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嫌な客
しおりを挟む――柳瀬智という人。
今日は、初めて会う客だった。
家を後にして、一つ道を曲がったところに泊まっている黒い車に乗り込む。
「蒼さん。お疲れ様。
今日はこの後は入っていないので、真っ直ぐ家に送って良いですか?」
「お願いします」
車の運転手は神崎さんと言う人で、
彼は、僕の運転手やスケジュール管理等をしてくれていた。
震える体を抑えるように、体に力を込める。
胃には、まだ温かなおかゆがどろりと残っているようだった。
「大丈夫ですか?顔色が」
「……大丈夫」
「今日の客は格別酷い人だったんですか?」
「……いや」
酷い人、と言えば、表現は間違っているように思えた。
「でも、誰よりも、苦手」
もう何か月もこの仕事をして、
そして何人にも抱かれてきたけれど、何もされないのは、初めてだった。
「気持ち悪い」
思い出せば、全身に鳥肌がたっていく感覚がした。
「もしかして、熱があること勘付かれました?」
神崎さんにも分かる程顔色が悪いのかと思えば、悔しくて顔を背けた。
車の窓からは、まだまだ眠らない町が明々と見えている。
「会って、一瞬だった」
「そうですか」
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