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10 昔からずっと大嫌い
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ルロイとエリザベスの熱愛ぶりは、すぐに王都中の貴族たちの話題の中心になった。
留学帰りの人気者と、身分が高く天使のように可愛らしいお嬢様の恋なのだから当然だ。
ルロイはどうしたことか、仕事を抜け出して、公爵邸のエリザベスに会いに行ったりもしているらしい。
王宮の中でも外でも、所かまわず二人はイチャイチャしている。頬を寄せ合ったり、見つめあったり、耳に何か囁きあったりして、甘い空気を周りに振りまく。
(それは別にいいんだけどね!でも胸糞が悪い。そろそろ腹黒に気づきなさいよ、ルロイのバカ。バカバカバカ。あのバカップル!二人とも雷に打たれて死んでしまえ!)
昨日など、王宮で二人とすれ違ったのに、二人はお互いに夢中でヴィクトリアに気づきもしなかった。
いや、正確にはエリザベスはヴィクトリアをちらりと見たのだが、ニヤリと笑って無視をした。
すれ違いざまにルロイがエリザベスに「心から愛してる」と囁いているのが聞こえてしまって、「気にしない」「自分には関係ない」と考えようとしても、心の中で何回もリピート再生されてしまう。
(エリザベスのこと、本気なんだわ。私のことは本当にもうどうでもいいのね…いやいや、自分でルロイのことを振っておいて、こんなことを考えて落ち込んでいる私がおかしいわ。考えないようにしなければ)
それでも、この狭い貴族の世界での話題は、いま、ルロイとエリザベスのことでもちきりだ。どこにいても耳に入ってくる。
今日も王宮でのお茶会に招かれ、ルロイとエリザベスの噂話や、ギルバートが愛しているという異国の平民について散々聞かされ、ヴィクトリアは心がヘロヘロになりながら廊下を歩く。
そのとき、ガチャンという大きな音が聞こえた。廊下に面したドアの向こうからだ。
誰か倒れているのかもしれないと心配になったヴィクトリアは、そっとドアの隙間から中を覗いて、そして、動けなくなった。
中にいたのは、ルロイとエリザベス。二人はキスしている。キスした拍子に、棚の上に置いていた花瓶が落ちたようだ。
「ルロイ様、好きよ。ルロイ様も私のこと好きなら…ね、最後までしても構いませんわ」
「リズ…」
(ここで?セックスするの?今から?ルロイとエリザベスが?ああ、早く離れなくちゃ)
心に鈍い痛みを感じながらそう思ったとき、「それはいけない。君のことを大切にしたいから」というルロイの言葉が聞こえて、ヴィクトリアの胸が強くズキリと痛んだ。
そして、全身の血が足の爪先から抜けていくような感覚。
(じゃあ、私のことは大切じゃなかったということ?大切じゃないから、あんなことができたのね。何回も何回も、あんなに激しく…ただ欲望のためだけにあんなことしたんだわ。愛してるなんて言って、私を騙して…私がばかみたいに騙されて…)
目を離せないまま、それでもそっと後ずさりしてその場を離れようとしたとき、ルロイと目があってしまった。
見開かれた緑の目が、苦しそうに細められる。
それでもルロイはエリザベスへのキスを止めない。エリザベスの腰をしっかり抱きながら、唇を貪っている。エリザベスは甘い吐息を漏らしている。
ヴィクトリアは目を逸らして、零れてくる涙を拭きながらその場を去った。
(ルロイの嘘つき。私のことなんて全然愛してなかったんじゃない。私あの言葉を信じて…嬉しいって思ったのに。最低、最低よ)
「私はルロイのことなんか好きじゃない、断じて好きじゃない」と何度も呟きながら、ヴィクトリアは屋敷に帰り着いた。
その夜、ダービートン伯爵邸にルロイがヴィクトリアを訪ねてきた。けれどヴィクトリアが彼に会うはずがない。
「お嬢様…」
「追い返して」
「けれどお嬢様…」
「追い返して!絶対に会いたくないの!」
ヴィクトリアが泣いているのを見て、アビゲイルは頷いた。
「かしこまりました」
ルロイが父に別れの挨拶をしているような声が聞こえて、玄関のドアが開閉する音も聞こえた。ヴィクトリアはほんの少しだけ窓の外を覗く。こちらを悲しそうに見つめているルロイと目が合って、すぐに逸らす。
そこへアビゲイルが手紙を持って入ってきた。
「ルロイ様からです」
開けてみると「本当に愛してる、嘘じゃない」とだけ書かれていた。
「暖炉で燃やしてちょうだい」
「お嬢様…!」
「燃やして。もう見たくないわ」
「かしこまりました」
アビゲイルが部屋を出た後、ヴィクトリアは飾り棚に置かれている手作りの馬車を手に取る。
(これも燃やすべきよね)
そう思いながらも決心がつかず、彼女はいつまでも馬車を眺めていた。
「本当は嬉しかったの、これも」
(だけど彼は本気じゃなかった。ただの遊びだった)
どれほど時間がたったか、ふと窓の外を覗くと、寒い中、まだルロイが外にいる。
「何なのよ!ルロイなんて大っ嫌い!昔からずっと大嫌いなんだから!」
ヴィクトリアはバタンと窓を開けて、思い切り馬車を投げ落とした。ガチャリと馬車が地面に落ちて壊れる音がした。
留学帰りの人気者と、身分が高く天使のように可愛らしいお嬢様の恋なのだから当然だ。
ルロイはどうしたことか、仕事を抜け出して、公爵邸のエリザベスに会いに行ったりもしているらしい。
王宮の中でも外でも、所かまわず二人はイチャイチャしている。頬を寄せ合ったり、見つめあったり、耳に何か囁きあったりして、甘い空気を周りに振りまく。
(それは別にいいんだけどね!でも胸糞が悪い。そろそろ腹黒に気づきなさいよ、ルロイのバカ。バカバカバカ。あのバカップル!二人とも雷に打たれて死んでしまえ!)
