黒狼陛下は人質皇子に抱かれたい

こじまき

文字の大きさ
25 / 35

25 僕はお前のものじゃない【マクシス目線】

しおりを挟む
土埃を巻き上げていた馬車が石畳を踏み始め、生まれ故郷である帝都グリアに近づいていることを教えてくれる。

宮殿の車止めに馬車を止めて、長い間入ることを許されなかった皇帝宮へ。大広間の天井から垂れ下がる赤金の絹布と、帝国の象徴である太陽の紋章が織り込まれた絨毯。そして千本の燭台。子どものころは輝いて見え、憧れてやまなかったこの空間が、今の僕には虚しく見える。

「皇帝陛下、ただいま帰還いたしました」
「面を上げよ」

大広間に仰々しく据えらえた玉座には、異母弟のルキウス。脚を組み、ひじ掛けにひじをつき、ふんぞり返っているという表現がぴったりだ。相変わらず顔だけはいいが。

「久しいな、マクシス」
「ええ。皇帝陛下にはご健勝のこと、お慶び申し上げます」

しっかりとルキウスの紫の目を見つめる。恐れはない。王妃アウィーナ様とボシュカさんがくれた言葉があるから。

《あなたがあのクソ皇太子…じゃない、皇帝からどんな扱いを受けたかは知ってる。でも負けちゃだめ。あなたのほうが強いんだから》

《弱い犬ほど強がってキャンキャン吠えるの。まさに皇帝のことでしょ?でもあなたは黒狼を組み敷く黄金の狼。それを忘れないでね》

僕の目に恐れも媚びもないことがわかったのだろう。ルキウスは顔を歪ませて玉座から立ち上がり、階段を降りてくる。そして宝杖の先で僕の顎を持ち上げた。

「随分生意気な顔をしている。また北の離れに閉じ込められたいのか」
「どうぞ皇帝陛下の思し召しのままに。どんな扱いを受けても、恐れることはありません」

ルキウスの表情がまた歪み、「怯えて私に従え」という心の叫びが聞こえてくるようだ。「あの二人の強い女性が言っていた通りだな」と思うと、笑みがこぼれてくる。

「何を笑ってる!」とルキウスは杖で僕の頬を張り、「こいつを北の離れへ連れていけ。絶対に出すな」と侍従に命じた。

住みなれた北の離れは、ここを愛していない主の帰還を歓迎しているのかいないのか。静かな夜、眠れないままベッドに入っていると、ルキウスがここに向かう足音さえはっきりと聞こえる。ルキウスの目には、怒りと焦りが浮かんでいた。

「脱いで後ろを向け、マクシス」
「皇帝陛下、お断りいたします」

ルキウスは唇を噛み、侍従に「こいつを縛れ」と命じる。侍従たちは手際よく僕を縛り、ルキウスが挿れやすいように僕を四つん這いにさせる。

挿れられても、僕が偽の嬌声をあげることはもうない。彼を満足させようと吐精することもない。身体を支配されても、心は支配されない。僕はルキウスのものではないから。

「鳴け!鳴けよ!もっと突いてほしいと乞え!前みたいに…っ」
「突いてほしくもないのに、何も感じないのに、乞う意味がありません」

ルキウスはギリギリと歯噛みして激しく動き、勝手に達した。どれほど虚しいことだろう。僕の指から、ガイセルにもらった指輪を抜き取って吐き捨てる。

「また来るからな」
「怖くありません、陛下」

僕は軽くなった左手を握りしめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!

水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。 それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。 家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。 そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。 ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。 誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。 「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。 これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される

水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。 行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。 「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた! 聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。 「君は俺の宝だ」 冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。 これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。 ・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。 ・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。 ・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。

処理中です...