しっぺ返しってご存じ?私はやられたらやり返すわよ

こじまき

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6 国ごとざまぁですわ

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私の結婚式は、アルトラ王国内で最も古い教会で行われた。

この世界で生まれ直して、ジェフロワと婚約してからずっと「私はここで結婚式をするんだ」と思っていた、荘厳なフォワブール大聖堂とは違う。

緑に囲まれた、素朴なシャペロニアン教会。

下見のときに、「フォワブール大聖堂とはかなり違いますが、がっかりしていませんか?」とヴィルジールは私に聞いた。

「いいえ。気持ちのいい場所ですし、同時にこの教会を大切にする人々の息遣いが聞こえてくるような気もします。アルトラの英雄に見守られながら結婚式を挙げられるなんて、楽しみです」

ヴィルジールは驚いたように目を見開いた。

「ここの地下にアルトラ建国の英雄が眠っていること、調べてきてくださったのですね」
「もちろんです、王妃になるのですから」
「ありがとう、エレオノーラ」

そうしてエレオノーラ・ドレーヌは、アルトラ国王ヴィルジール・アランと結婚し、アルトラ王国の王妃となった。

想像していた結婚式とは違ったけれど、レーヌから駆けつけてくれた従弟やセヴラン、ララなどの信頼できる人たちに囲まれ、そして私を歓迎してくれるアルトラの人たちに祝福された、気持ちのいい結婚式だった。

(これが幸せ…なのかな)

初夜を待ちながら、そんなことを考える。

前世の記憶があいまいで、「異世界転生モノ」などの断片的な知識しか思い出せない自分が、前世でどんな結婚していたのか、幸せな人生を送っていたのか…それはもうわからない。

「でも今は、確実に幸せだわ。それでいいのよね」

そうエレオノーラの唇でつぶやいたとき、「いいと思いますよ」と優しい声がした。

「ヴィル!びっくりしました」
「すみません」

ヴィルジールは「いいですか?」と私の了解をとってから、キスをくれた。結婚式のときよりもずっと熱くて、深い。頭がぼーっとしてしまう。

「きれいです、エレオノーラ…エリー」
「ヴィル…」

彼は私を押し倒した。

ーーー

結婚後も私は変わらずレーヌ家の当主のままだが、領地運営の実務は従弟に任せ、セヴランと優秀な管理人たちを補佐につけた。

従弟たちにはレーヌの運営に十分な財産を預け、余力はすべてアルトラに注ぎ込む。

ヴィルジールはレーヌ公爵領からアルトラに回される予算の概算を見て、目を丸くしていた。

「こんなに…!?レーヌは大丈夫なのですか?」
「ええ。優秀な管理人たちが計算して大丈夫だと判断し、従弟も決裁していますので。私も目を通した限り、妥当だと思いましたわ」
「ありがとうございます」
「どういたしまして。私からもお礼を述べさせていただきますわ」
「…?」
「将来有望な投資先に投資させていただいたのですから、感謝しませんと。今後アルトラが力をつければ、レーヌを助けていただくこともあるでしょうし」
「ええ、もちろんです」

「これだけあれば、あれもこれも…」と楽しそうなヴィルジールを見て、私は思わず笑みをこぼした。

「ここをもっといい国にしてまいりましょう」
「ええ…私とエレオノーラ、二人で」

ヴィルジールは優しく私の手をとった。

「あなたは私にとって最高の王妃です」
「光栄ですわ、陛下」

私が手を引こうとすると、ヴィルジールは優しく私の手をひっぱって、私を膝の上に乗せた。

「アルトラのためになる力をもっているから、というだけではありませんよ。夜になると可愛らしくていやらしいところも最高です。私のエリー」

私は思わず赤くなり、彼の膝から飛び降りて執務室を後にする。うしろからクスクスとヴィルジールの笑い声が聞こえた。

ーーー

数年後、アルトラは目覚ましい成長を遂げていた。

金融と医療の特区に加え、学問、芸術、工業の特区も新設され、諸外国からの資金と、優秀な商人・医師・技術者・研究者や前途有望な若者たちが集まった。

港には大型船が行き交い、税収は飛躍的に増加。農業技術も高まったため、少量の自給率も向上。さらにアルトラの宮廷サロンは、芸術家たちの憧れの的となっている。

芸術家たちがこぞってシャペロニアン教会を描いたので、シャペロニアン教会が観光スポットになってしまったのは、ちょっとしたおまけだ。

(それに比べて…)

私はルシエル王国で起こった革命の詳細を伝える新聞を広げる。カサリと乾いた音がした。

レーヌ領を失い、ルシエル王国の経済基盤は大きく傾いた。

国王アンリはひっ迫した財政を立て直せず、増税を断行。

当然、民衆の怒りを買う。

「我らを飢えさせてまで、王は何を守るというのだ!」

重税と飢えをきっかけに片田舎で起こった小さな蜂起の炎は、あっという間に燃え広がって王都を飲み込んだ。

アンリ王は逃亡しようとした矢先に捕えらえ、革命軍によって処刑された。ジョフロワは、混乱の中で逃亡。

そして王のいない国、共和制「新ルシエル共和国」が誕生する。

レーヌ公爵領は王都から離れており、実質的にアルトラ所属になっているので、難は免れた。

(ざまぁ。国ごとざまぁ)

ドアがノックされ、私の執務室にヴィルジールが入ってくる。

「エリ―、次の視察の予定を決めておきたいのですが…」
「ええ」

私は立ち上がって彼を迎えようとして、ふらついた。

(気持ち悪い…)

「エリー!」
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