ヒロインなんかほっといて、主人公は異世界で静かに幼馴染とパンを焼いていたい

yonechanish

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第73話 姫は何で?

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「てめぇ、一体何者なんだ!?」

 男は後ずさりながら叫んだ。
 慌てている男とは対照的に、ガイアナ姫は落ち着き払った様子で、小さな唇から澄んだ声を発した。

「私の名前は、ラインハルホ・ガイアナ。ラインハルホ王国の姫よ」
「本当か?」
「本当よっ!」
「嘘だ! お前みたいなお転婆そうな奴が、お姫様な訳がねぇ!」

 すごい。
 初対面で、ガイアナ姫の本質を言い当てたぞ。
 クルスは男を心の中で褒めた後、すぐに、何でこんな奴を褒めてるんだと自己嫌悪になった。

「もう、うるさい! こんなにおしとやかな姫は世界中探したっていないわ!」

 はいはい。
 自分で言うなら自由ですよ。

 クルスはそう思った。

 男は呆気に取られている。
 ガイアナ姫は部屋中を見渡し、再びクルスを見下ろした。

「マドニアにも蛇賭《じゃと》のアジトがあるとは。クルスでかしたぞ」

(え?)

 さっき怒られたばっかりで、今度は褒められた?

 姫、一体どういうこと?

 僕、何かお手柄立てた?

 困惑するクルスにガイアナ姫は小さく頷いた。
 男に向き直る。

「さて、素直に罪を認め投降するなら、傷付けることはしない。そこに倒れている男みたいに痛い目に見ずに済む」

 ガイアナ姫は、階段の側で意識を失ったまま倒れている男を、あごで示した。

「てめぇ……」
「あ、そうそう。入り口にいた奴らもやっつけちゃった!」

 ガイアナ姫は満面の笑みを浮かべ、両手を叩いた。

 どうやら、このアジトは地下にある様だ。
 その入り口が地上にあり、そこを見張っている蛇賭《じゃと》のメンバーをガイアナ姫は倒して、今ここに来たらしい。

(一体どうしてここに?)

 確か、ガイアナ姫はラインハルホ城に戻ったはずだ。

(それなのに……何で今、蛇賭《じゃと》のアジトにいて、そして再び僕の目の前に現れたんだ?)

 ガイアナ姫はクルスを説得することを諦め、魔王を倒すために遂に冒険の旅に出たのだ。
 その途中でたまたま蛇賭《じゃと》のアジトを見つけた。
 クルスはいくら考えても、そうとしか思えなかった。

「……っく。なんてこった……」

 男は更に後ずさった。

「あんたぁ……」

 男の妻であるナモが心配そうな顔で、泣きそうな声を上げている。
 クルスは視線を這わせ、ガイアナ姫と男のステータスを見比べた。
 戦う前から結果は分かっていた。

 蛇賭《じゃと》のメンバーは、強さにばらつきがある。
 一般人だった者が道を外して蛇賭《じゃと》になる場合もあれば、行き場のない孤児が拾われ、蛇賭《じゃと》になる場合もある。
 当然、生え抜きのメンバーの方が、途中から加入したメンバーよりも鍛えられた年数も違うし、思想も蛇賭《じゃと》としてすっかり染まっている。
 ゲームでもそうだが、この異世界でもその様だ。

「くっ……分かったよ……」

 男の手がだらりと下がり、毒針が落ちた。
 男はガイアナ姫から発する闘気の様なものを感じ取ったのだろう。

 この女は自分より強い。

 そう思い、負けを認めたらしい。
 毒針は石畳の床に当たって跳ね返り、クルスが寝かされている台の下まで転がって行った。

 男は蛇賭《じゃと》に入ったばかりなのだろう。
 実力、忠誠心、思想の面でも、まだまだ蛇賭《じゃと》のメンバーとして不足していた。

(良かった)

 兎に角、ガイアナ姫のお陰でクルスとエスティアの命は助かった。

つづく
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