6 / 10
6 国ごとざまぁですわ
しおりを挟む
私の結婚式は、アルトラ王国内で最も古い教会で行われた。
この世界で生まれ直して、ジェフロワと婚約してからずっと「私はここで結婚式をするんだ」と思っていた、荘厳なフォワブール大聖堂とは違う。
緑に囲まれた、素朴なシャペロニアン教会。
下見のときに、「フォワブール大聖堂とはかなり違いますが、がっかりしていませんか?」とヴィルジールは私に聞いた。
「いいえ。気持ちのいい場所ですし、同時にこの教会を大切にする人々の息遣いが聞こえてくるような気もします。アルトラの英雄に見守られながら結婚式を挙げられるなんて、楽しみです」
ヴィルジールは驚いたように目を見開いた。
「ここの地下にアルトラ建国の英雄が眠っていること、調べてきてくださったのですね」
「もちろんです、王妃になるのですから」
「ありがとう、エレオノーラ」
そうしてエレオノーラ・ドレーヌは、アルトラ国王ヴィルジール・アランと結婚し、アルトラ王国の王妃となった。
想像していた結婚式とは違ったけれど、レーヌから駆けつけてくれた従弟やセヴラン、ララなどの信頼できる人たちに囲まれ、そして私を歓迎してくれるアルトラの人たちに祝福された、気持ちのいい結婚式だった。
(これが幸せ…なのかな)
初夜を待ちながら、そんなことを考える。
前世の記憶があいまいで、「異世界転生モノ」などの断片的な知識しか思い出せない自分が、前世でどんな結婚していたのか、幸せな人生を送っていたのか…それはもうわからない。
「でも今は、確実に幸せだわ。それでいいのよね」
そうエレオノーラの唇でつぶやいたとき、「いいと思いますよ」と優しい声がした。
「ヴィル!びっくりしました」
「すみません」
ヴィルジールは「いいですか?」と私の了解をとってから、キスをくれた。結婚式のときよりもずっと熱くて、深い。頭がぼーっとしてしまう。
「きれいです、エレオノーラ…エリー」
「ヴィル…」
彼は私を押し倒した。
ーーー
結婚後も私は変わらずレーヌ家の当主のままだが、領地運営の実務は従弟に任せ、セヴランと優秀な管理人たちを補佐につけた。
従弟たちにはレーヌの運営に十分な財産を預け、余力はすべてアルトラに注ぎ込む。
ヴィルジールはレーヌ公爵領からアルトラに回される予算の概算を見て、目を丸くしていた。
「こんなに…!?レーヌは大丈夫なのですか?」
「ええ。優秀な管理人たちが計算して大丈夫だと判断し、従弟も決裁していますので。私も目を通した限り、妥当だと思いましたわ」
「ありがとうございます」
「どういたしまして。私からもお礼を述べさせていただきますわ」
「…?」
「将来有望な投資先に投資させていただいたのですから、感謝しませんと。今後アルトラが力をつければ、レーヌを助けていただくこともあるでしょうし」
「ええ、もちろんです」
「これだけあれば、あれもこれも…」と楽しそうなヴィルジールを見て、私は思わず笑みをこぼした。
「ここをもっといい国にしてまいりましょう」
「ええ…私とエレオノーラ、二人で」
ヴィルジールは優しく私の手をとった。
「あなたは私にとって最高の王妃です」
「光栄ですわ、陛下」
私が手を引こうとすると、ヴィルジールは優しく私の手をひっぱって、私を膝の上に乗せた。
「アルトラのためになる力をもっているから、というだけではありませんよ。夜になると可愛らしくていやらしいところも最高です。私のエリー」
私は思わず赤くなり、彼の膝から飛び降りて執務室を後にする。うしろからクスクスとヴィルジールの笑い声が聞こえた。
ーーー
数年後、アルトラは目覚ましい成長を遂げていた。
金融と医療の特区に加え、学問、芸術、工業の特区も新設され、諸外国からの資金と、優秀な商人・医師・技術者・研究者や前途有望な若者たちが集まった。
港には大型船が行き交い、税収は飛躍的に増加。農業技術も高まったため、少量の自給率も向上。さらにアルトラの宮廷サロンは、芸術家たちの憧れの的となっている。
芸術家たちがこぞってシャペロニアン教会を描いたので、シャペロニアン教会が観光スポットになってしまったのは、ちょっとしたおまけだ。
(それに比べて…)
私はルシエル王国で起こった革命の詳細を伝える新聞を広げる。カサリと乾いた音がした。
レーヌ領を失い、ルシエル王国の経済基盤は大きく傾いた。
国王アンリはひっ迫した財政を立て直せず、増税を断行。
当然、民衆の怒りを買う。
「我らを飢えさせてまで、王は何を守るというのだ!」
重税と飢えをきっかけに片田舎で起こった小さな蜂起の炎は、あっという間に燃え広がって王都を飲み込んだ。
アンリ王は逃亡しようとした矢先に捕えらえ、革命軍によって処刑された。ジョフロワは、混乱の中で逃亡。
そして王のいない国、共和制「新ルシエル共和国」が誕生する。
レーヌ公爵領は王都から離れており、実質的にアルトラ所属になっているので、難は免れた。
(ざまぁ。国ごとざまぁ)
ドアがノックされ、私の執務室にヴィルジールが入ってくる。
「エリ―、次の視察の予定を決めておきたいのですが…」
「ええ」
私は立ち上がって彼を迎えようとして、ふらついた。
(気持ち悪い…)
「エリー!」
この世界で生まれ直して、ジェフロワと婚約してからずっと「私はここで結婚式をするんだ」と思っていた、荘厳なフォワブール大聖堂とは違う。
緑に囲まれた、素朴なシャペロニアン教会。
下見のときに、「フォワブール大聖堂とはかなり違いますが、がっかりしていませんか?」とヴィルジールは私に聞いた。
