死に戻りの世間知らず王妃は、断罪を回避するために全力でやり直します!

こじまき

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8 お姉ちゃん、また来てくれる?

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孤児院のホールにある古い古いピアノの前に座ると、子どもたちの視線が一斉に集まった。

息を呑むような静けさ。

まるで、ここに音が戻る瞬間を待っているかのよう。

内務大臣は冷や汗を垂らしながら、こちらを凝視している。

「王妃様、一体何をなさるおつもりですか!?」という心の叫びが聞こえてきそうだわ。

「じゃあ今から『アズミアの星』という曲を弾くわね。この曲を知っている人はいる?」

この国では広く知られている曲だ。おずおずと数人の子どもたちが手を挙げた。

「いいわね!じゃあピアノに合わせて歌ってみてね。私も歌うから。せーのっ」

ピアノを弾くのは久しぶりだが、簡単なこの曲くらいなら間違わずに弾けるだろう。

曲を知っていると手を挙げた子も、歌うのは恥ずかしいようで、全く子どもの声は聞こえない。ホールに響くのは、ピアノの音と、決してうまいとは言えない自分の歌声だけだ。

うーん、喜んでもらえると思ったのに、ダメかしら…

そう思いながらもう一度子どもたちのほうを見ると、どうだろう。

みんな少し口を開け、こちらを真剣に見ている。目にも心なしか、生気が宿ったみたい。

曲が終わり、「もう一度聞きたい人は、拍手するのよ」というと、みんな拍手してくれた。少し気持ちがほぐれてきたのかもしれない。

それから何度も何度も弾き、みんなが曲も歌詞も覚えて大合唱ができるようになったころ、子どものひとりが叫んだ。

「お姉ちゃん、ほかの曲も弾いてよ!」

内務大臣は「あの王妃様にお姉ちゃんだなんて失礼な…」とアワアワしている。でも、わたしは怒る気にならない。

子どもが無邪気に「お姉ちゃん」と呼び掛けてくれたことが、何故かとてもうれしい。

「じゃあ次は何にしましょう。好きな曲がある子は教えてちょうだいな」

そのあとも、「次の曲、次の曲」とリクエストがあり、気が付くと視察の終了予定時間はとっくに過ぎていた。

「ちょっとしたコンサートになってしまったわね」と腱鞘炎になりそうな手首をさすりながら子どもたちを見ると、目がキラキラしている。

内務大臣は落ち着きを取り戻し、院長やスタッフのみんなはハンカチで目を押さえている。

「もう私は帰らないといけないわ」
「えーーーー!もっと弾いてよ!」
「すごく楽しかった!」
「お姉ちゃん、また来てくれる?」
「ええ、きっとまた来るわね」

帰りの馬車の中で、内務大臣が汗をふきふき言った。

「王妃様…心臓が止まるかと思いました」
「予定にないことをしてごめんなさい。でも子どもたちが楽しんでくれて何よりだわ」
「はい。王妃様も、楽しそうでいらっしゃいました」
「そうね、自分でも意外だったけど。楽しかったわ。あ、私の宮廷費を削った分、あの孤児院の運営資金としていくらか回せるかしら」
「もちろんです」

あの孤児院に音楽が響いた。ささやかだけど、ここから始まるかもしれない。
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