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調査4日目
「地縛霊」が「取り憑く」ということについて(2)
しおりを挟む「心霊スポットってさ、人気のある場所ほど、訪れる人が絶えないよね。日を開けずに、ほぼ毎日のように誰かがやって来る。じゃあ、もし霊が『本体ごと』誰かに取り憑いてしまったとしたら?」
「……その後に来る人は、何をしても祟られない、ってことになりますか?」
「そういうこと。でも、実際は違うよね。僕たち霊能者の目から見ると、特に」
「具体的には、どう視えるんですか?」
どこか信じがたい気持ちを抱えながら問いかけると、水野さんは苦笑し、数珠を手に取りながら頷いた。
「本体は、ずっとそこにいる。けれど、強い念というのはね――枝葉のように分かれて、伸ばすことができるんだよ」
彼はそう言いながら、ペットボトルに添えられたキャップを指先で弾いた。
「懲らしめてやりたい人間に、それぞれ『念』の枝を伸ばす。まるで、葉っぱが風に舞って降りかかるようにね。……、一度に複数の人間が『祟られる』場合、ほとんどはこの『キャップ』のような念の靄が取り憑いているように視えるんだ」
その言葉に、俺は背筋が凍るような感覚を覚えた。
本体からいくつものキャップが剥がれ、訪れた人間に次々と取り憑く――そんな光景が脳裏に浮かんで、思わず唾を飲み込む。
「……幽霊って、もっとこう、時間も空間も関係なく自由に動けるイメージがあったんですけど」
「ある意味では、それも正しい。でも、霊もただの『肉体のない人間』に過ぎないんだよ。嫌なことをされたら怒るし、見えないだけで意思はある。そして――テリトリーに土足で踏み入れられるのは、全く知らない赤の他人に自分の家に無断で上がり込まれるのと同じことなんだよ」
君だって、そうだろう?
水野さんの言葉が、低く、静かに落ちる。
家に――無断で。
その言葉が頭の中でこだまする。
背後で、美知佳さんが小さく息を詰まらせる気配がした。
悲鳴を飲み込んだのだろう。
俺には、彼女の恐怖が手に取るようにわかった。
もし――。
日野さんの失踪や、雪乃さんの原因不明の病が、その枝葉に分かれた「悪霊」の「念」によるものなのだとしたら。
「……どこに逃げても、同じって。そういうこと、ですか?」
喉が焼けつくように乾いていく。
嫌な汗が背中を伝い、俺はガタンと椅子を引いて立ち上がった。
疑いと恐怖が、心の奥底からじわじわと広がっていく。
水野さんはまっすぐな視線を向けていた。
けれど、それは俺でも美知佳さんでもなく――。
ちょうど二人の間、何もないはずの虚空を、じっと見つめていた。
彼の目には、何が視えているのだろうか。
水野さんの言葉の余韻が、ゆっくりと胸の奥に染み込んでいく。
それはもう、ただの理屈ではなく――目の前にある現実なのだと、突きつけるように。
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