3 / 4
3話 ジークフリードの後悔
しおりを挟む
一年後。
隣国に留学していたアルフェニアは、隣国コーニッシュの国王との交渉に成功し、現在は外交部門の特使として母国との仲介役を務めていた。その見事な手腕により、隣国では高く評価される存在となっていた。
初めこそ「失格した婚約者候補」という目で見られていたアルフェニアだが、努力家でまじめ、理知的で柔軟な姿勢が徐々に評価され、コーニッシュ国内では彼女との婚姻を希望する貴族たちが次々に現れ、大変な話題となっていた。
一方その頃、ジークフリードは新たな婚約者との関係が悪化し、孤立する日々を送っていた。アルフェニアが婚約者候補から外されてからわずか一ヶ月の間に、他の婚約者候補たちが次々と辞退。家柄や責任感、矜持を持つ候補者たちは、ジークフリードの怠惰さや不勉強さに辟易し、家族を巻き込んで辞退を決定したのだった。
残ったのは、ジークフリードが寵愛していたレイセニール男爵令嬢ただ一人。しかし、彼女もまたジークフリードの期待するような妃の役割を果たせず、最終的に婚約者の地位を捨てることとなる。孤立無援となったジークフリードは、自らの愚かさを悔いながら、ようやく学び直し努力を始めるも、その代償はあまりに大きかった。
ジークフリードは思い返していた。
自分がなぜアルフェニアを苦手としていたのか。
彼女は常に冷静で義務に忠実であり、愛情を示すような仕草は皆無だった。
豪華な宝飾品を贈れば突き返され、ならば着るものをと令嬢たちがこぞって指名する有名なデザイナーを呼びつけ、ドレスを作らせようとした時も彼女は拒否をした。
そんなことより、王城の図書館に行き、以前から気になっていた閲覧禁止の本を読む機会を与えて欲しい、と願ってきた。自分が心をかけて用意した贈り物より、古びて埃をかぶり、誰からも相手にされないような書物を望むとはと、嘲笑しながらそれでも願いは叶えた。
思えばそう。
彼女があの美しい青色の瞳を喜びで満たし、心からの笑顔を向けたのは、あの時限りではなかっただろうか。
定期的に設定された各令嬢たちとの茶会の中で、アルフェニアはその出来事をまるで夢のようだったと語ったが、ジークフリードもレイセニールもぼんやりと微笑んで頷き返すだけで、さしたる興味は示さなかった。
彼女が書物を愛していたように、自分は心を向けられたかったのかもしれない、と思った。
自分には、心から愛し、愛される関係が必要だと信じていた。
そんな中、彼に笑顔と優しさを注ぎ、愛情を示してくれたのがレイセニールだった。
だが、今にして思えば、それは真の意味での愛ではなく、互いの未熟さに基づく依存だったのかもしれない。
***************
――翌月。
厄介な外交交渉の場で、ジークフリードは久しぶりにアルフェニアと再会した。
コーニッシュとの関税会議の場に現れたアルフェニアは、美しい銀髪を結い上げ、青い瞳を煌めかせ「知恵の女神」のような姿で、交渉の中心に立っていた。
厳しい駆け引きの中、彼女は冷静に対応し、圧倒的な知識と交渉術で場を支配していた。
難航するかと思われた交渉が意外にあっさりと「負け確定」の状態で終了し、コーニッシュを訪れた特使たちの控え室ではため息が広がっていた。
誰もが彼女の才覚に感嘆し、その場にいた一人がその場にいた全ての人間の心情を代弁するかのようにぽつりと漏らした。
「アルフェニア様が王子の正式な婚約者でいらしたら、我が国の状況は一変していただろうな」
コーニッシュの特使と廊下で立ち話をした後、部屋に戻ったジークフリードはその言葉に胸を突かれる思いだった。
隣国に留学していたアルフェニアは、隣国コーニッシュの国王との交渉に成功し、現在は外交部門の特使として母国との仲介役を務めていた。その見事な手腕により、隣国では高く評価される存在となっていた。
初めこそ「失格した婚約者候補」という目で見られていたアルフェニアだが、努力家でまじめ、理知的で柔軟な姿勢が徐々に評価され、コーニッシュ国内では彼女との婚姻を希望する貴族たちが次々に現れ、大変な話題となっていた。
一方その頃、ジークフリードは新たな婚約者との関係が悪化し、孤立する日々を送っていた。アルフェニアが婚約者候補から外されてからわずか一ヶ月の間に、他の婚約者候補たちが次々と辞退。家柄や責任感、矜持を持つ候補者たちは、ジークフリードの怠惰さや不勉強さに辟易し、家族を巻き込んで辞退を決定したのだった。
残ったのは、ジークフリードが寵愛していたレイセニール男爵令嬢ただ一人。しかし、彼女もまたジークフリードの期待するような妃の役割を果たせず、最終的に婚約者の地位を捨てることとなる。孤立無援となったジークフリードは、自らの愚かさを悔いながら、ようやく学び直し努力を始めるも、その代償はあまりに大きかった。
ジークフリードは思い返していた。
自分がなぜアルフェニアを苦手としていたのか。
彼女は常に冷静で義務に忠実であり、愛情を示すような仕草は皆無だった。
豪華な宝飾品を贈れば突き返され、ならば着るものをと令嬢たちがこぞって指名する有名なデザイナーを呼びつけ、ドレスを作らせようとした時も彼女は拒否をした。
