【全12話/完結】リタイア勇者たちの飲み会

雲井咲穂(くもいさほ)

文字の大きさ
11 / 13
1軒目 ―女神イーリスの店―

7杯目。お水をください。(1)

しおりを挟む

「そ、そうだ――――話題を変えよう。」

 ヤスはとっさに脳裏で彼女の気を散らせるような話題を取り出そうとしたが、失敗した。

「無駄よ、ヤス。私には人の心が読めるのですもの」

 イーリスはにっこりと微笑みながら言った。その笑顔がヤスの心に冷たい爪痕を刻む。

「あらあら。いいわねぇ、最近流行りのMMOの準ヒロインさんとこれからデートなの?? スマホに入っている連絡先リストの中には、ずいぶんたくさんの女性とのやり取りがあるみたいねぇ」

 言いながら、女神は美しい指先でヤスのスマホを自分の手元に寄せ、机の上でくるくると回し始めた。

「あ、あ、あ」

 ヤスの顔面が蒼白になったのは、この後の結末が明らかだったからだ。

 これほど分が悪い戦いはない。

「いいわよねぇ、ヤスは。――クリアしたら勇者様様英雄様だもの。それに比べて私なんて…」

「わたしなんて」と自分勝手な感傷に浸り始めたイーリスだったが、そのタイミング悪く、ヤスのスマホ画面が光り輝いた。

「あ」

 イーリスはやや荒んだ瞳でその画面を一瞥すると――

 ドンッ。

 パキョッ。

「アンギャァアアアアア!! おでの! おでの携帯がぁああああ!!」

 ぷぱっと音を立てて、ヤスの鼻から水っぽい風船が飛び出した。

 イーリスがヤスのスマホめがけて握り拳を叩き落としたのだ。

「おでの! おでの愛しいちとたちがぁああああ!!」

 指輪物語に登場するゴラムもびっくりである。

 ヤスは思わず叫んだ。

 終わった。

 まさにゲームで言うならゲームオーバーだ。

 裸一貫、身ぐるみを剥がされたような状況でヤスは呆然と白い煙を吐き始めたスマホを眺めた。

 それでも往生際が悪い彼は、それをイーリスからひったくり返し、回復魔法を唱えた。

「甦れ、蘇れ、蘇れ、蘇れ、蘇れ、よみがえれよぉおおおおお、俺のデーターたちぃいいい」

 しかし、やはり無駄なものは無駄だった。

 ささやかなショート音とともに、電光と雷火が線香花火のように爆ぜたかと思うと、大きく白い煙を吐き、あとは静かなものだった。

「イイイイイイイイーリス!!」

 ヤスは「渾身の力」で女神の名を呼んだが、効果はないようだ。

「うるっさいのよ! このハレンチ男ぉおお!!」

 イーリスの怒声がヤスを圧倒する。

「私というものがありながら次から次へと若くてかわいい子ばかりぃい! そんなに、そんなにヒロインがいいの!? ど子をどう見ても変わり映えのないジャガイモみたいな子ばっかりじゃないっ。私の方がずっと美人で麗しいわよぉおお」

 イーリスは涙を浮かべながら泣き始めた。その光景に、さすがのヤスも面喰う。

 ヤスオは窮地に立たされた。

「私なんて、私なんて。人間に恋した挙句にフラれて、上司である神に怒られて、人間を異世界から呼んで勇者に仕立て上げて魔王と闘わせて世界を救った功績を丸無視されて、人界に落とされて神籍まで剥奪されて――」

 それはイーリスが少々神族としてはやりすぎ感満載の熱烈アプローチや、ハレンチな布きれ一枚でヤスを誘惑したのが原因ではなかろうか、とちょっぴり過去を追想したヤスだったが、恐ろしさに言葉を口に出せなかった。

「私だって一生懸命世界と、ヤスのために尽くして尽くしてきたのに。なによ、ひどいわアレは。どうして最終的には王の娘のあんまり可愛くもない女とくっついちゃうのよ」

「え、ええと・・・あの。お、王女様はですね、キャラとしてあーなんというか。そーゆー設定だったもんで、俺も仕方がなく」

 必死に言い訳をしようとするヤスだが、それはむしろ逆効果だったようで。

「仕方がない!? 仕方がないですって!? 男っていつもそう! 自分の都合が悪くなると相手のせいにして。私をフッてあんな尻軽女とよろしくやってんだから、ふざけんじゃないわよってくらい思ってもバチあたらないでしょ!!」

「し、尻軽って」

「尻軽も尻軽よ!! この際だから言わせてもらうけれど、ヤス。あんたのあの尻軽女があんたをフッてあんたの親友だった神官といい仲になっちゃったの、仕向けたのは私よ」

「な、なんだと!?」

 ヤスは目をカッと見開き、椅子から立ち上がった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

続・冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。 の続編です。 アンドリューもそこそこ頑張るけど、続編で苦労するのはその息子かな? 辺境から結局建国することになったので、事務処理ハンパねぇー‼ってのを息子に押しつける俺です。楽隠居を決め込むつもりだったのになぁ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

【完結】あやかし団地 管理人見習い日誌

双月ねむる
キャラ文芸
就活全滅で「自分には社会性がない」と思い込む凛は、遠縁の親戚に紹介され、昭和レトロな巨大団地・さくらヶ丘第一団地の『管理人見習い』として住み込みで働くことに。しかしその団地には、中庭の「靴鳴らし」、エレベーター表示盤に棲む狐など、団地限定あやかし達が当たり前のように暮らしていた。 最初は逃げ腰の凛だったが、すねた空き部屋や、ベランダの風鈴が告げるSOSなど、人とあやかしのトラブルに巻き込まれながら、少しずつ『共同体』に関わる勇気を取り戻していく。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...