私、貧乏貴族となんて結婚しないから!

こじまき

文字の大きさ
9 / 19

9 ゆるふわ肉食エリザベス

しおりを挟む
王太子執務室。資料を完璧に揃えて提出したルロイの様子がおかしいことにギルバートが気づく。

「ルロイ、どうかしたか?」
「なんでもない」
「意中のヴィクトリアと何かあったのか?」
「セックス以外何もないから落ち込んでる。お前に振られても、俺とは結婚しないんだとさ」
「セックス以外何もない…?随分倒錯してるな」

ギルバートは「やれやれ」と肩を竦めた後、「仕事のときはヴィクトリアのことは頭から締め出せ。次にお前に任せたい仕事はこれだから」をルロイにファイルを手渡す。

ファイルを開いたルロイは、目を見開いた。

「俺じゃなきゃいけないのか?」
「適任だから」
「はあ…貸しだぞ」
「貸しとはなんだ、これは仕事だよ」

翌週のオペラ。

ヴィクトリアはレナードとロビーで額をくっつけあって話し込んでいる。

そのレナードが、ふとルロイに気づいた。

ルロイはウェセロス公爵令嬢エリザベスと腕を組んでいる。

レナードもエリザベスの父も現国王の従弟だから、二人は近しい親戚だ。

「やあ、ルロイにリズじゃないか」

レナードの言葉で、親しげに腕を組んでいるルロイとエリザベスに気づいたヴィクトリア。

その彼女の胸に、寄宿学校での辛い思い出が蘇る。

下働きに成り下がったヴィクトリアを率先していじめていたのが、この一学年下のエリザベスだったのだ。


《掃除がなってない》

《食事が冷めている》

《服にホコリがついていた》

《絆創膏の貼り方が曲がっていた》

そんないちゃもんをつけられては、雑巾を食べさせられたり氷水を浴びせられたり…彼女から受けた仕打ちは枚挙にいとまがない。

彼女のやりようを見て、周りも「ヴィクトリアは虐めてもいいんだ」と解釈して、いじめがエスカレートしていったのだった。

ヴィクトリアと目があっても、エリザベスはまるで動じない。いじめなどまるでなかったかのように、ルロイのそばでふんわりと天使のように笑っている。

父親は国王の従弟にあたる公爵、母親も外国の王族の血を引いていて身分が高いから、伯爵家の養女ごときに何を言われても、痛くも痒くもないと思っているのだろう。

「二人がこのような場で腕を組んで仲良く過ごす間柄とは、知らなかったよ」

そう言われたルロイとエリザベスは、顔を見合わせて幸せそうに微笑む。

エリザベスのピンク色の巻毛が、彼女の動きに合わせてあざとくくるんと揺れる。

「ルロイ、君は私のヴィクトリアに熱をあげていたように見えたけど?」

「ええ、一時期。けれど今はリズが私の全てです」とルロイは照れたように言う。

(一時期、ですって?ついこの間、私に「十歳の時からずっと愛してる」なんて言ったくせに!しかも「リズ」ですって?この、見た目は完璧なゆるふわのくせして、中身はえげつないほど腹黒のいじめっ子を愛おしそうに見つめて、「リズ」ですって?ムカつくわ)

眉間にしわが寄ってくるヴィクトリアに、エリザベスが天使のような微笑みを浮かべたまま「ヴィクトリアお姉様」と話しかける。

(誰がお姉様よ。このゆるふわ腹黒)

「ちょっとあちらでお話をしたいわ」とエリザベスはヴィクトリアをロビーの端のほうへ連れていき、扇子で口を隠して話し始めた。

「ねえお姉様、ルロイ様とは幼馴染なんでしょう。彼のこと教えてくださらない?」
「ノーフォーク卿のどんなことでございましょうか?」
「好きなものとか、好きな女性のタイプとか。ルロイ様を完璧に落とすために必要な情報」
「ほほ…落とすだなんて。先ほどの様子を拝見しておりますと、もうノーフォーク卿は美しい天使のようなエリザベス様に夢中なご様子ですわ」

