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9 ゆるふわ肉食エリザベス
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王太子執務室。資料を完璧に揃えて提出したルロイの様子がおかしいことにギルバートが気づく。
「ルロイ、どうかしたか?」
「なんでもない」
「意中のヴィクトリアと何かあったのか?」
「セックス以外何もないから落ち込んでる。お前に振られても、俺とは結婚しないんだとさ」
「セックス以外何もない…?随分倒錯してるな」
ギルバートは「やれやれ」と肩を竦めた後、「仕事のときはヴィクトリアのことは頭から締め出せ。次にお前に任せたい仕事はこれだから」をルロイにファイルを手渡す。
ファイルを開いたルロイは、目を見開いた。
「俺じゃなきゃいけないのか?」
「適任だから」
「はあ…貸しだぞ」
「貸しとはなんだ、これは仕事だよ」
翌週のオペラ。
ヴィクトリアはレナードとロビーで額をくっつけあって話し込んでいる。
そのレナードが、ふとルロイに気づいた。
ルロイはウェセロス公爵令嬢エリザベスと腕を組んでいる。
レナードもエリザベスの父も現国王の従弟だから、二人は近しい親戚だ。
「やあ、ルロイにリズじゃないか」
レナードの言葉で、親しげに腕を組んでいるルロイとエリザベスに気づいたヴィクトリア。
その彼女の胸に、寄宿学校での辛い思い出が蘇る。
下働きに成り下がったヴィクトリアを率先していじめていたのが、この一学年下のエリザベスだったのだ。
《掃除がなってない》
《食事が冷めている》
《服にホコリがついていた》
《絆創膏の貼り方が曲がっていた》
そんないちゃもんをつけられては、雑巾を食べさせられたり氷水を浴びせられたり…彼女から受けた仕打ちは枚挙にいとまがない。
彼女のやりようを見て、周りも「ヴィクトリアは虐めてもいいんだ」と解釈して、いじめがエスカレートしていったのだった。
ヴィクトリアと目があっても、エリザベスはまるで動じない。いじめなどまるでなかったかのように、ルロイのそばでふんわりと天使のように笑っている。
父親は国王の従弟にあたる公爵、母親も外国の王族の血を引いていて身分が高いから、伯爵家の養女ごときに何を言われても、痛くも痒くもないと思っているのだろう。
「二人がこのような場で腕を組んで仲良く過ごす間柄とは、知らなかったよ」
そう言われたルロイとエリザベスは、顔を見合わせて幸せそうに微笑む。
エリザベスのピンク色の巻毛が、彼女の動きに合わせてあざとくくるんと揺れる。
「ルロイ、君は私のヴィクトリアに熱をあげていたように見えたけど?」
「ええ、一時期。けれど今はリズが私の全てです」とルロイは照れたように言う。
(一時期、ですって?ついこの間、私に「十歳の時からずっと愛してる」なんて言ったくせに!しかも「リズ」ですって?この、見た目は完璧なゆるふわのくせして、中身はえげつないほど腹黒のいじめっ子を愛おしそうに見つめて、「リズ」ですって?ムカつくわ)
眉間にしわが寄ってくるヴィクトリアに、エリザベスが天使のような微笑みを浮かべたまま「ヴィクトリアお姉様」と話しかける。
(誰がお姉様よ。このゆるふわ腹黒)
「ちょっとあちらでお話をしたいわ」とエリザベスはヴィクトリアをロビーの端のほうへ連れていき、扇子で口を隠して話し始めた。
「ねえお姉様、ルロイ様とは幼馴染なんでしょう。彼のこと教えてくださらない?」
「ノーフォーク卿のどんなことでございましょうか?」
「好きなものとか、好きな女性のタイプとか。ルロイ様を完璧に落とすために必要な情報」
「ほほ…落とすだなんて。先ほどの様子を拝見しておりますと、もうノーフォーク卿は美しい天使のようなエリザベス様に夢中なご様子ですわ」
「それは確かにそうなんですけれど、でもルロイ様はモテるんだもの」とエリザベスはわざとらしく溜息をつく。ヴィクトリアの嫌味は意に介さない。
「もっともっと私に夢中になってもらいたいの。みんなの人気者のルロイ様が私に夢中だなんて、こんなに気分のいいことはないわ」
(ああそう…この腹黒にとって、ルロイはみんなが欲しがる限定アクセサリーみたいなものなのね。ルロイのことを心底好きなわけじゃないんだわ。ただ人気者を侍らせていると気分がいいだけ)
少し怒りが湧いてきたとき、エリザベスがまた口を開いた。
「ねえ、何かございません?例えばセックスのときにどんなプレイが好きとか…」
「まっ…」
こんな場でそのような話題を持ち出すエリザベスに、ヴィクトリアは度肝を抜かれる。
(これが真正の肉食女子…もうしたの?まだなの?どっちよ!?)
