黒狼陛下は人質皇子に抱かれたい

こじまき

文字の大きさ
18 / 35

18 たんじょうび【マクシス目線】

しおりを挟む
いつものように、僕は目を覚ました。窓を開けると、王城を囲む森から鳥の声が聞こえる。夏の朝の風が森の香りを運び、頬をやさしくなでた。

深呼吸したら、まずは朝練。顔を洗い、髪を整え、木刀を手に取る。身体が自然に動くほど、習慣になっていた。

「師匠、お待たせしました」

けれど師匠はいつもの中庭とは違う方向へ歩き出す。

「師匠…?何かありましたか」
「何かって…今日はお前さんの誕生日だろ」

頭の中で、「たんじょうび」という言葉が処理されるのには時間がかかった。誕生日を特別視したことがないからだ。むしろルキウスに「プレゼント」と称して一日中弄ばれるので、嫌な思い出しかない。

「誕生日は休養日だ」
「でも一日休んだら三日分やらないとって師匠が…」
「積極的休養なら大丈夫だ。いいから来い!」

半ば押されるようにして大広間へ入ると、陛下が振り返った。「誕生日おめでとう、マクシス」と、美しい小さな箱を差し出す。慎重に箱を開けると、狼と月の彫刻が施された金の指輪だった。

陛下とお揃いの指輪。僕は思わず王妃様を見るが、彼女はにっこりと微笑んで「受け取りなさい」と口の形だけで伝えてくれる。

嬉しい。愛する人とお揃いの指輪。結婚というかたちで結ばれることはなくても、結ばれていると実感できる。

「ありがとうございます」

ボシュカさんからは美しい瓶に入った毒と解毒剤、王妃様からは剣の練習をするときに使う革手袋、ウィリアスからは便箋と封筒のセット。

そして師匠が「ほれ」と差し出したのは、箱にも入っていない古びた長剣だった。柄に巻かれた、水色の生地に金の刺繍が施されたリボンだけが新しい。

「イルドロアだ。外側はボロだが、中はちゃんと手入れしてあるから安心しな」
「ありがとうございます、師匠。大切にします」

イルドロアは竜が吐き出す火によって鍛えられ、振ると竜が咆哮するように火炎が唸ると伝わる名剣。けれど僕の言葉に、師匠は笑い出す。「随分大袈裟だな。イルドロアは使いやすい、普通の剣だ」と。

「でもイルドロアだなんて…僕は何もお返しができないのに」
「俺が見返り欲しさに贈り物をするような、ちんけな男だと思うのか?ここにいる誰も、お前さんからの見返りなんぞ求めとらん。どうしてもお返しがしたいと言うなら、そいつをいっちょ前に扱えるようになって、俺に見せてくれ」
「…はい」
「間違っても、使わずにとっとこうなんて思うんじゃねえぞ」

「自分にはもったいなくて使えない」と思っていた僕は、心の内を言い当てられてビクッとする。

師匠は僕に言い聞かせる。いくらいい剣でも、持ち主が何の功績も挙げられなかったら、名剣とは呼ばれない。イルドロアが名剣となったのは、持ち主に恵まれてきたからで、その理由は前の持ち主が自分が見込む人間に受け継いできたからだ、と。

「イルドロアの持ち主は、伝説上の勇者から、一国の王や名将までさまざまだ。お前さんもその輪に加われ」
「そっ、そんな大それた…」
「お前ならできる。二十年もイルドロアの持ち主だった俺が見込んだんだからな」

柄に巻かれているのは、水色の布に金の刺繍。

(僕の色…期待して、くれてる…)

「はい、師匠。ありがとうございます」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!

水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。 それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。 家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。 そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。 ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。 誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。 「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。 これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~

トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。 突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。 有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。 約束の10年後。 俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。 どこからでもかかってこいや! と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。 そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変? 急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。 慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし! このまま、俺は、絆されてしまうのか!? カイタ、エブリスタにも掲載しています。

処理中です...