私、貧乏貴族となんて結婚しないから!

こじまき

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6 当たって砕けた

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今日は王宮で外国の要人も招いての舞踏会が開かれる。

ブルーと白を使った最新流行のドレスに身を包み、艶やかな水色の髪をハーフアップにしたヴィクトリアは、鏡を見つめて満足げに頷いた。仕上がりは上々だ。

そこへアビゲイルが「お嬢様、宝石はこちらのブルーサファイアでよろしいですか?」と聞いた。

ヴィクトリアはフィリップから贈られた、ブルーサファイアとダイヤモンドを組み合わせたネックレスとイヤリングのセットに目をやる。

「ええ。今日のドレスに合うわ」
「本当によくお似合いです。それにこんなにサファイアが大きくて。かなり高価なものでございましょうね」
「でしょうね」

まったく興味のなさそうな声。

「お嬢様がこれを身につけて舞踏会に出られたら、フィリップ様はさぞお喜びに…」
「なるでしょうね。でも今日はフィリップ様は欠席なの。お仕事でね」

アビゲイルは目をぱちくりとした。

「まあ…どうしてフィリップ様がいらっしゃらないときにわざわざこれをつけて行かれるのですか?」
「自分が贈ったものだと舞踏会で吹聴されたら、まるでもう私とフィリップ様が恋人だとか、婚約目前みたいな感じになっちゃうでしょ。私はあくまで殿下狙いだし、保険としてはレナード様がいる。彼は…なんていうのかしら、保険の保険だわ」

(お嬢様ったら、いつまでこんな…)

何も言わないアビゲイルに、ヴィクトリアは少し笑いかける。

「言いたいことはわかってるわ、アビー。私ももう二十歳、タイムリミットよね。保険にも請求期限がある。そろそろ決めなくては」
「お嬢様…」
「だからこそ、今日は飾り立てて殿下に近づかなきゃ。もう少し腕にお粉をはたいてくれる?」

ヴィクトリアは今日までのギルバート攻略戦と、それに対するギルバートの態度を思い返す。

ヴィクトリアはギルバートの予定を調べあげ、王宮でギルバートと偶然鉢合わせる振りを何回も繰り返した。けれど、そのたびにギルバートはちらりとヴィクトリアを見て、簡単な挨拶をするだけだった。ヴィクトリアがどれだけセクシーなドレスを着ても、最新流行で固めても。

舞踏会や劇場でも、できるだけ彼の近くにいるようにしていた。それでも、全く相手にされなかったのだ。他の男たちとはまるで反応が違う。けれど、それが彼女の負けん気に火をつけている。

(絶対モノにしてみせるわ。態度でわからないなら言葉でわからせてやる)

会場に到着したヴィクトリアは、うっとりと彼女を見つめる男たちと順番に踊りながら、ギルバートの到着を待っている。

「ヴィクトリア嬢、今日も美しい」
「マリウス様に褒めていただいて光栄ですわ。ところで、新大陸を探す船に出資されたのですって?」
「ああ、ひと山当てようと思いましてね。男のロマンですよ」
「私、そういう冒険心に溢れた男性は大好きですわ。ぜひ結果をお聞かせくださいましね」
「ええ、もちろん」

(あ、殿下がいらしたわ。今日も彼は完璧ね)

早速男たちをそつなく振り切って、ギルバートの目につくところに陣取る。

すると、その思いが通じたのかギルバートがこちらにやってきた。

「一曲踊ろうか、ヴィクトリア」

(ついに…!)

「喜んで、ギルバート殿下」
「とても綺麗だよ、その宝石」
「光栄でございます」

踊りながら、ギルバートはヴィクトリアの耳に「ルロイはいつも君の話ばかりしているよ」と囁く。

(そう、本当にルロイはいつもヴィクトリアの話ばかりだ。金持ちにしか興味を示さず、王太子だからという理由だけで俺にまとわりついてくるこの女を。顔以外、一体どこがいい?)

一度ギルバートはその疑問をルロイにぶつけてみた。

ルロイが「顔も身体も中身も全部」と即答したのを思い出して、ギルバートはふっと笑いを漏らす。

「ノーフォーク卿から聞いておられるのが、いいお話だと良いのですが」
「いい話ばかりだよ。勉強熱心で、社交的で、語学も堪能で、根性があると」
「さようでございますか、光栄ですわ」

(いいこと言ってくれるじゃない、ルロイ。悪ふざけのお詫びに援護射撃してくれてるの?)

ヴィクトリアは覚悟を決めて、ギルバートの緑の目を見つめる。

(いつまでも待てない。一か八か、はっきり言わなきゃ)

「殿下、正直に申し上げます。私が研鑽を積んで参りましたのは、王太子妃、そして王妃になって殿下のお役に立つためにございます。そこらのご令嬢には決して負けません」
「はっきり言うね」
「ええ。ですから殿下、どうか私を王太子妃…せめてその候補にしてくださいませ」

「今ここで返事をくれ」と、ヴィクトリアはギルバートを上目遣いに見つめる。潤んだ瞳で、身体を寄せながら。

「断る」
「どうしてですか!?心に決めた方が?」
「そうだ」

(それに、親友が想っている相手を奪うつもりもないしな)

「ど…どなたですか?」
「シュラーベンで出会った平民の女性だよ」

それを聞いてヴィクトリアは態勢を立て直す。異国出身の平民が王太子の妃になるなど、聞いたことがない。これならまだチャンスはあるはずだ。

「異国出身の平民と結婚など、ハードルが高すぎます」
「承知している」
「殿下、目をお覚ましください。私は完璧な王太子妃になれますわ。私と結婚していただければ絶対に損は…」
「結婚は損得ではないよ。愛がなければ失敗する」

「愛なんて…!」とヴィクトリアは思わず少し大きな声を出してしまい、しまったと口をつぐむ。そして小さな声で言い直す。

「殿下。王族貴族の結婚に愛など、絵空事でございましょう」
「君とは価値観が合わないようだ。私は見た目によらずロマンチックな男なものでね」
「そ、そんな…それでしたら、その女性を愛人にしていただいても構いません。私とは愛のない結婚生活でも、私にまったく不満はございません」
「私は彼女…シャーロットと結婚したいんだよ、ヴィクトリア。心から愛する女性を愛人などという不安定な立場に置くつもりはない。すまないね」

曲が終わり、ギルバートは彼女から離れようとして、思い直してヴィクトリアの頬にキスする。

子どもにするような軽い軽いキスだ。

(親友が愛する女性だからな…忠告はしておいてやるべきだろう)

「君も、君の身近にある尊い愛に気づくべきだよ、美しくて愚かなヴィクトリア」
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