夫ガチャが失敗だったので壊れたふりをしたら、私フィーバーが勃発しました

こじまき

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愛人の正論

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王妃陛下主催のお茶会から数日後。私は相変わらず「時代の寵児」と呼ばれていた。

壊れたふりで生き延びるつもりが、最先端になってしまった。

何をどう間違えたのか、王都では「アイリス風」「アイリスっぽい」というファッションジャンルまで生まれているらしい。流行とは本当に恐ろしい。

男爵家のタウンハウスにいるときの私は、二言目には「シンクレア伯爵家とは」が口癖だった父に育てられた娘らしく、これ以上ないほどコンサバだというのに。

「今日はまともな格好ですのね」

そう冷たく声をかけてきたのは、夫の愛人・キンバリー。完璧に整えられた黒い巻き髪に、上質なドレス、大きな宝石。これぞ貴婦人。

彼女は「フィリップ様と一緒にオペラを見てきた」と自慢する。「あなたは彼からオペラに誘ってもらったこともないでしょう」と言いたいのだろう。それは確かにその通りだけど、私は彼とオペラを見ている場合ではない。

領地送りにされたいのにあらぬ方向に事態が動いてしまっているし、そのせいで着たくもない奇抜なファッションを考えるのに忙しくなっているのだから。

「それはよかったわね。おもしろかったのかしら」

キンバリーは大げさにため息をつく。

「格式高いオペラ座のロビーが、どこもかしこも極彩色か果物の”アイリス風”ばかりでしたの。どうしてあんなに馬鹿げた服装が流行っているのかわかりませんわ」

唇の端を引きつらせながら笑う彼女の目は、笑っていない。

顔は怖いけど、ご意見には完全に同意。完全に同意である。

「見ているだけで頭が痛くなってしまいますわ」
「ええ、私もそう思うわ」

素直に同意したら、キンバリーのまつげが一瞬止まった。

「そう思われますの?アイリス風の本人なのに?」
「もちろんよ。毎朝起きたときに、夢だったらいいのにと思っているわ。本当に毎朝。まるで悪夢のようだわ」

同意したのに、キンバリーの顔色はますます険しくなる。私がもっと反論してくると期待していたのだろう。何も言い返さない相手というのは、喧嘩をふっかけたい側の人間にとっては、何よりも腹立たしい存在だから。

キンバリーは唇を噛んで、ヒールを鳴らして立ち去った。彼女の扉が閉まる音が、妙に廊下に響いた。

いつの間にかうしろにいたローレンスが「オペラ座に行きたいですか?」と無表情で聞いてきた。

「行きたいならば私が…」
「気を遣ってくれなくても大丈夫よ、ローレンス」
「いや、私は…」
「大丈夫だから」

就寝前、メイドが「オペラ座でキンバリー様が旦那様に奥様の悪口を言ったら、旦那様がお叱りになったそうです」と得意げに教えてくれた。フィリップ様にとって「王妃様のお気に入り」である私の重要度が増したということなのだろう。

しかし、ということは、領地送りが遠のいてしまったということでもある。何か考えないといけない。
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