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1軒目 ―女神イーリスの店―
6杯目。「ジン」ダブル。(2)
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その名を聞いたウェイターは、一瞬で凍りついた。ガーゴイルなのに顔をさらに青白く、というか青黒くさせ、ガタガタと震えながら何度も頷いてガクガクしながら背中を向けて歩き出す。
その姿を観察していると、小さく悲鳴が上がった。
「終末の天使の叫びッ!」
むしろ彼が叫んでいる。
彼は仲間にイーリスから何を言われたかを伝え、二人して戦々恐々としながら去って行った。
『終末の天使の叫び』――全ステータスを異常値に変え、追加効果で「腐乱」と「混乱」の呪いを及ぼす最凶最悪の呪いのアイテムである。
ダンジョン最奥の「腐敗の王」を倒すことでごく稀にドロップするが、一般には受け入れられないアイテムだった。それでも一部の呪いマニアの間では、垂涎の品とされ、闇オークションでそれなりの取引が行われているという。
主任は、その呪われた酒の話を耳にして背筋が冷たくなるのを感じた。
主任はぞっとした。
これがかつて彼を異世界に召喚し、勇者として仕立て上げ、魔王と闘わせるよう仕向けた張本人のやり口だった。
「主任ちゃーん。何考えてるか、まるわかりよ~」
「ひっ」
心を読むことのできる女神とは聞いていたが、まさかこんなにも恐ろしい存在だとは思わなかった。
「お、お勘定を・・・」
「あら、もう帰っちゃうの? ヤス帰ってくるんでしょ? もうちょっといればいいじゃない??」
イーリスの笑顔がそのまま冷たい鋭い刃のように感じられる。目は笑っていない。
主任は恐怖におののきながら、そそくさと席を立つ。
「あ、お、俺。これから夜の工場勤務があるんで――――。ダンジョンも修理しないといけないし、財政難なんで」
「そお? それは残念ね。今日の分はヤスのおごりだから、お代はいいのよ。また来てね」
満面の笑顔に、主任は心臓が一瞬で凍りつくのを感じた。
おそらくヤスが勇者になるより、この女神が自分を倒しに来た方が物語の結末は早かっただろう、と容易に予測できる。
主任は軽く会釈して、財布を片手にぶら下げたまま、入口の方へと歩を進めた。
「あっ。とりあえず、前金でいくらか支払っておくから」
「いいのよぉ、ホントに。あ、忘れてた。シオルちゃんが溶かした服の請求書と、床の請求書。ヤスにつけとかなくっちゃ。主任、気を付けて帰ってね」
主任は再び軽く会釈をしてから、そのまま出口へと向かう。
「お。主任――――! もう帰るのか!?」
妙に明るいヤスの声が背後から聞こえる。主任は体をびくん、と痙攣させ、決して後ろを振り返ることなく、そのまま店の出口の扉をくぐり抜けていった。
その姿を観察していると、小さく悲鳴が上がった。
「終末の天使の叫びッ!」
むしろ彼が叫んでいる。
彼は仲間にイーリスから何を言われたかを伝え、二人して戦々恐々としながら去って行った。
『終末の天使の叫び』――全ステータスを異常値に変え、追加効果で「腐乱」と「混乱」の呪いを及ぼす最凶最悪の呪いのアイテムである。
ダンジョン最奥の「腐敗の王」を倒すことでごく稀にドロップするが、一般には受け入れられないアイテムだった。それでも一部の呪いマニアの間では、垂涎の品とされ、闇オークションでそれなりの取引が行われているという。
主任は、その呪われた酒の話を耳にして背筋が冷たくなるのを感じた。
主任はぞっとした。
これがかつて彼を異世界に召喚し、勇者として仕立て上げ、魔王と闘わせるよう仕向けた張本人のやり口だった。
「主任ちゃーん。何考えてるか、まるわかりよ~」
「ひっ」
心を読むことのできる女神とは聞いていたが、まさかこんなにも恐ろしい存在だとは思わなかった。
「お、お勘定を・・・」
「あら、もう帰っちゃうの? ヤス帰ってくるんでしょ? もうちょっといればいいじゃない??」
イーリスの笑顔がそのまま冷たい鋭い刃のように感じられる。目は笑っていない。
主任は恐怖におののきながら、そそくさと席を立つ。
「あ、お、俺。これから夜の工場勤務があるんで――――。ダンジョンも修理しないといけないし、財政難なんで」
「そお? それは残念ね。今日の分はヤスのおごりだから、お代はいいのよ。また来てね」
満面の笑顔に、主任は心臓が一瞬で凍りつくのを感じた。
おそらくヤスが勇者になるより、この女神が自分を倒しに来た方が物語の結末は早かっただろう、と容易に予測できる。
主任は軽く会釈して、財布を片手にぶら下げたまま、入口の方へと歩を進めた。
「あっ。とりあえず、前金でいくらか支払っておくから」
「いいのよぉ、ホントに。あ、忘れてた。シオルちゃんが溶かした服の請求書と、床の請求書。ヤスにつけとかなくっちゃ。主任、気を付けて帰ってね」
主任は再び軽く会釈をしてから、そのまま出口へと向かう。
「お。主任――――! もう帰るのか!?」
妙に明るいヤスの声が背後から聞こえる。主任は体をびくん、と痙攣させ、決して後ろを振り返ることなく、そのまま店の出口の扉をくぐり抜けていった。
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