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18 たんじょうび【マクシス目線】
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いつものように、僕は目を覚ました。窓を開けると、王城を囲む森から鳥の声が聞こえる。夏の朝の風が森の香りを運び、頬をやさしくなでた。
深呼吸したら、まずは朝練。顔を洗い、髪を整え、木刀を手に取る。身体が自然に動くほど、習慣になっていた。
「師匠、お待たせしました」
けれど師匠はいつもの中庭とは違う方向へ歩き出す。
「師匠…?何かありましたか」
「何かって…今日はお前さんの誕生日だろ」
頭の中で、「たんじょうび」という言葉が処理されるのには時間がかかった。誕生日を特別視したことがないからだ。むしろルキウスに「プレゼント」と称して一日中弄ばれるので、嫌な思い出しかない。
「誕生日は休養日だ」
「でも一日休んだら三日分やらないとって師匠が…」
「積極的休養なら大丈夫だ。いいから来い!」
半ば押されるようにして大広間へ入ると、陛下が振り返った。「誕生日おめでとう、マクシス」と、美しい小さな箱を差し出す。慎重に箱を開けると、狼と月の彫刻が施された金の指輪だった。
陛下とお揃いの指輪。僕は思わず王妃様を見るが、彼女はにっこりと微笑んで「受け取りなさい」と口の形だけで伝えてくれる。
嬉しい。愛する人とお揃いの指輪。結婚というかたちで結ばれることはなくても、結ばれていると実感できる。
「ありがとうございます」
ボシュカさんからは美しい瓶に入った毒と解毒剤、王妃様からは剣の練習をするときに使う革手袋、ウィリアスからは便箋と封筒のセット。
そして師匠が「ほれ」と差し出したのは、箱にも入っていない古びた長剣だった。柄に巻かれた、水色の生地に金の刺繍が施されたリボンだけが新しい。
「イルドロアだ。外側はボロだが、中はちゃんと手入れしてあるから安心しな」
「ありがとうございます、師匠。大切にします」
イルドロアは竜が吐き出す火によって鍛えられ、振ると竜が咆哮するように火炎が唸ると伝わる名剣。けれど僕の言葉に、師匠は笑い出す。「随分大袈裟だな。イルドロアは使いやすい、普通の剣だ」と。
「でもイルドロアだなんて…僕は何もお返しができないのに」
「俺が見返り欲しさに贈り物をするような、ちんけな男だと思うのか?ここにいる誰も、お前さんからの見返りなんぞ求めとらん。どうしてもお返しがしたいと言うなら、そいつをいっちょ前に扱えるようになって、俺に見せてくれ」
「…はい」
「間違っても、使わずにとっとこうなんて思うんじゃねえぞ」
「自分にはもったいなくて使えない」と思っていた僕は、心の内を言い当てられてビクッとする。
師匠は僕に言い聞かせる。いくらいい剣でも、持ち主が何の功績も挙げられなかったら、名剣とは呼ばれない。イルドロアが名剣となったのは、持ち主に恵まれてきたからで、その理由は前の持ち主が自分が見込む人間に受け継いできたからだ、と。
「イルドロアの持ち主は、伝説上の勇者から、一国の王や名将までさまざまだ。お前さんもその輪に加われ」
「そっ、そんな大それた…」
「お前ならできる。二十年もイルドロアの持ち主だった俺が見込んだんだからな」
柄に巻かれているのは、水色の布に金の刺繍。
(僕の色…期待して、くれてる…)
「はい、師匠。ありがとうございます」
深呼吸したら、まずは朝練。顔を洗い、髪を整え、木刀を手に取る。身体が自然に動くほど、習慣になっていた。
「師匠、お待たせしました」
けれど師匠はいつもの中庭とは違う方向へ歩き出す。
「師匠…?何かありましたか」
「何かって…今日はお前さんの誕生日だろ」
頭の中で、「たんじょうび」という言葉が処理されるのには時間がかかった。誕生日を特別視したことがないからだ。むしろルキウスに「プレゼント」と称して一日中弄ばれるので、嫌な思い出しかない。
「誕生日は休養日だ」
「でも一日休んだら三日分やらないとって師匠が…」
「積極的休養なら大丈夫だ。いいから来い!」
半ば押されるようにして大広間へ入ると、陛下が振り返った。「誕生日おめでとう、マクシス」と、美しい小さな箱を差し出す。慎重に箱を開けると、狼と月の彫刻が施された金の指輪だった。
陛下とお揃いの指輪。僕は思わず王妃様を見るが、彼女はにっこりと微笑んで「受け取りなさい」と口の形だけで伝えてくれる。
嬉しい。愛する人とお揃いの指輪。結婚というかたちで結ばれることはなくても、結ばれていると実感できる。
「ありがとうございます」
ボシュカさんからは美しい瓶に入った毒と解毒剤、王妃様からは剣の練習をするときに使う革手袋、ウィリアスからは便箋と封筒のセット。
そして師匠が「ほれ」と差し出したのは、箱にも入っていない古びた長剣だった。柄に巻かれた、水色の生地に金の刺繍が施されたリボンだけが新しい。
「イルドロアだ。外側はボロだが、中はちゃんと手入れしてあるから安心しな」
「ありがとうございます、師匠。大切にします」
イルドロアは竜が吐き出す火によって鍛えられ、振ると竜が咆哮するように火炎が唸ると伝わる名剣。けれど僕の言葉に、師匠は笑い出す。「随分大袈裟だな。イルドロアは使いやすい、普通の剣だ」と。
「でもイルドロアだなんて…僕は何もお返しができないのに」
「俺が見返り欲しさに贈り物をするような、ちんけな男だと思うのか?ここにいる誰も、お前さんからの見返りなんぞ求めとらん。どうしてもお返しがしたいと言うなら、そいつをいっちょ前に扱えるようになって、俺に見せてくれ」
「…はい」
「間違っても、使わずにとっとこうなんて思うんじゃねえぞ」
「自分にはもったいなくて使えない」と思っていた僕は、心の内を言い当てられてビクッとする。
師匠は僕に言い聞かせる。いくらいい剣でも、持ち主が何の功績も挙げられなかったら、名剣とは呼ばれない。イルドロアが名剣となったのは、持ち主に恵まれてきたからで、その理由は前の持ち主が自分が見込む人間に受け継いできたからだ、と。
「イルドロアの持ち主は、伝説上の勇者から、一国の王や名将までさまざまだ。お前さんもその輪に加われ」
「そっ、そんな大それた…」
「お前ならできる。二十年もイルドロアの持ち主だった俺が見込んだんだからな」
柄に巻かれているのは、水色の布に金の刺繍。
(僕の色…期待して、くれてる…)
「はい、師匠。ありがとうございます」
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