黒狼陛下は人質皇子に抱かれたい

こじまき

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19 想いの輪郭【マクシス目線】

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僕の矢は、的の右端をかすめて草に刺さった。

「惜しい!でも安定してきたな」

後ろから声をかけてくれたのは、ダグさん。僕たちは馬具と同じ考え方で歩行器具も開発し、乗馬でき杖なしで歩けるようになったダグさんは自信を取り戻した。そして鍛冶屋を弟子に譲って城兵のリーダーに就任したのだ。

そして「恩人」である僕のことを、何かと気にかけてくれている。師匠がマクシスの練習に付き合えないときは、ダグが指南役だ。

「ありがとうございます。でも、当たらなくて」
「焦るな。基礎はちゃんとできてる」
「…はい」

ダグさんは横から僕の構えを見て、ふと眉をひそめる。

「旦那」
「はい」
「狙いを定めるときに、目を細めてるな。癖か?」

ダグさんに言われて初めて気づいた。確かに、照準を合わせようとするとき、無意識に目を細めている。ダグさんは的のところまで少し足を引きずりながら移動して、手を前に出す。

「俺の指、何本だ?」

思い切り目を細めても見えない。「下手なんじゃない。目が悪いんだ。いくら練習しても当たらんわけだ。剣が変なところに出やすいのも、そのせいかもな」と言われて、落ち込む。どうしようもない。

「マクシス」

陛下の声がした。

「時間ができたから練習を見に来たのだが、休憩中か?」
「あ、いや…休憩ではなくて…」

僕は自分の目が悪いらしいことを説明する。陛下は少し考えたあとに、何か思いついて「待ってろ」と踵を返し、また急ぎ足で戻ってきた。何か手に持っている。

「東方で作られたもので、眼鏡と言う。独立時に東方の商人から祝いでもらったものだ」
「これをつければ、よく見えるようになるんですか?」
「そのはずだ」

「確か、ここを耳にひっかけて」と言いながら、陛下は僕に眼鏡をかけてくれる。ほんの少し不器用な指が顔に触れるだけで、身体が熱をもちそうになる。

「目を開けてみろ」と言われておそるおそる目を開けると、世界が変わった。

遠くの木々まで、ひと葉ひと葉がくっきりとわかる。今まで、自分がどれだけ曖昧な世界の中で生きていたかが、ようやくわかった。みんなこんなはっきりした世界を見ているのか。はっきりしすぎて怖いくらいだ。

「旦那、そのままもう一度射てみろ」というダグさんの声で、また的を狙う。的の板が真っ二つに割れた。

「マクシスはいい射手だな」

お礼を言おうと陛下に向き直り、僕は言葉を失った。艶やかな黒髪と鮮やかな赤い目。逞しい身体の線がはっきりとわかる黒いシャツを着て、光と風の中で自分に微笑みかけている。

こんなに…こんなにかっこいい人だったのか。

「マクシス?」

陛下と目が合うだけで、全身が熱くなってくる。

「どうした?」
「陛下…かっこいいです」

陛下は浅黒い肌を真っ赤にして、パッと身を翻して駆けだした。

ダグさんがニヤニヤしながら僕をつつく。

「旦那は意外に罪作りだな」
「ただ思ったことを言っただけで…だめでしたか?」
「だめじゃない、もっと言ってやれ」
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