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7 連れてきた理由【ガイセル目線】
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寝ているマクシスの隣で精を吐き出したあと、俺はテントの外に出た。罪悪感を夜の冷たい風にさらしたい。
たった一回助けてもらっただけで十年間も片思いして、彼のために「帝国からの独立」という理由をつけてヴァルグランド全軍を率いて、カエルンブリアに攻め込んだ。重すぎて言えない。絶対引かれる。
でも彼に助けてもらったその一回が、俺にとっては本当に大切だった。胸から古いロケットを引っ張り出す。
ーーー
十年前、十歳の俺は、属国の王子としてカエルンブリアの人質になっていた。待遇は劣悪で、「視界に入った」という理由だけで、宮廷人の子どもたちに暴力を受けることもしょっちゅうだった。
そしてある日、亡くなった母の姿絵が入ったロケットを、皇太子ルキウスに取り上げられてしまったのだ。
《銀だって?野蛮人がこんなものを持っているなんて生意気だ》
皇太子に抵抗すれば俺は殺され、王子の失態を理由にヴァルグランドがカエルンブリアから攻撃されるのは明らかだった。だから我慢するしかない。自分のベッドで声を出さずに泣いていたとき、コトリと枕元で音がした。質素な身なりの少年が、ロケットをサイドテーブルに置いた音だった。
「取り返してくれたの?」
そう聞いても、彼は何も答えてくれなかった。エルフのように美しく儚げな顔立ち。しかし金髪にはつやがなく、袖から覗く腕はかさついて細く、生々しい傷跡が見えた。
「ロケットを取り返すために、皇太子殿下に殴られたの?」
「何で殴られたのかはわからない。いつも殴られてるから」
少年は「これ傷に塗る薬」と言って小さな容器をロケットの横に置き、音も立てずに部屋から出て行った。助けてくれて、何の見返りも求めない強い人だった。鼓動は速くなり、ロケットを握りしめる手は熱くなった。
初恋だった。
彼が皇太子ルキウスの異母兄マクシスで、北の離れに隔離されて冷遇されているのを知ったのは、そのすぐあとのことだった。
父さんが迎えに来てくれた日、マクシスも連れて行きたいと泣いて頼んだけど、いいといってもらえるわけもなかった。
そのとき決めた。いつか俺が彼を迎えに行くと。怖がりで「女みたいだ」とからかわれては泣いて、いつも二歳年上のリュートの後ろに隠れていた俺は、いなくなった。
何度も死線をくぐって黒狼と呼ばれるようになった。毒に冒されて生死の境をさまよったこともあったし、骨が折れたまま戦場で指揮をとったこともあった。何回リュートに「もう諦めろ」と進言されたかわからない。
それでももうやくここまで来た。マクシスをあの宮殿から…クソ野郎のルキウスから救い出せた。
だからこそ、この気持ちは隠しておかなくてはいけない。俺がマクシスのことを好きだと知れば、立場の弱いマクシスは、自分の気持ちなど関係なく俺に応えようとするだろう。
そんなことがしたいんじゃない。無理やり自分のものにするために連れて来たんじゃないのだから。
「幸せになってほしい」
たった一回助けてもらっただけで十年間も片思いして、彼のために「帝国からの独立」という理由をつけてヴァルグランド全軍を率いて、カエルンブリアに攻め込んだ。重すぎて言えない。絶対引かれる。
でも彼に助けてもらったその一回が、俺にとっては本当に大切だった。胸から古いロケットを引っ張り出す。
ーーー
十年前、十歳の俺は、属国の王子としてカエルンブリアの人質になっていた。待遇は劣悪で、「視界に入った」という理由だけで、宮廷人の子どもたちに暴力を受けることもしょっちゅうだった。
そしてある日、亡くなった母の姿絵が入ったロケットを、皇太子ルキウスに取り上げられてしまったのだ。
《銀だって?野蛮人がこんなものを持っているなんて生意気だ》
皇太子に抵抗すれば俺は殺され、王子の失態を理由にヴァルグランドがカエルンブリアから攻撃されるのは明らかだった。だから我慢するしかない。自分のベッドで声を出さずに泣いていたとき、コトリと枕元で音がした。質素な身なりの少年が、ロケットをサイドテーブルに置いた音だった。
「取り返してくれたの?」
そう聞いても、彼は何も答えてくれなかった。エルフのように美しく儚げな顔立ち。しかし金髪にはつやがなく、袖から覗く腕はかさついて細く、生々しい傷跡が見えた。
「ロケットを取り返すために、皇太子殿下に殴られたの?」
「何で殴られたのかはわからない。いつも殴られてるから」
少年は「これ傷に塗る薬」と言って小さな容器をロケットの横に置き、音も立てずに部屋から出て行った。助けてくれて、何の見返りも求めない強い人だった。鼓動は速くなり、ロケットを握りしめる手は熱くなった。
初恋だった。
彼が皇太子ルキウスの異母兄マクシスで、北の離れに隔離されて冷遇されているのを知ったのは、そのすぐあとのことだった。
父さんが迎えに来てくれた日、マクシスも連れて行きたいと泣いて頼んだけど、いいといってもらえるわけもなかった。
そのとき決めた。いつか俺が彼を迎えに行くと。怖がりで「女みたいだ」とからかわれては泣いて、いつも二歳年上のリュートの後ろに隠れていた俺は、いなくなった。
何度も死線をくぐって黒狼と呼ばれるようになった。毒に冒されて生死の境をさまよったこともあったし、骨が折れたまま戦場で指揮をとったこともあった。何回リュートに「もう諦めろ」と進言されたかわからない。
それでももうやくここまで来た。マクシスをあの宮殿から…クソ野郎のルキウスから救い出せた。
だからこそ、この気持ちは隠しておかなくてはいけない。俺がマクシスのことを好きだと知れば、立場の弱いマクシスは、自分の気持ちなど関係なく俺に応えようとするだろう。
そんなことがしたいんじゃない。無理やり自分のものにするために連れて来たんじゃないのだから。
「幸せになってほしい」
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