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これはコンセプトじゃないから!
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私の雄たけびを思い出したのだろう、フィリップ様は馬車の中で聞いてくれた。
「領地送りにされたいのか」
来た。ついに来た。
「…!はいっ!お願いします!!」
しかしフィリップ様は首を振った。
「だめだ」
天国から地獄に突き落とされた気分。
「どうしてですか。こんな妻ですよ?」
「国王陛下と王妃様がアイリスを気に入っているからだ。なぜかわからないが。だから私の近くにいてもらわないと困る」
「そんな…!もう諮問機関には入れたのですから、あとは自分の力でどうにかしてください!愛人が女主人をしている屋敷で過ごすなんて、いつか気が狂いそうで嫌なんです!」
「…そうか」
するとフィリップ様は私を追い出すのではなくて、あっさりとキンバリーを追い出すことに決めた。愛より実をとったのだ。
フィリップ様は「キンバリーはいなくなるから、憂いなくここにいればいい」と言う。でも本当にいいのかな、これで。
キンバリーが出て行っても、私とフィリップ様は愛し合うことは、もうない。結婚初日から愛人に正妻を迎えさせる人がまともだとは思えないし、好きになんてなれない。まともじゃないというなら私だってもはやまともじゃないし、フィリップ様も同じ気持ちだろう。
愛のない結婚を続けるなら、私はやっぱり、お母様と同じ道を辿るのではないだろうか。
けれどタウンハウスで暮らすことを決めて領地送りを諦めるなら、もう産みの苦しみに耐えて奇抜な格好をする必要はない。だから私はすべてを説明して謝るつもりで、普通の、まったく普通のオーソドックスでコンサバなドレスを着て、王妃様のお茶会に向かう。
「そろそろ着くわね」
「そうですね」とローレンスが答えてくれて、私はふっと息を吐く。怒られるかも。失望されるかも。軽蔑されるかも。でも自分らしくもない格好を続けるのも苦痛だから。
今日、言うのだ。
私が決意を新たにし、王宮の馬車寄せに馬車が止まる瞬間、ローレンスが「奥様、何か変です」と私を抱き寄せた。
「え、何…」
次の瞬間、何故か馬車が派手に壊れた。
「きゃあああっ!!!」
馬車の床が抜け、衝撃で私はローレンスと一緒に転げ落ち、ドレスは泥まみれで破け、髪はボサボサ。
「奥様っ!奥様、大丈夫ですかっ!?」
ローレンスが抱きかかえてくれる。ああ、この人の腕って、こんなに力強かったんだ。怖かった。心底怖かった。だけど安心して泣きたくなる。でも、なんでこんなことに。
けれど、馬車寄せにいた人々の反応は、まったく予想外のものだった。
「さすがアイリス様!なんて革新的な登場かしら!」
「野生のエレガンスね!素敵!」
ローレンスに抱えられて呆然とする私の目の前で、王妃様までが優雅に手を叩いておられる。
「なんという迫力。砂とボロ布でさえ貴婦人の衣装にしてしまうなんて、あなたはやはり天才だわ、アイリス」
いや、普通に事故です。馬車が止まった瞬間に急に壊れるとかありえないけど、コンセプトじゃなく事故なんです、王妃様。
その日を境に、わざと服や紙を破いたり汚したりする「ダメージファッション」が爆発的に流行したのは言うまでもない。
ファッション誌の見出しには『新時代の美学:アイリス、壊れた美の革命』という文字が躍る。もう壊れなくてもよくなったのに、どうしても私は壊れていないといけないらしい。
「領地送りにされたいのか」
来た。ついに来た。
「…!はいっ!お願いします!!」
しかしフィリップ様は首を振った。
「だめだ」
天国から地獄に突き落とされた気分。
「どうしてですか。こんな妻ですよ?」
「国王陛下と王妃様がアイリスを気に入っているからだ。なぜかわからないが。だから私の近くにいてもらわないと困る」
「そんな…!もう諮問機関には入れたのですから、あとは自分の力でどうにかしてください!愛人が女主人をしている屋敷で過ごすなんて、いつか気が狂いそうで嫌なんです!」
「…そうか」
するとフィリップ様は私を追い出すのではなくて、あっさりとキンバリーを追い出すことに決めた。愛より実をとったのだ。
フィリップ様は「キンバリーはいなくなるから、憂いなくここにいればいい」と言う。でも本当にいいのかな、これで。
キンバリーが出て行っても、私とフィリップ様は愛し合うことは、もうない。結婚初日から愛人に正妻を迎えさせる人がまともだとは思えないし、好きになんてなれない。まともじゃないというなら私だってもはやまともじゃないし、フィリップ様も同じ気持ちだろう。
愛のない結婚を続けるなら、私はやっぱり、お母様と同じ道を辿るのではないだろうか。
けれどタウンハウスで暮らすことを決めて領地送りを諦めるなら、もう産みの苦しみに耐えて奇抜な格好をする必要はない。だから私はすべてを説明して謝るつもりで、普通の、まったく普通のオーソドックスでコンサバなドレスを着て、王妃様のお茶会に向かう。
「そろそろ着くわね」
「そうですね」とローレンスが答えてくれて、私はふっと息を吐く。怒られるかも。失望されるかも。軽蔑されるかも。でも自分らしくもない格好を続けるのも苦痛だから。
今日、言うのだ。
私が決意を新たにし、王宮の馬車寄せに馬車が止まる瞬間、ローレンスが「奥様、何か変です」と私を抱き寄せた。
「え、何…」
次の瞬間、何故か馬車が派手に壊れた。
「きゃあああっ!!!」
馬車の床が抜け、衝撃で私はローレンスと一緒に転げ落ち、ドレスは泥まみれで破け、髪はボサボサ。
「奥様っ!奥様、大丈夫ですかっ!?」
ローレンスが抱きかかえてくれる。ああ、この人の腕って、こんなに力強かったんだ。怖かった。心底怖かった。だけど安心して泣きたくなる。でも、なんでこんなことに。
けれど、馬車寄せにいた人々の反応は、まったく予想外のものだった。
「さすがアイリス様!なんて革新的な登場かしら!」
「野生のエレガンスね!素敵!」
ローレンスに抱えられて呆然とする私の目の前で、王妃様までが優雅に手を叩いておられる。
「なんという迫力。砂とボロ布でさえ貴婦人の衣装にしてしまうなんて、あなたはやはり天才だわ、アイリス」
いや、普通に事故です。馬車が止まった瞬間に急に壊れるとかありえないけど、コンセプトじゃなく事故なんです、王妃様。
その日を境に、わざと服や紙を破いたり汚したりする「ダメージファッション」が爆発的に流行したのは言うまでもない。
ファッション誌の見出しには『新時代の美学:アイリス、壊れた美の革命』という文字が躍る。もう壊れなくてもよくなったのに、どうしても私は壊れていないといけないらしい。
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