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21 ボシュカの恋【マクシス目線】
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「ダグさん、今日のシフトが終わったあと、お時間ありますか」
「旦那、ダグさんじゃなくてダグって呼べって、何回言ったらわかるんだ?」
ダグさんは呆れたような表情を浮かべた。
「シフト終わりに中庭でいいか?」
「はい、ありがとうございます」
僕ははふうっと息を吐く。ダグさん、騙して本当にごめんなさい。
ーーー
あの日、突然僕の部屋にやってきたボシュカさんはこう言った。
「ダグとの仲を取り持ってほしいの」
ボシュカさんとダグさんは、結婚を約束した恋人同士だったらしい。けれど怪我をして出世ルートから外れたダグさんはボシュカさんに別れを告げ、「あんたとならどんな苦労もする」と迫るボシュカさんに、新しい恋人ができたと説明した。
「新しい恋人なんて嘘に決まってる」
ボシュカさんがダグさんの仕事場に顔を出しても、ダグさんは頑なにボシュカさんとの接触を避ける。ダグさんに言い含められている弟・アリさんも、ボシュカさんに協力してくれる雰囲気ではない。そこで目をつけられたのが、ダグさんの「恩人」である僕だったのだ。
自分のついた嘘がどんな結果を引き起こすのか見届けようと、僕は中庭の茂みに身を隠す。ダグさんがやってきてキョロキョロして、ベンチに座る。その彼の肩に、白い滑らかな腕が回され、背中に豊満な胸が押し当てられた。
「ボ、ボシュカ…!?なんで…」
「マクシスの旦那に、あんなをおびき出すよう頼んだの」
ダグさんは足が悪いはずなのに驚くほど俊敏に逃げたが、ボシュカさんに組み敷かれる。
「本当に女ができたってんなら、名前を言いなよ!」
「…フレイディスだよ」
沈黙。ダグさんは組み敷かれたまま、ぽつりぽつりと説明する。
「お前と別れたときに女ができたって言ったのは、確かに嘘だった。お前が優秀な男と夫婦になって幸せになるほうがいいと思ったから、別れた。でも今は、本当に…フレイディスが俺の大切な人なんだ」
また沈黙。ダグさんの目を見て、ボシュカさんは真実を悟ったのだろう。
「わかった。追いかけ回してごめん」
「違う…俺が悪い。変にかっこつけてお前と別れて、フレイディスのことも後ろめたくて…お前に何も言わず逃げ回ってたから」
風がボシュカさんの緑の髪を揺らす。
「こんなこと俺が言えたこっちゃないが…お前には幸せになってほしい」
「黙れ、腰抜けのくそ野郎。とっとと失せて幸せになれ」
暗くなってきた中庭にはボシュカさんだけが取り残されて、彼女の嗚咽が響く。
予想だにしない目の前の展開に、僕はおずおずと立ち上がり、ボシュカさんに近づいた。彼女のいつも陽気で楽しそうな目が、深い悲しみに彩られている。
「恥ずかしい…完全に空回りしてたね。マクシスの旦那に片棒かつがせた挙句、こんな恥かいて」
「僕のことは、気にしないでください」
「本当に本当に好きだったのに、好きなだけじゃ叶わないんだ。完全に失恋だね。私ひとりだけ、まだ両想いだって勘違いして…」
「何て言ったらいいのか…」
「何も言わずに、一緒にいてくれるだけで助かるよ」
そう言われて僕がボシュカさんの横に座ると、彼女はとんと僕の肩に頭を乗せた。
「ありがとね」
「旦那、ダグさんじゃなくてダグって呼べって、何回言ったらわかるんだ?」
ダグさんは呆れたような表情を浮かべた。
「シフト終わりに中庭でいいか?」
「はい、ありがとうございます」
僕ははふうっと息を吐く。ダグさん、騙して本当にごめんなさい。
ーーー
あの日、突然僕の部屋にやってきたボシュカさんはこう言った。
「ダグとの仲を取り持ってほしいの」
ボシュカさんとダグさんは、結婚を約束した恋人同士だったらしい。けれど怪我をして出世ルートから外れたダグさんはボシュカさんに別れを告げ、「あんたとならどんな苦労もする」と迫るボシュカさんに、新しい恋人ができたと説明した。
「新しい恋人なんて嘘に決まってる」
ボシュカさんがダグさんの仕事場に顔を出しても、ダグさんは頑なにボシュカさんとの接触を避ける。ダグさんに言い含められている弟・アリさんも、ボシュカさんに協力してくれる雰囲気ではない。そこで目をつけられたのが、ダグさんの「恩人」である僕だったのだ。
自分のついた嘘がどんな結果を引き起こすのか見届けようと、僕は中庭の茂みに身を隠す。ダグさんがやってきてキョロキョロして、ベンチに座る。その彼の肩に、白い滑らかな腕が回され、背中に豊満な胸が押し当てられた。
「ボ、ボシュカ…!?なんで…」
「マクシスの旦那に、あんなをおびき出すよう頼んだの」
ダグさんは足が悪いはずなのに驚くほど俊敏に逃げたが、ボシュカさんに組み敷かれる。
「本当に女ができたってんなら、名前を言いなよ!」
「…フレイディスだよ」
沈黙。ダグさんは組み敷かれたまま、ぽつりぽつりと説明する。
「お前と別れたときに女ができたって言ったのは、確かに嘘だった。お前が優秀な男と夫婦になって幸せになるほうがいいと思ったから、別れた。でも今は、本当に…フレイディスが俺の大切な人なんだ」
また沈黙。ダグさんの目を見て、ボシュカさんは真実を悟ったのだろう。
「わかった。追いかけ回してごめん」
「違う…俺が悪い。変にかっこつけてお前と別れて、フレイディスのことも後ろめたくて…お前に何も言わず逃げ回ってたから」
風がボシュカさんの緑の髪を揺らす。
「こんなこと俺が言えたこっちゃないが…お前には幸せになってほしい」
「黙れ、腰抜けのくそ野郎。とっとと失せて幸せになれ」
暗くなってきた中庭にはボシュカさんだけが取り残されて、彼女の嗚咽が響く。
予想だにしない目の前の展開に、僕はおずおずと立ち上がり、ボシュカさんに近づいた。彼女のいつも陽気で楽しそうな目が、深い悲しみに彩られている。
「恥ずかしい…完全に空回りしてたね。マクシスの旦那に片棒かつがせた挙句、こんな恥かいて」
「僕のことは、気にしないでください」
「本当に本当に好きだったのに、好きなだけじゃ叶わないんだ。完全に失恋だね。私ひとりだけ、まだ両想いだって勘違いして…」
「何て言ったらいいのか…」
「何も言わずに、一緒にいてくれるだけで助かるよ」
そう言われて僕がボシュカさんの横に座ると、彼女はとんと僕の肩に頭を乗せた。
「ありがとね」
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