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早く領地送りにしてくださいっ!
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「アイリス風」が止まらない。子ども服まで「プチ・アイリス」とかいう名前で売られていると聞いた。
王妃様は頻繁に私をお茶会に呼んでは私の胃をきりきりさせ、夫婦でイベントに招待されることも増え、フィリップ様は私のドレスに追加の予算を出してくる。
領地に送られそうな雰囲気はまったくなくて、胃が三重に折れ曲がりそうだ。
ここはもう一段階、壊れたふりをしなくてはならない。誰がどう見ても「もうダメだこの人」レベルの行動をすれば、さすがにフィリップ様も「領地送りにしよう」と思ってくれるだろう。
だから私は「おもちゃの剣」をつくった。ふにゃふにゃではないが身体に当たっても痛くない素材でできていて、先端が身体や壁にあたると引っ込む。もうこれしかない。
その日、王都広場で行われた慈善市には、国王ご夫妻もお出ましだった。貴族たちは皆、寄付金や不用品を持ち寄り、笑顔で社交を繰り広げている。
私はドラゴンを模した、腕や裾に牙がついたドレスを着ている。何かに目覚めてしまったマダム・マレーが「ぜひ私のミューズであるアイリス様に着ていただきたい」と持ってきたドレス。鱗が貝で牙が獣骨だから、重くてしんどい。心もしんどい。だがおもちゃの剣を下げていても違和感はない。
今日、ここで、やるしかない。
私は大きく息を吸い、少し離れたところで国王陛下や宰相様と話をしているフィリップ様に向かって走る。彼が何より大切にしている人脈。その人脈の前で恥をかくがいい。「彼より恥をかいているのは、自分ではないのか」という疑問は、とっくの昔に捨てている。
「フィリップ様あああああっ!御覚悟っ!!」
「アイリス!?」
私は全力でフィリップ様に突進し、おもちゃの剣を構える。
「私をおおおおおおっ!早く領地送りにしてくださいっ!」
パシッ。
剣の先が、彼の胸元を軽く叩く。もちろん痛くもなんともない。だが、完全に油断していたフィリップ様は盛大にひっくり返って頭を打った。
王都広場に響き渡る悲鳴と歓声。
「痛っ…!!アイリス、一体何の真似だ!陛下の御前で何を…!」
その瞬間。
「はっはっはっは!!!」
朗々とした笑い声が響いた。国王陛下がお腹を抱えて笑っていらっしゃる。
「傑作だ!これこそ真の余興というものだ!何とも夫婦の息がぴったりじゃないか!ああ、おかしい…」
国王陛下はいかにもおかしそうに笑ったあと、涙を拭きながらこうおっしゃる。
「いやフィリップ、君はいい奥方をもったものだなぁ」
私はフィリップ様の上に乗ったまま、フィリップ様は私に乗られたまま、目を見合わす。
「…光栄でございます、陛下」
「いやぁ、見事見事。ハミルトン男爵夫妻には、次の晩餐会でも何か披露してもらおう」
違う。違うんです陛下。今のは壊れたふりなんです。壊れてるんです、私。けれど、誰も信じてくれない。王妃陛下まで楽しげに拍手を送っている。
帰りの馬車の中。気まずい沈黙。
「旦那様、頭は大丈夫ですか」
「頭が大丈夫じゃないのはアイリスだろう」
それは確かにそう。私はため息をついた。
王妃様は頻繁に私をお茶会に呼んでは私の胃をきりきりさせ、夫婦でイベントに招待されることも増え、フィリップ様は私のドレスに追加の予算を出してくる。
領地に送られそうな雰囲気はまったくなくて、胃が三重に折れ曲がりそうだ。
ここはもう一段階、壊れたふりをしなくてはならない。誰がどう見ても「もうダメだこの人」レベルの行動をすれば、さすがにフィリップ様も「領地送りにしよう」と思ってくれるだろう。
だから私は「おもちゃの剣」をつくった。ふにゃふにゃではないが身体に当たっても痛くない素材でできていて、先端が身体や壁にあたると引っ込む。もうこれしかない。
その日、王都広場で行われた慈善市には、国王ご夫妻もお出ましだった。貴族たちは皆、寄付金や不用品を持ち寄り、笑顔で社交を繰り広げている。
私はドラゴンを模した、腕や裾に牙がついたドレスを着ている。何かに目覚めてしまったマダム・マレーが「ぜひ私のミューズであるアイリス様に着ていただきたい」と持ってきたドレス。鱗が貝で牙が獣骨だから、重くてしんどい。心もしんどい。だがおもちゃの剣を下げていても違和感はない。
今日、ここで、やるしかない。
私は大きく息を吸い、少し離れたところで国王陛下や宰相様と話をしているフィリップ様に向かって走る。彼が何より大切にしている人脈。その人脈の前で恥をかくがいい。「彼より恥をかいているのは、自分ではないのか」という疑問は、とっくの昔に捨てている。
「フィリップ様あああああっ!御覚悟っ!!」
「アイリス!?」
私は全力でフィリップ様に突進し、おもちゃの剣を構える。
「私をおおおおおおっ!早く領地送りにしてくださいっ!」
パシッ。
剣の先が、彼の胸元を軽く叩く。もちろん痛くもなんともない。だが、完全に油断していたフィリップ様は盛大にひっくり返って頭を打った。
王都広場に響き渡る悲鳴と歓声。
「痛っ…!!アイリス、一体何の真似だ!陛下の御前で何を…!」
その瞬間。
「はっはっはっは!!!」
朗々とした笑い声が響いた。国王陛下がお腹を抱えて笑っていらっしゃる。
「傑作だ!これこそ真の余興というものだ!何とも夫婦の息がぴったりじゃないか!ああ、おかしい…」
国王陛下はいかにもおかしそうに笑ったあと、涙を拭きながらこうおっしゃる。
「いやフィリップ、君はいい奥方をもったものだなぁ」
私はフィリップ様の上に乗ったまま、フィリップ様は私に乗られたまま、目を見合わす。
「…光栄でございます、陛下」
「いやぁ、見事見事。ハミルトン男爵夫妻には、次の晩餐会でも何か披露してもらおう」
違う。違うんです陛下。今のは壊れたふりなんです。壊れてるんです、私。けれど、誰も信じてくれない。王妃陛下まで楽しげに拍手を送っている。
帰りの馬車の中。気まずい沈黙。
「旦那様、頭は大丈夫ですか」
「頭が大丈夫じゃないのはアイリスだろう」
それは確かにそう。私はため息をついた。
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