜12時。
久留洲がこもる四畳半の部屋が、シンと静まり返った。
発売初日で1000万本売り上げた大人気RPG--
『ドラゴネスファンタジア』
今、エンディングを迎えようとしていた。
やがて画面は真っ白になり、ストリングスの優しい音楽が流れ出した。
久留洲が操作する勇者クルス、そして仲間達。
お互い顔を見合わせ頷いた。
仲間達の一人、白い衣装の可愛らしい少女がクルスの前に進み出た。
白銀の髪を揺らしながら、白い頬を赤く染めにこりと笑った。
ラインハルホ王国の姫、魔法剣士のガイアナ姫だ。
このゲームのヒロインでもある。
彼女の美しい顔がアップになる。
画面に向かう久留洲の細目と、ガイアナの黒く大きな目が合う。
「救世主、ありがとう」
その言葉が久留洲の胸に突き刺さった。
ゲームのクルスはこう返した。
「ガイアナ姫のお陰です」
画面を見つめる久留洲は、何か言葉を返そうと思っても、何も出て来ない。
ぽた、ぽた……
ゲームパッドに涙がしたたり落ちた。
それはうれし涙じゃなかった。
悲し涙だった。
最速クリアを達成した瞬間、全てが虚しくなったのだ。
「アティナ……」
思わず、死んだ幼馴染キャラの名前を呟いていた。
久留洲は画面に向かってアティナのことを想っていた。
最初の村でクルスとアティナは出会う。
アティナはゲームのカギを握るキャラクターで、『聖女』としての役割を担っていた。
久留洲は旅になど出たくなかった。
ずっと最初の村で彼女とずっとパン屋をしていたかった。
そう、彼は--
ゲーム内のキャラクターに恋をしていのだ。
だが、ゲームの中の主人公つまり、クルスの運命はそれを許さなかった。
クリア後の世界にアティナはいない。
そして、何度ゲームをやり直しても、その運命は変わらないだろう。
数々の名場面が流れ始めた。
スタッフの名前と共に。
だが、久留洲の脳裏にはアティナとの生活が浮かんでいた。
「THE END」
そして画面は暗転した。
『ドラゴネスファンタジア』をクリアした。
プレイ時間は300時間ちょうど。
発売開始から15日でのことだ。
「眠い……」
そりゃそうだ。
その間に学校へ行き、1日の睡眠時間はたったの1時間だ。
薄れゆく意識の中、アティナとの楽しかった日々が脳裏を過ぎて行く。
「うっ……えっ!」
……画面に何かが映っているのに気づく。
久留洲は我に返った。
そこにはなんと、アティナが映っていた。
「最速クリアおめでとう!」
屈託のない笑顔だ。
あの一緒にパンを焼いていた日々を思い出す。
つづく
0
あなたにおすすめの小説
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
異世界修行の旅
甲斐源氏
ファンタジー
何事にも無気力な少年が雷に打たれて死んだ。目の前に現れた神様に奈落へと落とされてしまう。そこでの修行は厳しく、何度も死んでも修行は続いた。そして、修行の第1段階を終えた少年は第2段階として異世界に放り込まれる。そこで様々な人達と出会い、成長していくことになる。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル
異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった
孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた
そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた
その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。
5レベルになったら世界が変わりました
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる