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8 俺が彼女を愛する理由
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翌日、何食わぬ顔でルロイがダービートン伯爵邸にやってきた。「リアには帰国の挨拶がまだだったような気がして」とぬけぬけと言う。
(帰国してから何回も会ってるし、何ならもう何回もセックスしたのに、何なのよ!昨日なんて外で…みんなが踊ってる横で…)
思い出すだけで顔が真っ赤になってしまうヴィクトリアは、何とかルロイを早く追い返したい。
けれど息子のいないダービートン伯爵はルロイを気に入っており、「昼食を一緒に」と誘い始めた。
(お父様、やめて!やめてやめて!)
「喜んで」とルロイはキラキラした笑顔を伯爵に向ける。
(人畜無害な顔して…あの飢えた猛獣みたいなギラギラした顔はどこへ行ったのよ)
「ああ、そういえばリア。これを渡したくて」とルロイが小さな箱を差し出す。
「開けてみて。きっと気に入る」と促されて開けてみると、木で作った小さな馬車。
ヴィクトリアは、劇場でルロイに「レナード様は馬車をくれる。あなたには無理でしょ」と言ったことを思い出す。
「俺が作ったんだ。本物は今は無理だから、これで我慢してくれ」
「ルロイは昔から器用だねえ」とダービートン伯爵が感心する。
「今の俺の精一杯の愛の証だ。愛しているよ、リア」
ルロイの「愛している」に、ダービートン伯爵夫妻も、控えていたアビゲイルもピタリと動きをとめた。
そしてヴィクトリアの反応を見守る。
(ルロイ、無駄よ。そんなことで私は揺らいだりしない。例えあなたがお父様やアビーを証人に、私に愛を宣言してもね)
「ほほほ、何とも小さな愛ね!こんな何の役にも立たないものをもらっても邪魔なだけよ」
「こら、ヴィクトリア。せっかくのプレゼントにそんなことを言うなんて失礼だぞ。手作りのプレゼントなんて、よっぽど労力がかかるんだから。ルロイがヴィクトリアのことを想って作ってくれたものじゃないか」とダービートン伯爵に諫められて、ヴィクトリアは肩を竦める。
「すまないね、ルロイ。ヴィクトリアはずっとこんな調子だ。プレゼントの値段で男をランク分けして。値段でははかれない価値もあるというのに」
謝る伯爵と「いえ…」と苦笑するルロイに、「男の価値は身分と経済力で決まります」とヴィクトリアは言い捨てる。
「ヴィクトリア、そんなことでは幸せな結婚など夢のまた夢だ。ルロイのような、真面目で、主君からの信頼も厚い男性がヴィクトリアを愛していると言ってくれているのに!それでは満足できないというのか?」
「ええ。全く満足できませんわ、お父様。ルロイは身分も財産も、私の条件を満たしていないのですから」
プイと横を向いてしまったヴィクトリアに溜息をつき、伯爵はまたルロイに謝る。
「すまないね、ルロイ」
「いいのです。リアの気持ちもわかります。これまでの彼女の人生を考えたら、安定した生活を望むのは当然のこと。それに我が家が借金まみれなのも本当ですから」
「ああ、君はこんなにヴィクトリアのことを理解してくれているのに、本人があれでは…」
「借金を完済して、家運を回復して、ヴィクトリアに正式にプロポーズできるように励みます」
そう言うリロイをヴィクトリアは睨み付ける。
(いつまでかかるのかしら。私はおばあちゃんになっちゃう。とても待ちきれないわよ)
ーーー
ルロイはヴィクトリアへの好意を隠さなくなった。
王宮や舞踏会、オペラなどでヴィクトリアを見かけるたびに寄ってくる。そのたびにヴィクトリアがうるさそうに彼を追い払うのがお決まりになった。
そのことで、ルロイは彼狙いのご令嬢たちに責められている。
「ルロイ様ったら、あの銭ゲバヴィクトリアのどこをお好きなの?」
「地位と財産のある男なら、見た目も性格も年齢も問わずに漁りまくる女ですわよ」
(聞こえてるわよ)
ヴィクトリアはこういう陰口には慣れている。
彼女たちが話していることに間違いはないし、ヴィクトリア自身がそれを恥ずかしいとも思っていないから否定する気はない。
ただ、多かれ少なかれ彼女たちも同じような物差しで男のスペックをはかって天秤にかけて品定めしているはずなのに、「自分たちはまったくそんなことはしておりません。清らかな心のつながりだけを信じております」みたいなカマトトぶった顔をされるのがムカつくだけだ。
「そういう部分を正直にさらけ出しているところが好きなのですよ」というルロイの言葉が聞こえる。
彼は取り巻きたちではなく、ヴィクトリアに向けて話しているようだ。ヴィクトリアのところまで声がよく聞こえる。
「あなた方も多かれ少なかれ、男性の地位や経済力は気になさるでしょう。彼女はそれを隠さないだけです。とても潔い」
ルロイの取り巻きたちは一斉に口をつぐむ。
「それに、彼女は目的を達成するために努力を惜しまない。加えて、あの美しさと賢さだ。あれほどの女性を見たことがありません」
(私の代わりに一矢報いてくれたわけ?礼を言うわ、どうもありがとう)
「それに…今の私は彼女の条件に達していない。それこそが、必ずそこに達してみせるという意欲を与えてくれるのです。それは男として成長していく意欲です」
(あっそ。でももうタイムリミットはもうすぐそこよ。あなたはきっと間に合わないわ。残念ね)
ヴィクトリアはルロイにあっかんべをして、ランプレヒト公爵レナードと踊り始めた。
本命のギルバートに振られたため、一番いい保険だったレナードとの仲を急速に深めているのだ。
「ルロイは君にご執心のようだね」
「迷惑ですわ。私にはレナード様がいるのに」
「ルロイにも、君にまとわりつく他の男たちにも、はっきりそう言ってやるべきだな」
「嫌だわ、喧嘩はなさらないでね?」とヴィクトリアは頭を横に倒して微笑む。
(まだだめ。まさかのときのために、ルロイ以外はキープしとかないと)
(帰国してから何回も会ってるし、何ならもう何回もセックスしたのに、何なのよ!昨日なんて外で…みんなが踊ってる横で…)
思い出すだけで顔が真っ赤になってしまうヴィクトリアは、何とかルロイを早く追い返したい。
けれど息子のいないダービートン伯爵はルロイを気に入っており、「昼食を一緒に」と誘い始めた。
(お父様、やめて!やめてやめて!)
「喜んで」とルロイはキラキラした笑顔を伯爵に向ける。
(人畜無害な顔して…あの飢えた猛獣みたいなギラギラした顔はどこへ行ったのよ)
「ああ、そういえばリア。これを渡したくて」とルロイが小さな箱を差し出す。
「開けてみて。きっと気に入る」と促されて開けてみると、木で作った小さな馬車。
ヴィクトリアは、劇場でルロイに「レナード様は馬車をくれる。あなたには無理でしょ」と言ったことを思い出す。
「俺が作ったんだ。本物は今は無理だから、これで我慢してくれ」
「ルロイは昔から器用だねえ」とダービートン伯爵が感心する。
「今の俺の精一杯の愛の証だ。愛しているよ、リア」
ルロイの「愛している」に、ダービートン伯爵夫妻も、控えていたアビゲイルもピタリと動きをとめた。
そしてヴィクトリアの反応を見守る。
(ルロイ、無駄よ。そんなことで私は揺らいだりしない。例えあなたがお父様やアビーを証人に、私に愛を宣言してもね)
「ほほほ、何とも小さな愛ね!こんな何の役にも立たないものをもらっても邪魔なだけよ」
「こら、ヴィクトリア。せっかくのプレゼントにそんなことを言うなんて失礼だぞ。手作りのプレゼントなんて、よっぽど労力がかかるんだから。ルロイがヴィクトリアのことを想って作ってくれたものじゃないか」とダービートン伯爵に諫められて、ヴィクトリアは肩を竦める。