昨日など、王宮で二人とすれ違ったのに、二人はお互いに夢中でヴィクトリアに気づきもしなかった。
いや、正確にはエリザベスはヴィクトリアをちらりと見たのだが、ニヤリと笑って無視をした。
すれ違いざまにルロイがエリザベスに「心から愛してる」と囁いているのが聞こえてしまって、「気にしない」「自分には関係ない」と考えようとしても、心の中で何回もリピート再生されてしまう。
(エリザベスのこと、本気なんだわ。私のことは本当にもうどうでもいいのね…いやいや、自分でルロイのことを振っておいて、こんなことを考えて落ち込んでいる私がおかしいわ。考えないようにしなければ)
それでも、この狭い貴族の世界での話題は、いま、ルロイとエリザベスのことでもちきりだ。どこにいても耳に入ってくる。
今日も王宮でのお茶会に招かれ、ルロイとエリザベスの噂話や、ギルバートが愛しているという異国の平民について散々聞かされ、ヴィクトリアは心がヘロヘロになりながら廊下を歩く。
そのとき、ガチャンという大きな音が聞こえた。廊下に面したドアの向こうからだ。
誰か倒れているのかもしれないと心配になったヴィクトリアは、そっとドアの隙間から中を覗いて、そして、動けなくなった。
中にいたのは、ルロイとエリザベス。二人はキスしている。キスした拍子に、棚の上に置いていた花瓶が落ちたようだ。
「ルロイ様、好きよ。ルロイ様も私のこと好きなら…ね、最後までしても構いませんわ」
「リズ…」
(ここで?セックスするの?今から?ルロイとエリザベスが?ああ、早く離れなくちゃ)
心に鈍い痛みを感じながらそう思ったとき、「それはいけない。君のことを大切にしたいから」というルロイの言葉が聞こえて、ヴィクトリアの胸が強くズキリと痛んだ。
そして、全身の血が足の爪先から抜けていくような感覚。
(じゃあ、私のことは大切じゃなかったということ?大切じゃないから、あんなことができたのね。何回も何回も、あんなに激しく…ただ欲望のためだけにあんなことしたんだわ。愛してるなんて言って、私を騙して…私がばかみたいに騙されて…)
目を離せないまま、それでもそっと後ずさりしてその場を離れようとしたとき、ルロイと目があってしまった。
見開かれた緑の目が、苦しそうに細められる。
それでもルロイはエリザベスへのキスを止めない。エリザベスの腰をしっかり抱きながら、唇を貪っている。エリザベスは甘い吐息を漏らしている。
ヴィクトリアは目を逸らして、零れてくる涙を拭きながらその場を去った。
(ルロイの嘘つき。私のことなんて全然愛してなかったんじゃない。私あの言葉を信じて…嬉しいって思ったのに。最低、最低よ)
「私はルロイのことなんか好きじゃない、断じて好きじゃない」と何度も呟きながら、ヴィクトリアは屋敷に帰り着いた。
その夜、ダービートン伯爵邸にルロイがヴィクトリアを訪ねてきた。けれどヴィクトリアが彼に会うはずがない。
「お嬢様…」
「追い返して」
「けれどお嬢様…」
「追い返して!絶対に会いたくないの!」
ヴィクトリアが泣いているのを見て、アビゲイルは頷いた。
「かしこまりました」
ルロイが父に別れの挨拶をしているような声が聞こえて、玄関のドアが開閉する音も聞こえた。ヴィクトリアはほんの少しだけ窓の外を覗く。こちらを悲しそうに見つめているルロイと目が合って、すぐに逸らす。
そこへアビゲイルが手紙を持って入ってきた。
「ルロイ様からです」
開けてみると「本当に愛してる、嘘じゃない」とだけ書かれていた。
「暖炉で燃やしてちょうだい」
「お嬢様…!」
「燃やして。もう見たくないわ」
「かしこまりました」
アビゲイルが部屋を出た後、ヴィクトリアは飾り棚に置かれている手作りの馬車を手に取る。
(これも燃やすべきよね)
そう思いながらも決心がつかず、彼女はいつまでも馬車を眺めていた。
「本当は嬉しかったの、これも」
(だけど彼は本気じゃなかった。ただの遊びだった)
どれほど時間がたったか、ふと窓の外を覗くと、寒い中、まだルロイが外にいる。
「何なのよ!ルロイなんて大っ嫌い!昔からずっと大嫌いなんだから!」
ヴィクトリアはバタンと窓を開けて、思い切り馬車を投げ落とした。ガチャリと馬車が地面に落ちて壊れる音がした。
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