ヒロインなんかほっといて、主人公は異世界で静かに幼馴染とパンを焼いていたい

yonechanish

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第12話 ラインハルホ城で起きたこと その1

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「じゃ、僕はここまでです」

 ラインハルホ城下の門の前でクルスは、初老の男にそう言った。
 空はうっすら白くなり始めていた。
 東の空から朝日が昇ろうとしている。
 夜が明けようとしていた。

「ありがとう。ありがとう」

 初老の男は、オークに襲われたところをクルスに助けられた。
 その名はコーツィ。
 元ラインハルホ城の騎士で、今は妻と二人、城下で悠々自適の生活を送っている。

"人の口に戸は立てられぬ"

 そんなことわざがある。
 それは、この初老の男にも当てはまった。

「あの、一つお願いがあります」

 クルスはコーツィの目をじっと見て、そう言った。

「何ですかな?」

 コーツィは白い顎髭を撫でながら、クルスの目を見た。

「オークのことは黙っていて欲しいんです」
「ほう? そりゃまた何で?」

 コーツィは首を傾げた。

「オークが複数体出現したならまだしも、一体だけです。僕が倒したことでこの辺にはもういなくなったかもしれない……。オークがいないのであれば、ラインハルホをそういった情報で混乱させたくないんです。僕はもう少しパルテノ村周辺を調べてみます。だから、今は……」

 クルスはコーツィの目をじっと見た。
 その力強い瞳に、コーツィは恐れを感じた。

「分かりました。今日襲われたことは誰にも言いません」

~~~

「話題のパン屋のパン買ってきたぞ~」

 コーツィは寝ている妻を叩き起こした。

「まあ、あなた……服がボロボロ……」
「そんなことはどうでもいい! それよりお前が食べたがっていたパン屋のパンだ」

 二度寝しようとする妻を再び叩き起こし、コーツィはパンを妻の口にねじ込んだ。

「ぐう、うぐうっ!」 

 愛妻家コーツィの過剰な愛情に、妻は苦しんだ。

 だが、しかし!

「美味い!」

 その言葉にコーツィは得意げな顔になった。

「さ、もっと食べるんだ」

 食卓に珈琲を用意。
 パンと共に夫婦は楽しい朝食をとった。

「ほんとうに美味しいわね」
「うむ、美味い。美味い」
「それはそうと、あなた。どうして服がボロボロなんです?」

 コーツィは妻に、つい、オークに襲われたことを話した。
 そのついでに、つい、クルスに助けられたことも話した。

「そのパン屋の男はすごかった! 素早い剣さばき、地形を活用した頭脳戦。是非ともラインハルホ城で騎士になって欲しいくらいだ!」

 コーツィは鼻息を荒げながら、クルスの戦い振りを、自分の武勇伝の様に語った。

「まぁ、まぁ。それはすごい。でも、その人が騎士になったらこの美味しいパンが食べれなくなりますね」
「おっ……おお! そうだな!」

 コーツィは食べかけのクリームパンを見て、思い出した。

(いかん! 口止めされてたのについ、喋ってしもうた!)

つづく
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