黒狼陛下は人質皇子に抱かれたい

こじまき

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22 覚悟していても【ガイセル目線】

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最近辺境部族からの相談多すぎる。自分たちで解決せずにうちに仲裁を頼んでくるものだから仕事は増えるし、完全に平等に裁くことはできないから、知らぬ間にヴァルグランドが悪者になりかねない。

「どうしたものかな」とつぶやくと、執務室で書類を捌いていたアウィーナが「お疲れ様」と飲み物を出してくれた。意味ありげな視線を感じる。

「何だ?」
「うーん…」

「言いたいが言いにくいこと」があるときの態度だ。

「どうせ言うんだから、早く言え」
「あんたね、人の気遣いをぶった斬るのはよくないよ」

アウィーナは唇を尖らせながら「ボシュカとマクシスの噂、知ってる?」と聞いて、俺が首を振ると、マクシスとボシュカが中庭で寄り添っていたことや、マクシスがボシュカを城門まで送ったのを門兵が見たことを説明した。

「それに最近、ボシュカがしょっちゅうマクシスの部屋に来たり、マクシスが薬剤室に行ったりしてるみたいで。こないだは一緒に街に行ったって。伝えようか迷ったけど、知るなら早いほうがいいかなって」

アウィーナに俺とマクシスの仲を裂く理由はないし、理由があるとしても彼女はそんな策略を巡らすタイプではない。兄を巡って対立した女たちのことは、力づくで排除していたから。

「マクシスは愛していると言ってくれた。俺たちは愛し合っているはずだ」と思うけれど、心には靄が広がっていく。俺とのセックスに味をしめたマクシスが、女に興味を持ち始めたのだとしたら…?ボシュカは気が強すぎるが、顔と身体は男好きがするし、強気な性格も優しいマクシスに迫るには武器になるかもしれない。

「ガイセル、大丈夫?」
「ああ。こうなることも覚悟はしていた」

もともと俺のものにしたくて連れてきたわけではない。縛ってはいけないと思っていた。幸運にもマクシスに抱いてもらうことができたら、それが永遠でないこともわかっていたはずだ。少しでも傷が浅いうちに、潔く諦めないと…

「でもさ…覚悟してても実際に起きるとショックでしょ」

アウィーナは椅子に座ったままの俺の頭を、ぎゅっと胸に抱いた。母親や姉に抱きしめられているようで、涙が出そうになる。

「ここまで言っといてなんだけど、あくまで噂だからね。諦める前に、本人に確認してみな」

「折を見て」と言うのに「そんなこと言ってると、いつまでもできない。どうせ聞くんだから早く聞きなよ」と執務室を追い出され、俺は仕方なくマクシスの部屋に向かう。彼の部屋の前にはボシュカがいて、ノックして「私よ」と呼び掛けている。つまりは名乗らなくても声だけで通じ合う間柄と言うことだ。

ドアの前で俺を見てギクリとしたアリの顔がうるさい。口の形で「今はだめだ」と訴えてくる。だめだと言われたら、見ないと。俺はアリを振り切ってドアを開けた。

俺が用意した机で、マクシスがボシュカと楽しそうに額を寄せ合っていた。

胸が痛い。

心臓を剣で斬られてもこんなに痛くないと思えるくらい。

「お楽しみのところ、邪魔したか?」
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