ヒロインなんかほっといて、主人公は異世界で静かに幼馴染とパンを焼いていたい

yonechanish

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第60話 人外少女の価値

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「お邪魔します……」

 クルスは馬車に乗ったことが無い。
 少し緊張しながら、乗り込む。
 友達の家に始めて来たみたいな、懐かしい緊張感だ。

 ゲロルグが馬車を運転し、その助手席に妻のアビスが座っている。
 荷台の隅で、タカがあぐらをかいて眠っている。

 馬車の中は板敷で木の匂いがする。
 白い幌は所々ゴブリンの襲撃のせいで破れていて、そこから日の光が差していて、馬車の中がまだら模様になっている。

 まずは、自らが座る場所を探した。

 所々に宝箱や袋そして、武器や防具なども置かれている。
 それらの隙間にクルスはそっと座った。

 クルスが座ったら馬車が揺れ始めた。
 車輪が軋む音、荷台に置かれた荷物がぶつかり合う音、それらがクルスの耳朶を打つ。

「はいや! はいやーっ!」

 ゲロルグの掛け声と鞭の音、そして馬のいななきと、蹄で地面を蹴る音が、クルスの耳朶を打つ。

「あ、どうも……」

 クルスは丁度目の前に膝を抱えて座る獣人の少女に会釈した。

「ん……」

 獣人の少女は、小さく尖った顎を上下させた。

(確かエスティアっていう名前だったな)

 先程までピンと立っていたエスティアの猫耳は、今はペタンと垂れていた。
 ゴブリンの恐怖による緊張感から解放され、今は落ち着いているのだろう。
 彼女は、自分の手の甲を猫の様になめている。
 口元から見える小さな牙が、クルスをしてこう思わせた。

(かわいい……)

 猫耳を触りたいと素直に思った。

 まだ、仲良くなってないのでそれは難しい。

 というか、仲良くなっている暇は無いのだが。

(仲良くなりたいのか……僕は?)

 『ドラゴネスファンタジア』の世界において、亜人は人間に近い存在でありながら忌避される対象でもあった。
 例外はある。
 アティナは母が人間で、父がエルフのハーフエルフだ。
 彼女の場合はオシドスに守られていることで、パルテノ村で不自由なくやって行くことが出来ている。
 周りの人々に恵まれれば、亜人としてもやって行ける。
 だが、それはよっぽど幸運な場合だけだ。

 ほとんどの亜人は、忌み嫌われ、奴隷として生かされていることが多かった。

 ゲームでもそんな場面があったし、クルスが人間に攻撃される亜人を助けることもあった。

 『ドラゴネスファンタジア』で生きる人間のほとんどは、こと亜人に関して、クルスと価値観が違った。
 この異世界でもそうだった。

 特に、獣人であるエスティア。

 彼女のモフモフした猫耳は、この異世界の目には住人には奇妙なものに映っている。

 だが、クルスの目には、

 可愛らしくて、かつ触りたいもの。

 として映っていた。

 仲良くなりたいという感情は彼女のことを知りたいという感情とも繋がっていた。

 そして、クルスはつい数分前に知った事実、その記憶とも繋がった。

 ゲロルグはエスティアのことを商品だと言っていた。

 エスティアはどこかに売られる予定なのだった。

つづく
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