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第54話 金、時間、運
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アティナの髪から甘やかな匂いが漂う。
見た目よりも、こうして触れてみると意外にしっかりとした質感のある身体だった。
柔らかくて心地よい感触の中、クルスはいつまでもこうしていたいと思った。
だが、いつまでもこうしてはいられない。
時間は待ってはくれないからだ。
「さ、もう行かなきゃ」
クルスは何度も決意し、心が負けながらも、やっとアティナを自分の身体から引き離すことが出来た。
「クルス……もう行くの?」
「うん。もう時間が無いんだ」
港町マドニアからロドス大陸への定期船は、今日の昼過ぎに出発する。
これに乗り遅れたら、次に来る同じ航路の定期便は一ヶ月後にしか来ない。
そうなれば、クルスの予定は大きく狂う。
ユナの命も、ゲームでの寿命を考えたらあと一週間くらいだろう。
乗り遅れたからと言って、一度パルテノ村に一旦戻って、次の定期便に合わせて再出発するという悠長なことはやってられなかった。
「クルス、これ……持って行って」
アティナはクルスに紙包みを手渡した。
クルスの手にずっしりとした重さが伝わる。
「これは……」
「私が作った特製のパン。何かあったら食べて」
(とっておきのパンか……)
まだ温かい。
作りたてなのだろう。
クルスはアティナの心遣いが嬉しかった。
そのパンを腰に着けた収納袋にしまった。
「じゃ……」
名残惜しいが、クルスは踵を返そうとした。
その瞬間、後ろに引っ張られる。
「ん……」
クルスは唇に柔らかい感触を感じた。
爪先立ちのアティナの閉じた目が目の前にある。
アティナの唇はとても柔らかくて、優しくて、温かかった。
~~~
パルテノ村を後にしたクルスは港町マドニアを目指していた。
まず、港町マドニアに辿り着いたら、定期船が来るまでの間に、今持っているアイテムを売り、金に替えようと考えていた。
船賃を稼ぐことも目的だったが、何より、クルス自身の装備を固めたかった。
今のメインの武器、つまり鉄の剣じゃイリアス山のモンスターに立ち向かうのは難しい。
イリアス山は、BやCクラスのモンスターの巣窟だった。
アポロの花が咲く山頂には、『グリーンドラゴン』というAクラスのモンスターがいる。
今のクルスのレベル26では、天候や戦略、そして運が重ならなければ勝つことは出来ない。
勝つ確率を上げるため、クルスは強力な武器や防具が必要だと考えている。
そして、出来れば、時間が許すのであれば、強力な傭兵を雇えたらとも考えていた。
やはりソロだと厳しい。
雇えたとしてもNPCという位置付けの相手だろうから、Cクラス以上のモンスターの前では役に立たないだろう。
だが、いないよりはよっぽどマシだ。
イリアス山は何度もゲームでは立ち寄った場所だが、この異世界では初めての場所だ。
だから、
一人では不安だった。
誰でもいいから側にいて欲しい。
いつでも逃げていいという条件の元、少々高い金を出しておいても誰かを側に連れておきたい。
(出来れば、治癒魔法使いがいいな……)
Cクラス以上のモンスターしばりがあるので、戦士や武闘家よりは役に立ちそうだ。
仲間も必要だ。
だが、その元手となるものつまり……
兎に角、クルスには今、金と時間そして、運が必要だった。
つづく
見た目よりも、こうして触れてみると意外にしっかりとした質感のある身体だった。
柔らかくて心地よい感触の中、クルスはいつまでもこうしていたいと思った。
だが、いつまでもこうしてはいられない。
時間は待ってはくれないからだ。
「さ、もう行かなきゃ」
クルスは何度も決意し、心が負けながらも、やっとアティナを自分の身体から引き離すことが出来た。
「クルス……もう行くの?」
「うん。もう時間が無いんだ」
港町マドニアからロドス大陸への定期船は、今日の昼過ぎに出発する。
これに乗り遅れたら、次に来る同じ航路の定期便は一ヶ月後にしか来ない。
そうなれば、クルスの予定は大きく狂う。
ユナの命も、ゲームでの寿命を考えたらあと一週間くらいだろう。
乗り遅れたからと言って、一度パルテノ村に一旦戻って、次の定期便に合わせて再出発するという悠長なことはやってられなかった。
「クルス、これ……持って行って」
アティナはクルスに紙包みを手渡した。
クルスの手にずっしりとした重さが伝わる。
「これは……」
「私が作った特製のパン。何かあったら食べて」
(とっておきのパンか……)
まだ温かい。
作りたてなのだろう。
クルスはアティナの心遣いが嬉しかった。
そのパンを腰に着けた収納袋にしまった。
「じゃ……」
名残惜しいが、クルスは踵を返そうとした。
その瞬間、後ろに引っ張られる。
「ん……」
クルスは唇に柔らかい感触を感じた。
爪先立ちのアティナの閉じた目が目の前にある。
アティナの唇はとても柔らかくて、優しくて、温かかった。
~~~
パルテノ村を後にしたクルスは港町マドニアを目指していた。
まず、港町マドニアに辿り着いたら、定期船が来るまでの間に、今持っているアイテムを売り、金に替えようと考えていた。
船賃を稼ぐことも目的だったが、何より、クルス自身の装備を固めたかった。
今のメインの武器、つまり鉄の剣じゃイリアス山のモンスターに立ち向かうのは難しい。
イリアス山は、BやCクラスのモンスターの巣窟だった。
アポロの花が咲く山頂には、『グリーンドラゴン』というAクラスのモンスターがいる。
今のクルスのレベル26では、天候や戦略、そして運が重ならなければ勝つことは出来ない。
勝つ確率を上げるため、クルスは強力な武器や防具が必要だと考えている。
そして、出来れば、時間が許すのであれば、強力な傭兵を雇えたらとも考えていた。
やはりソロだと厳しい。
雇えたとしてもNPCという位置付けの相手だろうから、Cクラス以上のモンスターの前では役に立たないだろう。
だが、いないよりはよっぽどマシだ。
イリアス山は何度もゲームでは立ち寄った場所だが、この異世界では初めての場所だ。
だから、
一人では不安だった。
誰でもいいから側にいて欲しい。
いつでも逃げていいという条件の元、少々高い金を出しておいても誰かを側に連れておきたい。
(出来れば、治癒魔法使いがいいな……)
Cクラス以上のモンスターしばりがあるので、戦士や武闘家よりは役に立ちそうだ。
仲間も必要だ。
だが、その元手となるものつまり……
兎に角、クルスには今、金と時間そして、運が必要だった。
つづく
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