金色の瞳

バナナ🍌

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侯爵令嬢側仕え

腹黒王子に貸し1つ

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王族や貴族が治める王国が殆どのこの世界では、世界共通の知識はそれほど多くない。
そんな知識の中の1つにこんな物があった。
金色の瞳ゴールデンアイを持つ者は生まれながらの“天才„だと。



デヴィン王子は3人の令嬢とアリシア様、そしてわたしをゆっくりと見渡した。
わたしはベール越しに頬を押さえながらデヴィン王子の様子を見る。
目が合うと微笑まれた。
ゾッとする。
「レノムスティア王国では、殺人、暴力、暴行は厳しく禁じられている。この国の公爵家の者となれば当然御存じでしょう?」
デヴィン王子がにっこりと微笑んで令嬢を見る。その目は令嬢を見ているようで全く見ていないように見え、温室育ちの令嬢にはとても恐ろしい物に感じるだろう。
デヴィン王子は既に令嬢に遠回しな追い討ちをかけている。
翻訳するとこうだ。
暴力をしてはいけないと知らないでこんな事をしたのだから、もう公爵では居させないぞ、と。
わたしに手を上げた令嬢は口を押さえガタガタと肩を震わせた。
「ち、違いますデヴィン王子ッ!その者、その者が悪いのですッッ!!」
「そうですわ!デヴィン王子。その者、公爵であるわたくし達に無礼が過ぎるのですッッ!!」
「それに相応の処置を施しただけですわ!」
前から思っていたが、この3人はとても公爵令嬢に見えない。
そういえば、この3人、姉妹だったか。何がどうなればこう育つのだろう。
公爵令嬢はこんな敵意丸出しにしない。もっとおしとやかに周りに振る舞う。
家の名に相応しいように。
それが貴族に生まれた者の宿命だ。
デヴィン王子は3人の言葉に、優雅に頷いた。
「確かに、正当な自己防衛は認められているね」
「っでしょうッッ………?!」
令嬢達の表情が明るくなった。
が、
「けれど、これは正当では無いよ」
「「「ッッ………!!!」」」
デヴィン王子はそんな3人をピシャリと切り捨てた。令嬢達は愕然とデヴィン王子を見つめる。その瞳には既に絶望の色が混じっていた。
「アリシア嬢の側仕えからの頬から血が出ているでしょう?それもベールから染み出ている。……処置隊はどうなっているんだ?何故まだ彼女の手当てをしていない」
デヴィン王子はそう言って、近くに居た執事を青色の瞳で睨んだ。パリンと窓のガラスが割れた。脅しだろう。デヴィン王子の能力は無動物を破壊する力。けれど、執事はその事を知らない為、ただ“破壊する力„と解釈し、顔を真っ青にした。
「も、申し訳ございませんっ!すぐ用意致します」
「悪いけど、王宮は無能を抱える程優しくないよ」
「申し訳ございませんっ!!」
そう言って執事達が頭を下げ、バタバタと処置隊を呼びに行く。
すると、ケイラーさんが処置箱を持って駆け足でわたしの方に来た。
最悪だ。
よりによってこの人か。
そう思いながら、わたしはケイラーさんの手伝いを得て、頬を押さえながら起き上がる。すっかり血が手に付いてしまった。
わたしが起き上がる様子をちらっと見たデヴィン王子はそのまま令嬢達を追い詰めた。
その間、わたしはケイラーさんに手当てしてもらった。ケイラーさんが処置箱から消毒液と布を取り出す。
「大丈夫?痛そうだね、頬を打たれて」
「…えぇ………」
ケイラーさんの言葉に、わたしはベールの奥で苦笑しながら言葉を返す。
頬を打たれただけでここまで血は出ない。
わたしは令嬢に打たれて倒れた時、自分の頬を押さえ小さく深く傷を付けた。袖に仕込んで置いたアリシア様護身用の針でだ。打たれたのだから普通に打たれた時の跡として頬は赤くなっている。
まぁベール越しだから見えないだろうが。
すると、ケイラーさんが失礼と言いわたしのベールを捲ろうと手を伸ばした。
その時、わたしは焦っていたのか、少し品の無い振る舞いをしてしまった。
パチッ。
小さくその場にその音が響く。
デヴィン王子の様子を見ていた、近くに立っている何人かがその音に気付きこちらを見ている。
しまった。
ただ手を振り払っただけなのに割りと大きい音が出てしまった。
「失礼致しました、ケイラーさん。有難いですが、自分でやりますので御心配無く。ケイラーさんの御心遣いに感謝致します」
「いえ、こちらこそ失礼。女性に軽々しく触る事など、品が無かったよね」
そう言って、ケイラーさんはわたしに消毒液の掛けられた布を差し出した。ベールの下から布を入れ、軽く匂いを嗅ぐ。毒では無い事を確認し、わたしは左頬に布を当てた。軽く染みる。
怪我なんていつぶりだろう。
昔から転ぶ事も稀で、受け身を取れないなんて事も無かった。
あぁでも、転ぶきっかけを避けようとも受け身を取ろうとも思えない程、心がズタズタだった事はあったな。
そんな事を考えながら、絆創膏をケイラーさんから受け取り、左頬に張る。
その時には既に蹴りがついていた様で、令嬢達は衛兵に捕らえられ連れていかれていた。アリシア様をエスコートしたデヴィン王子がこちらに歩いて来る。わたしがそちらを見ると、デヴィン王子は微笑んでわたし達にひらひらと手を振っていた。
「大丈夫かい?アリーヤ。久しぶりだね」
「御機嫌麗しゅう、デヴィン王子殿下。お久しぶりです」
ケイラーさんのエスコート付きで立ち上がり、わたしはベール越しに微笑んでデヴィン王子にそう言う。
「見苦しい姿で申し訳ございません。この度はありがとうございます、流石ですね」
「さて、それはどちらかな」
「?」
「それより…!」
アリシア様が首を傾げるのを見てわたしは慌ててデヴィン王子に質問する。
「今回の御茶会はどうなさるおつもりで?」
「勿論中止だよ。アリシア嬢、アリーヤをこの後少し借りていいもかな?」
「えぇ」
「今回で無くては駄目ですか」
わたしはデヴィン王子をベール越しに睨みながらそう言う。すると、ディオン王子はわたしの顔に自身の顔を近づけてにっこりと微笑んだ。
「駄目です」
ウッザ!!
わたしはその言葉をぐっと飲み込み、了解致しました、とわたしは胸に手を当てデヴィン王子に頭を下げた。
「それではデヴィン王子、失礼致します」
「えぇ、アリシア嬢と」
「デヴィン王子と」
「「再び神の縁がありますように」」
そう言って、アリシア様は美しいカーテシーをしその場を立ち去られたのだった。
その背中をわたしは片膝を付き胸に右手を当てて見送る。
すると、隣にコツリと誰かが立った。
デヴィン王子だ。
「この度は助かりました、御陰様で害虫がまた1つ減りました」
「私は今回の件で更に、そのベールの向こうで君が何を考えているのか興味を持ったよ。ここまで来ると不気味だね」
そう言い苦笑するデヴィン王子をわたしは横目で見ながら立ち上がった。
不気味。
そう、わたしは天才なんて綺麗な者では無い。
人とは思えない
けれど、わたしにはそう言うの方がバケモノに見える。
「でも私は、そんな貴方が好きだよ。さぁ、行きましょう。アリーヤ」
デヴィン王子がそう言った言葉は、俯くわたしの耳から耳へ流れる。
デヴィン王子から差し伸べられた手に、わたしは手を乗せた。
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