「いいえ。気持ちのいい場所ですし、同時にこの教会を大切にする人々の息遣いが聞こえてくるような気もします。アルトラの英雄に見守られながら結婚式を挙げられるなんて、楽しみです」
ヴィルジールは驚いたように目を見開いた。
「ここの地下にアルトラ建国の英雄が眠っていること、調べてきてくださったのですね」
「もちろんです、王妃になるのですから」
「ありがとう、エレオノーラ」
そうしてエレオノーラ・ドレーヌは、アルトラ国王ヴィルジール・アランと結婚し、アルトラ王国の王妃となった。
想像していた結婚式とは違ったけれど、レーヌから駆けつけてくれた従弟やセヴラン、ララなどの信頼できる人たちに囲まれ、そして私を歓迎してくれるアルトラの人たちに祝福された、気持ちのいい結婚式だった。
(これが幸せ…なのかな)
初夜を待ちながら、そんなことを考える。
前世の記憶があいまいで、「異世界転生モノ」などの断片的な知識しか思い出せない自分が、前世でどんな結婚していたのか、幸せな人生を送っていたのか…それはもうわからない。
「でも今は、確実に幸せだわ。それでいいのよね」
そうエレオノーラの唇でつぶやいたとき、「いいと思いますよ」と優しい声がした。
「ヴィル!びっくりしました」
「すみません」
ヴィルジールは「いいですか?」と私の了解をとってから、キスをくれた。結婚式のときよりもずっと熱くて、深い。頭がぼーっとしてしまう。
「きれいです、エレオノーラ…エリー」
「ヴィル…」
彼は私を押し倒した。
ーーー
結婚後も私は変わらずレーヌ家の当主のままだが、領地運営の実務は従弟に任せ、セヴランと優秀な管理人たちを補佐につけた。
従弟たちにはレーヌの運営に十分な財産を預け、余力はすべてアルトラに注ぎ込む。
ヴィルジールはレーヌ公爵領からアルトラに回される予算の概算を見て、目を丸くしていた。
「こんなに…!?レーヌは大丈夫なのですか?」
「ええ。優秀な管理人たちが計算して大丈夫だと判断し、従弟も決裁していますので。私も目を通した限り、妥当だと思いましたわ」
「ありがとうございます」
「どういたしまして。私からもお礼を述べさせていただきますわ」
「…?」
「将来有望な投資先に投資させていただいたのですから、感謝しませんと。今後アルトラが力をつければ、レーヌを助けていただくこともあるでしょうし」
「ええ、もちろんです」
「これだけあれば、あれもこれも…」と楽しそうなヴィルジールを見て、私は思わず笑みをこぼした。
「ここをもっといい国にしてまいりましょう」
「ええ…私とエレオノーラ、二人で」
ヴィルジールは優しく私の手をとった。
「あなたは私にとって最高の王妃です」
「光栄ですわ、陛下」
私が手を引こうとすると、ヴィルジールは優しく私の手をひっぱって、私を膝の上に乗せた。
「アルトラのためになる力をもっているから、というだけではありませんよ。夜になると可愛らしくていやらしいところも最高です。私のエリー」
私は思わず赤くなり、彼の膝から飛び降りて執務室を後にする。うしろからクスクスとヴィルジールの笑い声が聞こえた。
ーーー
数年後、アルトラは目覚ましい成長を遂げていた。
金融と医療の特区に加え、学問、芸術、工業の特区も新設され、諸外国からの資金と、優秀な商人・医師・技術者・研究者や前途有望な若者たちが集まった。
港には大型船が行き交い、税収は飛躍的に増加。農業技術も高まったため、少量の自給率も向上。さらにアルトラの宮廷サロンは、芸術家たちの憧れの的となっている。
芸術家たちがこぞってシャペロニアン教会を描いたので、シャペロニアン教会が観光スポットになってしまったのは、ちょっとしたおまけだ。
(それに比べて…)
私はルシエル王国で起こった革命の詳細を伝える新聞を広げる。カサリと乾いた音がした。
レーヌ領を失い、ルシエル王国の経済基盤は大きく傾いた。
国王アンリはひっ迫した財政を立て直せず、増税を断行。
当然、民衆の怒りを買う。
「我らを飢えさせてまで、王は何を守るというのだ!」
重税と飢えをきっかけに片田舎で起こった小さな蜂起の炎は、あっという間に燃え広がって王都を飲み込んだ。
アンリ王は逃亡しようとした矢先に捕えらえ、革命軍によって処刑された。ジョフロワは、混乱の中で逃亡。
そして王のいない国、共和制「新ルシエル共和国」が誕生する。
レーヌ公爵領は王都から離れており、実質的にアルトラ所属になっているので、難は免れた。
(ざまぁ。国ごとざまぁ)
ドアがノックされ、私の執務室にヴィルジールが入ってくる。
「エリ―、次の視察の予定を決めておきたいのですが…」
「ええ」
私は立ち上がって彼を迎えようとして、ふらついた。
(気持ち悪い…)
「エリー!」
111
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
【完結】私が愛されるのを見ていなさい
芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定)
公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。
絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。
ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。
完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。
立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる