黒狼陛下は人質皇子に抱かれたい

こじまき

文字の大きさ
19 / 35

19 想いの輪郭【マクシス目線】

しおりを挟む
僕の矢は、的の右端をかすめて草に刺さった。

「惜しい!でも安定してきたな」

後ろから声をかけてくれたのは、ダグさん。僕たちは馬具と同じ考え方で歩行器具も開発し、乗馬でき杖なしで歩けるようになったダグさんは自信を取り戻した。そして鍛冶屋を弟子に譲って城兵のリーダーに就任したのだ。

そして「恩人」である僕のことを、何かと気にかけてくれている。師匠がマクシスの練習に付き合えないときは、ダグが指南役だ。

「ありがとうございます。でも、当たらなくて」
「焦るな。基礎はちゃんとできてる」
「…はい」

ダグさんは横から僕の構えを見て、ふと眉をひそめる。

「旦那」
「はい」
「狙いを定めるときに、目を細めてるな。癖か?」

ダグさんに言われて初めて気づいた。確かに、照準を合わせようとするとき、無意識に目を細めている。ダグさんは的のところまで少し足を引きずりながら移動して、手を前に出す。

「俺の指、何本だ?」

思い切り目を細めても見えない。「下手なんじゃない。目が悪いんだ。いくら練習しても当たらんわけだ。剣が変なところに出やすいのも、そのせいかもな」と言われて、落ち込む。どうしようもない。

「マクシス」

陛下の声がした。

「時間ができたから練習を見に来たのだが、休憩中か?」
「あ、いや…休憩ではなくて…」

僕は自分の目が悪いらしいことを説明する。陛下は少し考えたあとに、何か思いついて「待ってろ」と踵を返し、また急ぎ足で戻ってきた。何か手に持っている。

「東方で作られたもので、眼鏡と言う。独立時に東方の商人から祝いでもらったものだ」
「これをつければ、よく見えるようになるんですか?」
「そのはずだ」

「確か、ここを耳にひっかけて」と言いながら、陛下は僕に眼鏡をかけてくれる。ほんの少し不器用な指が顔に触れるだけで、身体が熱をもちそうになる。

「目を開けてみろ」と言われておそるおそる目を開けると、世界が変わった。

遠くの木々まで、ひと葉ひと葉がくっきりとわかる。今まで、自分がどれだけ曖昧な世界の中で生きていたかが、ようやくわかった。みんなこんなはっきりした世界を見ているのか。はっきりしすぎて怖いくらいだ。

「旦那、そのままもう一度射てみろ」というダグさんの声で、また的を狙う。的の板が真っ二つに割れた。

「マクシスはいい射手だな」

お礼を言おうと陛下に向き直り、僕は言葉を失った。艶やかな黒髪と鮮やかな赤い目。逞しい身体の線がはっきりとわかる黒いシャツを着て、光と風の中で自分に微笑みかけている。

こんなに…こんなにかっこいい人だったのか。

「マクシス?」

陛下と目が合うだけで、全身が熱くなってくる。

「どうした?」
「陛下…かっこいいです」

陛下は浅黒い肌を真っ赤にして、パッと身を翻して駆けだした。

ダグさんがニヤニヤしながら僕をつつく。

「旦那は意外に罪作りだな」
「ただ思ったことを言っただけで…だめでしたか?」
「だめじゃない、もっと言ってやれ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!

水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。 それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。 家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。 そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。 ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。 誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。 「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。 これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~

トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。 突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。 有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。 約束の10年後。 俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。 どこからでもかかってこいや! と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。 そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変? 急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。 慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし! このまま、俺は、絆されてしまうのか!? カイタ、エブリスタにも掲載しています。

処理中です...