私、貧乏貴族となんて結婚しないから!

こじまき

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11 最上の一手

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王宮で開催される王女の誕生パーティーの支度をするヴィクトリアに、アビゲイルとユリアは話しかけない。

濃い紫のドレスを身につけたヴィクトリアは、眉間に皺を寄せながら考えにふけっているからだ。

(冷静に考えて、私。殿下との結婚の望みは絶たれてる。残っている高位の貴族たちの中で、最上の一手は誰?やっぱりレナード様だわ。国王陛下の従弟で、公爵で、お金持ちで、私の欲しいものは何でも買ってくれて、亡くなった前の奥様との間に子どもはいない。彼との間に子どもさえ産めば、安定した何不自由ない結婚生活になるわ)

彼はヴィクトリアのノートの中でも「Aクラス」なのだ。

浮かんできたルロイとエリザベスの顔を振り払って、ヴィクトリアはアビゲイルとユリアに指示する。

「ドレスと宝石を変えるわ。レナード様にいただいたパールを用意して。ドレスはレナード様好みの淡い色のものにするわ」
「かしこまりました」
「パールをつけているところをレナード様に見ていただくの」
「では、お嬢様…」
「ええ、決めたの」

ヴィクトリアはそういって微笑んだ。

けれど、いつも嬉々として社交の場に出る身支度していた主人の表情にどことなく影があるのを見取って、アビゲイルとユリアは顔を見合わせる。

「お嬢様。あの…差し出がましいようですがルロイ様のことは…」
「彼はエリザベス様に夢中だもの。そもそも私だって…そうよ私だって、彼と結婚する気なんて全然ないし。本当に…全然ないの」

ふっと息を吐いて笑顔を浮かべて「レナード様の記憶に残したいから、できるだけ綺麗にしてね」というヴィクトリアに、二人は頷く。

薄いグレーのチュールを重ねたドレスに、パールのアクセサリーをつけたヴィクトリアはとても美しい。

少し憂鬱そうな表情すら、色気になる。

ヴィクトリアを送り出した二人は、またそっと顔を見合わせた。

「お嬢様、あんまり嬉しそうじゃなかったわね」
「レナード様は本命じゃなかったから?」
「それだけじゃない気がするわ」
「というと?」
「口ではああ言ってたけど、ルロイ様のことやっぱり好きなのよ」
「まさか!あのお嬢様よ。スペック以外で男性を見ることなんてない方が、借金まみれのルロイ様を好きになって、そのことで悩んでるなんて」
「恋って思わぬところからやってくるものでしょ」
「そうだけど…でもお嬢様よ」
「それもそうだけどね」

しばらくして、ユリアがいった。

「ねえ、お嬢様がレナード様と結婚して屋敷を出られたら、寂しくなるわね。散々笑わせていただいたし。それに、お嬢様の生き様は風変りだし賛否両論あるだろうけれど、私どこか尊敬していたの。一心に目標に向かう情熱を」

「そうね」とアビゲイルも呟き、二人は声を揃えて「お嬢様が幸せになれますように」と願った。

ヴィクトリアが会場に到着すると、レナードが寄ってきた。「ヴィクトリア、綺麗だ」と頬にキスする。

「そのパール、とても似合っているよ。プレゼントした甲斐があった」
「ありがとうございます、レナード様。とても気に入っておりますわ」

そして、レナードに真正面から向き直って、最上級の美しい笑顔を浮かべて。

「生涯大切にするつもりですわ」

レナードの顔がパッと輝く。

「ああ、ヴィクトリア…それは、そういう意味と思っていいのかな?」

真剣に目を覗き込んでくるレナードに、ヴィクトリアは微笑んで頷く。

レナードはゆっくりと跪いて、彼女の手にキスをした。

周りには人がいる。彼らの注目が、ヴィクトリアとレナードの二人に集まっている。

「レナード様、主役は王女様ですわ」
「いいんだ、慎み深きヴィクトリア。ダービートン伯爵令嬢ヴィクトリア、私と結婚してください」

一瞬の間があり、ヴィクトリアが覚悟を決めて「ええ、喜んで。レナード様」と答える。

拍手と「おめでとうございます」という歓声が巻き起こる。レナードはヴィクトリアを抱きしめてキスをした。

一時間でもキスしていたかと感じられるくらい長く思えたキスがやっと終わったのに、またレナードにキスされそうになって、ヴィクトリアは思わず顔をそむけてしまった。

(しまった!ここは拒否するところじゃなかった)

「レナード様、恥ずかしいですわ。皆様見ておられますのに。それに、先ほども言いました通り今日の主役は王女様ですのよ」と笑顔で取り繕う。

「そうだね、嬉しくて。すまなかった」
「いいのです。私もプロポーズしていただいてとても嬉しかったですわ」

「祝福してくれたみんなに礼を」と囁かれて、レナードと手を繋いで芝居がかったお辞儀をする。

極上の営業スマイルで会場を見回すと、ルロイと目があった。

(なんて顔してるのよ。あなたには大切な大切なゆるふわエリザベスがいるでしょう。どうぞお幸せにね。私は私で幸せになるわ)

あっという間にレナードとヴィクトリアは彼らを祝福する貴族たちに取り囲まれ、ヴィクトリアは勧められるまま、フラフラになるまで酒を飲んだ。

帰ろうと馬車を待っている間も、ヴィクトリアはひとりでは立っていられない。

レナードがヴィクトリアを支えながら「こんなに酒に弱いとは」と心配そうに声をかけている。

そこへダービートン伯爵家の御者が「新しい馬車に慣れていなくて、縁石にぶつけて壊してしまった」と青い顔をしてやってきた。

「では私の馬車で送ろう」とレナードが御者に返事をしたところで、ルロイが「それには及びません、ランプレヒト公爵」と声をかけた。

「屋敷が隣ですので、私が送ります。ちょうど私も帰るところですし、公爵がわざわざ王宮から出られて、また戻ってこられるのはお手間でしょう」

国王の従弟であるレナードは、王宮の敷地内に屋敷を与えられているのだ。

「それくらい手間でもないが」

引かないレナードに、「それにほら」とルロイは会場を指差す。

「皆様、公爵がどうやってこの若くて美しい才色兼備のご令嬢を手に入れたのか、聞きたくて仕方がないようですよ」と微笑む。そう言われると、レナードはまんざらではない。

ヴィクトリアのためにどれだけ高価なプレゼントを贈り、どれだけの労力をかけたか自慢したくなる。

「お前たちには、ここまでできないだろう」と。

「そうだな…では頼むぞ、ノーフォーク卿」
「ええ、承知いたしました」

ルロイはヴィクトリアを馬車に乗せ、ベンチの上に彼女の身体を横たえ、頭を自分の膝の上に乗せてやる。ヴィクトリアはむにゃむにゃ言いながら、すぐに寝息を立て始めた。

「傷ついた狼の膝の上で寝てるんだぞ、リア。無防備だな」

ルロイはそっと彼女の手を取ってキスをした。
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