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1軒目 ―女神イーリスの店―
7杯目。お水をください。(1)
しおりを挟む「そ、そうだ――――話題を変えよう。」
ヤスはとっさに脳裏で彼女の気を散らせるような話題を取り出そうとしたが、失敗した。
「無駄よ、ヤス。私には人の心が読めるのですもの」
イーリスはにっこりと微笑みながら言った。その笑顔がヤスの心に冷たい爪痕を刻む。
「あらあら。いいわねぇ、最近流行りのMMOの準ヒロインさんとこれからデートなの?? スマホに入っている連絡先リストの中には、ずいぶんたくさんの女性とのやり取りがあるみたいねぇ」
言いながら、女神は美しい指先でヤスのスマホを自分の手元に寄せ、机の上でくるくると回し始めた。
「あ、あ、あ」
ヤスの顔面が蒼白になったのは、この後の結末が明らかだったからだ。
これほど分が悪い戦いはない。
「いいわよねぇ、ヤスは。――クリアしたら勇者様様英雄様だもの。それに比べて私なんて…」
「わたしなんて」と自分勝手な感傷に浸り始めたイーリスだったが、そのタイミング悪く、ヤスのスマホ画面が光り輝いた。
「あ」
イーリスはやや荒んだ瞳でその画面を一瞥すると――
ドンッ。
パキョッ。
「アンギャァアアアアア!! おでの! おでの携帯がぁああああ!!」
ぷぱっと音を立てて、ヤスの鼻から水っぽい風船が飛び出した。
イーリスがヤスのスマホめがけて握り拳を叩き落としたのだ。
「おでの! おでの愛しいちとたちがぁああああ!!」
指輪物語に登場するゴラムもびっくりである。
ヤスは思わず叫んだ。
終わった。
まさにゲームで言うならゲームオーバーだ。
裸一貫、身ぐるみを剥がされたような状況でヤスは呆然と白い煙を吐き始めたスマホを眺めた。
それでも往生際が悪い彼は、それをイーリスからひったくり返し、回復魔法を唱えた。
「甦れ、蘇れ、蘇れ、蘇れ、蘇れ、よみがえれよぉおおおおお、俺のデーターたちぃいいい」
しかし、やはり無駄なものは無駄だった。
ささやかなショート音とともに、電光と雷火が線香花火のように爆ぜたかと思うと、大きく白い煙を吐き、あとは静かなものだった。
「イイイイイイイイーリス!!」
ヤスは「渾身の力」で女神の名を呼んだが、効果はないようだ。
「うるっさいのよ! このハレンチ男ぉおお!!」
イーリスの怒声がヤスを圧倒する。
「私というものがありながら次から次へと若くてかわいい子ばかりぃい! そんなに、そんなにヒロインがいいの!? ど子をどう見ても変わり映えのないジャガイモみたいな子ばっかりじゃないっ。私の方がずっと美人で麗しいわよぉおお」
イーリスは涙を浮かべながら泣き始めた。その光景に、さすがのヤスも面喰う。
ヤスオは窮地に立たされた。
「私なんて、私なんて。人間に恋した挙句にフラれて、上司である神に怒られて、人間を異世界から呼んで勇者に仕立て上げて魔王と闘わせて世界を救った功績を丸無視されて、人界に落とされて神籍まで剥奪されて――」
それはイーリスが少々神族としてはやりすぎ感満載の熱烈アプローチや、ハレンチな布きれ一枚でヤスを誘惑したのが原因ではなかろうか、とちょっぴり過去を追想したヤスだったが、恐ろしさに言葉を口に出せなかった。
「私だって一生懸命世界と、ヤスのために尽くして尽くしてきたのに。なによ、ひどいわアレは。どうして最終的には王の娘のあんまり可愛くもない女とくっついちゃうのよ」
「え、ええと・・・あの。お、王女様はですね、キャラとしてあーなんというか。そーゆー設定だったもんで、俺も仕方がなく」
必死に言い訳をしようとするヤスだが、それはむしろ逆効果だったようで。
「仕方がない!? 仕方がないですって!? 男っていつもそう! 自分の都合が悪くなると相手のせいにして。私をフッてあんな尻軽女とよろしくやってんだから、ふざけんじゃないわよってくらい思ってもバチあたらないでしょ!!」
「し、尻軽って」
「尻軽も尻軽よ!! この際だから言わせてもらうけれど、ヤス。あんたのあの尻軽女があんたをフッてあんたの親友だった神官といい仲になっちゃったの、仕向けたのは私よ」
「な、なんだと!?」
ヤスは目をカッと見開き、椅子から立ち上がった。
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