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25 僕はお前のものじゃない【マクシス目線】
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土埃を巻き上げていた馬車が石畳を踏み始め、生まれ故郷である帝都グリアに近づいていることを教えてくれる。
宮殿の車止めに馬車を止めて、長い間入ることを許されなかった皇帝宮へ。大広間の天井から垂れ下がる赤金の絹布と、帝国の象徴である太陽の紋章が織り込まれた絨毯。そして千本の燭台。子どものころは輝いて見え、憧れてやまなかったこの空間が、今の僕には虚しく見える。
「皇帝陛下、ただいま帰還いたしました」
「面を上げよ」
大広間に仰々しく据えらえた玉座には、異母弟のルキウス。脚を組み、ひじ掛けにひじをつき、ふんぞり返っているという表現がぴったりだ。相変わらず顔だけはいいが。
「久しいな、マクシス」
「ええ。皇帝陛下にはご健勝のこと、お慶び申し上げます」
しっかりとルキウスの紫の目を見つめる。恐れはない。王妃アウィーナ様とボシュカさんがくれた言葉があるから。
《あなたがあのクソ皇太子…じゃない、皇帝からどんな扱いを受けたかは知ってる。でも負けちゃだめ。あなたのほうが強いんだから》
《弱い犬ほど強がってキャンキャン吠えるの。まさに皇帝のことでしょ?でもあなたは黒狼を組み敷く黄金の狼。それを忘れないでね》
僕の目に恐れも媚びもないことがわかったのだろう。ルキウスは顔を歪ませて玉座から立ち上がり、階段を降りてくる。そして宝杖の先で僕の顎を持ち上げた。
「随分生意気な顔をしている。また北の離れに閉じ込められたいのか」
「どうぞ皇帝陛下の思し召しのままに。どんな扱いを受けても、恐れることはありません」
ルキウスの表情がまた歪み、「怯えて私に従え」という心の叫びが聞こえてくるようだ。「あの二人の強い女性が言っていた通りだな」と思うと、笑みがこぼれてくる。
「何を笑ってる!」とルキウスは杖で僕の頬を張り、「こいつを北の離れへ連れていけ。絶対に出すな」と侍従に命じた。
住みなれた北の離れは、ここを愛していない主の帰還を歓迎しているのかいないのか。静かな夜、眠れないままベッドに入っていると、ルキウスがここに向かう足音さえはっきりと聞こえる。ルキウスの目には、怒りと焦りが浮かんでいた。
「脱いで後ろを向け、マクシス」
「皇帝陛下、お断りいたします」
ルキウスは唇を噛み、侍従に「こいつを縛れ」と命じる。侍従たちは手際よく僕を縛り、ルキウスが挿れやすいように僕を四つん這いにさせる。
挿れられても、僕が偽の嬌声をあげることはもうない。彼を満足させようと吐精することもない。身体を支配されても、心は支配されない。僕はルキウスのものではないから。
「鳴け!鳴けよ!もっと突いてほしいと乞え!前みたいに…っ」
「突いてほしくもないのに、何も感じないのに、乞う意味がありません」
ルキウスはギリギリと歯噛みして激しく動き、勝手に達した。どれほど虚しいことだろう。僕の指から、ガイセルにもらった指輪を抜き取って吐き捨てる。
「また来るからな」
「怖くありません、陛下」
僕は軽くなった左手を握りしめた。
宮殿の車止めに馬車を止めて、長い間入ることを許されなかった皇帝宮へ。大広間の天井から垂れ下がる赤金の絹布と、帝国の象徴である太陽の紋章が織り込まれた絨毯。そして千本の燭台。子どものころは輝いて見え、憧れてやまなかったこの空間が、今の僕には虚しく見える。
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「面を上げよ」
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《弱い犬ほど強がってキャンキャン吠えるの。まさに皇帝のことでしょ?でもあなたは黒狼を組み敷く黄金の狼。それを忘れないでね》
僕の目に恐れも媚びもないことがわかったのだろう。ルキウスは顔を歪ませて玉座から立ち上がり、階段を降りてくる。そして宝杖の先で僕の顎を持ち上げた。
「随分生意気な顔をしている。また北の離れに閉じ込められたいのか」
「どうぞ皇帝陛下の思し召しのままに。どんな扱いを受けても、恐れることはありません」
ルキウスの表情がまた歪み、「怯えて私に従え」という心の叫びが聞こえてくるようだ。「あの二人の強い女性が言っていた通りだな」と思うと、笑みがこぼれてくる。
「何を笑ってる!」とルキウスは杖で僕の頬を張り、「こいつを北の離れへ連れていけ。絶対に出すな」と侍従に命じた。
住みなれた北の離れは、ここを愛していない主の帰還を歓迎しているのかいないのか。静かな夜、眠れないままベッドに入っていると、ルキウスがここに向かう足音さえはっきりと聞こえる。ルキウスの目には、怒りと焦りが浮かんでいた。
「脱いで後ろを向け、マクシス」
「皇帝陛下、お断りいたします」
ルキウスは唇を噛み、侍従に「こいつを縛れ」と命じる。侍従たちは手際よく僕を縛り、ルキウスが挿れやすいように僕を四つん這いにさせる。
挿れられても、僕が偽の嬌声をあげることはもうない。彼を満足させようと吐精することもない。身体を支配されても、心は支配されない。僕はルキウスのものではないから。
「鳴け!鳴けよ!もっと突いてほしいと乞え!前みたいに…っ」
「突いてほしくもないのに、何も感じないのに、乞う意味がありません」
ルキウスはギリギリと歯噛みして激しく動き、勝手に達した。どれほど虚しいことだろう。僕の指から、ガイセルにもらった指輪を抜き取って吐き捨てる。
「また来るからな」
「怖くありません、陛下」
僕は軽くなった左手を握りしめた。
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