咳ばらいをして心を落ち着け、ヴィクトリアは答える。
「いくら幼馴染とはいえ、ノーフォーク卿とそのようなお話をしたことはございませんので、お答えできかねますわ」
「あら、そうよね、ほほほ」
(本当は、仮面をつけたままいたすのと、外でするのが好きみたいだけど…言えるはずもない)
「あの…お二人はもうそういう関係に?」
「いいえ、まだですわ。もう少し焦らしてあげないといけないでしょう?」
ヴィクトリアから大した情報を得られなかったエリザベスは、彼女を小馬鹿にした目で見ながら、小声でこう言って去っていった。
「お姉様、間違っても幼馴染という立場を利用してルロイ様にちょっかいを出したりなさらないでね。もしそんなことをすれば、寄宿学校時代よりひどい目にあわせますわよ」
ヴィクトリアは曖昧に微笑みながらエリザベスの後姿を見送った。彼女は「ルロイ様ぁ」と甘い声を出してルロイの横に戻る。
(子どものころから思考回路が変わってないのね。嘆かわしいわ。ほんとにルロイったら、あんな女のどこがいいのかしら)
「ルロイ、どうかしたか?」
「なんでもない」
「意中のヴィクトリアと何かあったのか?」
「セックス以外何もないから落ち込んでる。お前に振られても、俺とは結婚しないんだとさ」
「セックス以外何もない…?随分倒錯してるな」
ギルバートは「やれやれ」と肩を竦めた後、「仕事のときはヴィクトリアのことは頭から締め出せ。次にお前に任せたい仕事はこれだから」をルロイにファイルを手渡す。
ファイルを開いたルロイは、目を見開いた。
「俺じゃなきゃいけないのか?」
「適任だから」
「はあ…貸しだぞ」
「貸しとはなんだ、これは仕事だよ」
翌週のオペラ。
ヴィクトリアはレナードとロビーで額をくっつけあって話し込んでいる。
そのレナードが、ふとルロイに気づいた。
ルロイはウェセロス公爵令嬢エリザベスと腕を組んでいる。
レナードもエリザベスの父も現国王の従弟だから、二人は近しい親戚だ。
「やあ、ルロイにリズじゃないか」
レナードの言葉で、親しげに腕を組んでいるルロイとエリザベスに気づいたヴィクトリア。
その彼女の胸に、寄宿学校での辛い思い出が蘇る。
下働きに成り下がったヴィクトリアを率先していじめていたのが、この一学年下のエリザベスだったのだ。
《掃除がなってない》
《食事が冷めている》
《服にホコリがついていた》
《絆創膏の貼り方が曲がっていた》
そんないちゃもんをつけられては、雑巾を食べさせられたり氷水を浴びせられたり…彼女から受けた仕打ちは枚挙にいとまがない。
彼女のやりようを見て、周りも「ヴィクトリアは虐めてもいいんだ」と解釈して、いじめがエスカレートしていったのだった。
ヴィクトリアと目があっても、エリザベスはまるで動じない。いじめなどまるでなかったかのように、ルロイのそばでふんわりと天使のように笑っている。
父親は国王の従弟にあたる公爵、母親も外国の王族の血を引いていて身分が高いから、伯爵家の養女ごときに何を言われても、痛くも痒くもないと思っているのだろう。
「二人がこのような場で腕を組んで仲良く過ごす間柄とは、知らなかったよ」
そう言われたルロイとエリザベスは、顔を見合わせて幸せそうに微笑む。