「すまないね、ルロイ。ヴィクトリアはずっとこんな調子だ。プレゼントの値段で男をランク分けして。値段でははかれない価値もあるというのに」
謝る伯爵と「いえ…」と苦笑するルロイに、「男の価値は身分と経済力で決まります」とヴィクトリアは言い捨てる。
「ヴィクトリア、そんなことでは幸せな結婚など夢のまた夢だ。ルロイのような、真面目で、主君からの信頼も厚い男性がヴィクトリアを愛していると言ってくれているのに!それでは満足できないというのか?」
「ええ。全く満足できませんわ、お父様。ルロイは身分も財産も、私の条件を満たしていないのですから」
プイと横を向いてしまったヴィクトリアに溜息をつき、伯爵はまたルロイに謝る。
「すまないね、ルロイ」
「いいのです。リアの気持ちもわかります。これまでの彼女の人生を考えたら、安定した生活を望むのは当然のこと。それに我が家が借金まみれなのも本当ですから」
「ああ、君はこんなにヴィクトリアのことを理解してくれているのに、本人があれでは…」
「借金を完済して、家運を回復して、ヴィクトリアに正式にプロポーズできるように励みます」
そう言うリロイをヴィクトリアは睨み付ける。
(いつまでかかるのかしら。私はおばあちゃんになっちゃう。とても待ちきれないわよ)
ーーー
ルロイはヴィクトリアへの好意を隠さなくなった。
王宮や舞踏会、オペラなどでヴィクトリアを見かけるたびに寄ってくる。そのたびにヴィクトリアがうるさそうに彼を追い払うのがお決まりになった。
そのことで、ルロイは彼狙いのご令嬢たちに責められている。
「ルロイ様ったら、あの銭ゲバヴィクトリアのどこをお好きなの?」
「地位と財産のある男なら、見た目も性格も年齢も問わずに漁りまくる女ですわよ」
(聞こえてるわよ)
ヴィクトリアはこういう陰口には慣れている。
彼女たちが話していることに間違いはないし、ヴィクトリア自身がそれを恥ずかしいとも思っていないから否定する気はない。
ただ、多かれ少なかれ彼女たちも同じような物差しで男のスペックをはかって天秤にかけて品定めしているはずなのに、「自分たちはまったくそんなことはしておりません。清らかな心のつながりだけを信じております」みたいなカマトトぶった顔をされるのがムカつくだけだ。
「そういう部分を正直にさらけ出しているところが好きなのですよ」というルロイの言葉が聞こえる。
彼は取り巻きたちではなく、ヴィクトリアに向けて話しているようだ。ヴィクトリアのところまで声がよく聞こえる。
「あなた方も多かれ少なかれ、男性の地位や経済力は気になさるでしょう。彼女はそれを隠さないだけです。とても潔い」
ルロイの取り巻きたちは一斉に口をつぐむ。
「それに、彼女は目的を達成するために努力を惜しまない。加えて、あの美しさと賢さだ。あれほどの女性を見たことがありません」
(私の代わりに一矢報いてくれたわけ?礼を言うわ、どうもありがとう)
「それに…今の私は彼女の条件に達していない。それこそが、必ずそこに達してみせるという意欲を与えてくれるのです。それは男として成長していく意欲です」
(あっそ。でももうタイムリミットはもうすぐそこよ。あなたはきっと間に合わないわ。残念ね)
ヴィクトリアはルロイにあっかんべをして、ランプレヒト公爵レナードと踊り始めた。
本命のギルバートに振られたため、一番いい保険だったレナードとの仲を急速に深めているのだ。
「ルロイは君にご執心のようだね」
「迷惑ですわ。私にはレナード様がいるのに」
「ルロイにも、君にまとわりつく他の男たちにも、はっきりそう言ってやるべきだな」
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