そんなことより、王城の図書館に行き、以前から気になっていた閲覧禁止の本を読む機会を与えて欲しい、と願ってきた。自分が心をかけて用意した贈り物より、古びて埃をかぶり、誰からも相手にされないような書物を望むとはと、嘲笑しながらそれでも願いは叶えた。
思えばそう。
彼女があの美しい青色の瞳を喜びで満たし、心からの笑顔を向けたのは、あの時限りではなかっただろうか。
定期的に設定された各令嬢たちとの茶会の中で、アルフェニアはその出来事をまるで夢のようだったと語ったが、ジークフリードもレイセニールもぼんやりと微笑んで頷き返すだけで、さしたる興味は示さなかった。
彼女が書物を愛していたように、自分は心を向けられたかったのかもしれない、と思った。
自分には、心から愛し、愛される関係が必要だと信じていた。
そんな中、彼に笑顔と優しさを注ぎ、愛情を示してくれたのがレイセニールだった。
だが、今にして思えば、それは真の意味での愛ではなく、互いの未熟さに基づく依存だったのかもしれない。
***************
――翌月。
厄介な外交交渉の場で、ジークフリードは久しぶりにアルフェニアと再会した。
コーニッシュとの関税会議の場に現れたアルフェニアは、美しい銀髪を結い上げ、青い瞳を煌めかせ「知恵の女神」のような姿で、交渉の中心に立っていた。
厳しい駆け引きの中、彼女は冷静に対応し、圧倒的な知識と交渉術で場を支配していた。
難航するかと思われた交渉が意外にあっさりと「負け確定」の状態で終了し、コーニッシュを訪れた特使たちの控え室ではため息が広がっていた。
誰もが彼女の才覚に感嘆し、その場にいた一人がその場にいた全ての人間の心情を代弁するかのようにぽつりと漏らした。
「アルフェニア様が王子の正式な婚約者でいらしたら、我が国の状況は一変していただろうな」
コーニッシュの特使と廊下で立ち話をした後、部屋に戻ったジークフリードはその言葉に胸を突かれる思いだった。
582
あなたにおすすめの小説
見切りをつけたのは、私
ねこまんまときみどりのことり
恋愛
婚約者の私マイナリーより、義妹が好きだと言う婚約者ハーディー。陰で私の悪口さえ言う彼には、もう幻滅だ。
婚約者の生家、アルベローニ侯爵家は子爵位と男爵位も保有しているが、伯爵位が継げるならと、ハーディーが家に婿入りする話が進んでいた。
侯爵家は息子の爵位の為に、家(うち)は侯爵家の事業に絡む為にと互いに利がある政略だった。
二転三転しますが、最後はわりと幸せになっています。
(小説家になろうさんとカクヨムさんにも載せています)
ここへ何をしに来たの?
柊
恋愛
フェルマ王立学園での卒業記念パーティ。
「クリストフ・グランジュ様!」
凛とした声が響き渡り……。
※小説になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しています。
“いつまでも一緒”の鎖、貴方にお返しいたします
柊
ファンタジー
男爵令嬢エリナ・ブランシュは、幼馴染であるマルグリット・シャンテリィの引き立て役だった。
マルグリットに婚約が決まり開放されると思ったのも束の間、彼女は婚約者であるティオ・ソルベに、家へ迎え入れてくれないかというお願いをする。
それをティオに承諾されたエリナは、冷酷な手段をとることを決意し……。
※複数のサイトに投稿しております。
私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。
柊
ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。
そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。
すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。
【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。
西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。
私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。
それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」
と宣言されるなんて・・・
それは立派な『不正行為』だ!
柊
恋愛
宮廷治癒師を目指すオリビア・ガーディナー。宮廷騎士団を目指す幼馴染ノエル・スコフィールドと試験前に少々ナーバスな気分になっていたところに、男たちに囲まれたエミリー・ハイドがやってくる。多人数をあっという間に治す治癒能力を持っている彼女を男たちは褒めたたえるが、オリビアは複雑な気分で……。
※小説家になろう、pixiv、カクヨムにも同じものを投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる