伯爵夫人はやられた分だけきっちりやり返す

こじまき

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夫がクズでした

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結婚式の翌朝、私ことボルトン伯爵夫人ベアトリーチェは、まだ慣れない屋敷の広い庭園で、紅茶を啜っていた。

昨日まで成金のサマーズ男爵家の娘として過ごしていた私が、今日からは名門中の名門であるボルトン伯爵家の夫人。

けれど肩書きの響きほど、優雅な気分にはなれなかった。紅茶は香りの薄い安物だし、お茶菓子はぱさぱさだし、庭の手入れには粗が目立つのだから。伯爵家の財政が厳しいことが、手に取るようにわかる。

しかも昨晩初夜を過ごした男…ボルトン伯爵アーヴィングは、クズである。

大した準備もなく痛いだけの初夜を終わらせ、「よくなかったから今後は寝室をともにしない」とのたまった。

「夜の失敗を女のせいにする男はクズ」と母や使用人たちに散々言い含められていたため、傷つかなかったことだけが幸いだ。

あとは何だったかしら。

「誇り高いボルトンがお前のような身分の低い女を娶るなど、先祖に申し訳が立たない」だったかしら。

自分が甲斐性なしのせいで、誇りだけでは生活できなくなったから私を娶ることになったくせに、よく言うわ。

アーヴィングの祖父の代に領地経営に失敗したボルトン伯爵家は、金貸し業で富を得たサマーズ男爵家に借金をしていた。

それでもアーヴィングの父は堅実に返済を続けていたが、アーヴィングに代替わりしたあとは返済のめどがまったく立たなくなってしまった。

そこで金はあるが血統にコンプレックスがあり、名門貴族とのつながりが欲しかった父は、「借金を帳消しにしてやるから、自分の娘(つまりは私のこと)と結婚しろ」とアーヴィングに迫ったのだ。

血統にこだわりすぎる父も父だが、金のために女と結婚した挙句、その相手をぞんざいに扱うアーヴィングもアーヴィングだ。

私が父に「夫からひどい扱いを受けている」と泣きついたところで、ボルトンの血の前には屈服するしかないと踏んでいるのだろう。父のコンプレックスの強さを考えれば、確かにその通りではある。

安物の紅茶を飲み干したら、思わずため息がこぼれた。

貴族同士の結婚に愛など期待はしてはいなかったけれど、それにしてもあんまりじゃないかしら。
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