「それは確かにそうなんですけれど、でもルロイ様はモテるんだもの」とエリザベスはわざとらしく溜息をつく。ヴィクトリアの嫌味は意に介さない。

「もっともっと私に夢中になってもらいたいの。みんなの人気者のルロイ様が私に夢中だなんて、こんなに気分のいいことはないわ」

(ああそう…この腹黒にとって、ルロイはみんなが欲しがる限定アクセサリーみたいなものなのね。ルロイのことを心底好きなわけじゃないんだわ。ただ人気者を侍らせていると気分がいいだけ)

少し怒りが湧いてきたとき、エリザベスがまた口を開いた。

「ねえ、何かございません?例えばセックスのときにどんなプレイが好きとか…」
「まっ…」

こんな場でそのような話題を持ち出すエリザベスに、ヴィクトリアは度肝を抜かれる。

(これが真正の肉食女子…もうしたの?まだなの?どっちよ!?)

咳ばらいをして心を落ち着け、ヴィクトリアは答える。

「いくら幼馴染とはいえ、ノーフォーク卿とそのようなお話をしたことはございませんので、お答えできかねますわ」
「あら、そうよね、ほほほ」

(本当は、仮面をつけたままいたすのと、外でするのが好きみたいだけど…言えるはずもない)

「あの…お二人はもうそういう関係に?」
「いいえ、まだですわ。もう少し焦らしてあげないといけないでしょう?」

ヴィクトリアから大した情報を得られなかったエリザベスは、彼女を小馬鹿にした目で見ながら、小声でこう言って去っていった。

「お姉様、間違っても幼馴染という立場を利用してルロイ様にちょっかいを出したりなさらないでね。もしそんなことをすれば、寄宿学校時代よりひどい目にあわせますわよ」

ヴィクトリアは曖昧に微笑みながらエリザベスの後姿を見送った。彼女は「ルロイ様ぁ」と甘い声を出してルロイの横に戻る。

(子どものころから思考回路が変わってないのね。嘆かわしいわ。ほんとにルロイったら、あんな女のどこがいいのかしら)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

You Could Be Mine ぱーとに【改訂版】

てらだりょう
恋愛
高身長・イケメン・優しくてあたしを溺愛する彼氏はなんだかんだ優しいだんなさまへ進化。 変態度も進化して一筋縄ではいかない新婚生活は甘く・・・はない! 恋人から夫婦になった尊とあたし、そして未来の家族。あたしたちを待つ未来の家族とはいったい?? You Could Be Mine【改訂版】の第2部です。 ↑後半戦になりますので前半戦からご覧いただけるとよりニヤニヤ出来るので是非どうぞ! ※ぱーといちに引き続き昔の作品のため、現在の状況にそぐわない表現などございますが、設定等そのまま使用しているためご理解の上お読みいただけますと幸いです。

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました

春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。 名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。 誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。 ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、 あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。 「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」 「……もう限界だ」 私は知らなかった。 宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて―― ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。

碧眼の小鳥は騎士団長に愛される

狭山雪菜
恋愛
アリカ・シュワルツは、この春社交界デビューを果たした18歳のシュワルツ公爵家の長女だ。 社交会デビューの時に知り合ったユルア・ムーゲル公爵令嬢のお茶会で仮面舞踏会に誘われ、参加する事に決めた。 しかし、そこで会ったのは…? 全編甘々を目指してます。 この作品は「アルファポリス」にも掲載しております。

5分前契約した没落令嬢は、辺境伯の花嫁暮らしを楽しむうちに大国の皇帝の妻になる

西野歌夏
恋愛
 ロザーラ・アリーシャ・エヴルーは、美しい顔と妖艶な体を誇る没落令嬢であった。お家の窮状は深刻だ。そこに半年前に陛下から連絡があってー  私の本当の人生は大陸を横断して、辺境の伯爵家に嫁ぐところから始まる。ただ、その前に最初の契約について語らなければならない。没落令嬢のロザーラには、秘密があった。陛下との契約の背景には、秘密の契約が存在した。やがて、ロザーラは花嫁となりながらも、大国ジークベインリードハルトの皇帝選抜に巻き込まれ、陰謀と暗号にまみれた旅路を駆け抜けることになる。

処理中です...