エリザベスのピンク色の巻毛が、彼女の動きに合わせてあざとくくるんと揺れる。
「ルロイ、君は私のヴィクトリアに熱をあげていたように見えたけど?」
「ええ、一時期。けれど今はリズが私の全てです」とルロイは照れたように言う。
(一時期、ですって?ついこの間、私に「十歳の時からずっと愛してる」なんて言ったくせに!しかも「リズ」ですって?この、見た目は完璧なゆるふわのくせして、中身はえげつないほど腹黒のいじめっ子を愛おしそうに見つめて、「リズ」ですって?ムカつくわ)
眉間にしわが寄ってくるヴィクトリアに、エリザベスが天使のような微笑みを浮かべたまま「ヴィクトリアお姉様」と話しかける。
(誰がお姉様よ。このゆるふわ腹黒)
「ちょっとあちらでお話をしたいわ」とエリザベスはヴィクトリアをロビーの端のほうへ連れていき、扇子で口を隠して話し始めた。
「ねえお姉様、ルロイ様とは幼馴染なんでしょう。彼のこと教えてくださらない?」
「ノーフォーク卿のどんなことでございましょうか?」
「好きなものとか、好きな女性のタイプとか。ルロイ様を完璧に落とすために必要な情報」
「ほほ…落とすだなんて。先ほどの様子を拝見しておりますと、もうノーフォーク卿は美しい天使のようなエリザベス様に夢中なご様子ですわ」
「それは確かにそうなんですけれど、でもルロイ様はモテるんだもの」とエリザベスはわざとらしく溜息をつく。ヴィクトリアの嫌味は意に介さない。
「もっともっと私に夢中になってもらいたいの。みんなの人気者のルロイ様が私に夢中だなんて、こんなに気分のいいことはないわ」
(ああそう…この腹黒にとって、ルロイはみんなが欲しがる限定アクセサリーみたいなものなのね。ルロイのことを心底好きなわけじゃないんだわ。ただ人気者を侍らせていると気分がいいだけ)
少し怒りが湧いてきたとき、エリザベスがまた口を開いた。
「ねえ、何かございません?例えばセックスのときにどんなプレイが好きとか…」
「まっ…」
こんな場でそのような話題を持ち出すエリザベスに、ヴィクトリアは度肝を抜かれる。
(これが真正の肉食女子…もうしたの?まだなの?どっちよ!?)
咳ばらいをして心を落ち着け、ヴィクトリアは答える。
「いくら幼馴染とはいえ、ノーフォーク卿とそのようなお話をしたことはございませんので、お答えできかねますわ」
「あら、そうよね、ほほほ」
(本当は、仮面をつけたままいたすのと、外でするのが好きみたいだけど…言えるはずもない)
「あの…お二人はもうそういう関係に?」
「いいえ、まだですわ。もう少し焦らしてあげないといけないでしょう?」
ヴィクトリアから大した情報を得られなかったエリザベスは、彼女を小馬鹿にした目で見ながら、小声でこう言って去っていった。
「お姉様、間違っても幼馴染という立場を利用してルロイ様にちょっかいを出したりなさらないでね。もしそんなことをすれば、寄宿学校時代よりひどい目にあわせますわよ」
ヴィクトリアは曖昧に微笑みながらエリザベスの後姿を見送った。彼女は「ルロイ様ぁ」と甘い声を出してルロイの横に戻る。
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