8 / 10
これはコンセプトじゃないから!
しおりを挟む
私の雄たけびを思い出したのだろう、フィリップ様は馬車の中で聞いてくれた。
「領地送りにされたいのか」
来た。ついに来た。
「…!はいっ!お願いします!!」
しかしフィリップ様は首を振った。
「だめだ」
天国から地獄に突き落とされた気分。
「どうしてですか。こんな妻ですよ?」
「国王陛下と王妃様がアイリスを気に入っているからだ。なぜかわからないが。だから私の近くにいてもらわないと困る」
「そんな…!もう諮問機関には入れたのですから、あとは自分の力でどうにかしてください!愛人が女主人をしている屋敷で過ごすなんて、いつか気が狂いそうで嫌なんです!」
「…そうか」
するとフィリップ様は私を追い出すのではなくて、あっさりとキンバリーを追い出すことに決めた。愛より実をとったのだ。
フィリップ様は「キンバリーはいなくなるから、憂いなくここにいればいい」と言う。でも本当にいいのかな、これで。
キンバリーが出て行っても、私とフィリップ様は愛し合うことは、もうない。結婚初日から愛人に正妻を迎えさせる人がまともだとは思えないし、好きになんてなれない。まともじゃないというなら私だってもはやまともじゃないし、フィリップ様も同じ気持ちだろう。
愛のない結婚を続けるなら、私はやっぱり、お母様と同じ道を辿るのではないだろうか。
けれどタウンハウスで暮らすことを決めて領地送りを諦めるなら、もう産みの苦しみに耐えて奇抜な格好をする必要はない。だから私はすべてを説明して謝るつもりで、普通の、まったく普通のオーソドックスでコンサバなドレスを着て、王妃様のお茶会に向かう。
「そろそろ着くわね」
「そうですね」とローレンスが答えてくれて、私はふっと息を吐く。怒られるかも。失望されるかも。軽蔑されるかも。でも自分らしくもない格好を続けるのも苦痛だから。
今日、言うのだ。
私が決意を新たにし、王宮の馬車寄せに馬車が止まる瞬間、ローレンスが「奥様、何か変です」と私を抱き寄せた。
「え、何…」
次の瞬間、何故か馬車が派手に壊れた。
「きゃあああっ!!!」
馬車の床が抜け、衝撃で私はローレンスと一緒に転げ落ち、ドレスは泥まみれで破け、髪はボサボサ。
「奥様っ!奥様、大丈夫ですかっ!?」
ローレンスが抱きかかえてくれる。ああ、この人の腕って、こんなに力強かったんだ。怖かった。心底怖かった。だけど安心して泣きたくなる。でも、なんでこんなことに。
けれど、馬車寄せにいた人々の反応は、まったく予想外のものだった。
「さすがアイリス様!なんて革新的な登場かしら!」
「野生のエレガンスね!素敵!」
ローレンスに抱えられて呆然とする私の目の前で、王妃様までが優雅に手を叩いておられる。
「なんという迫力。砂とボロ布でさえ貴婦人の衣装にしてしまうなんて、あなたはやはり天才だわ、アイリス」
いや、普通に事故です。馬車が止まった瞬間に急に壊れるとかありえないけど、コンセプトじゃなく事故なんです、王妃様。
その日を境に、わざと服や紙を破いたり汚したりする「ダメージファッション」が爆発的に流行したのは言うまでもない。
ファッション誌の見出しには『新時代の美学:アイリス、壊れた美の革命』という文字が躍る。もう壊れなくてもよくなったのに、どうしても私は壊れていないといけないらしい。
「領地送りにされたいのか」
来た。ついに来た。
「…!はいっ!お願いします!!」
しかしフィリップ様は首を振った。
「だめだ」
天国から地獄に突き落とされた気分。
「どうしてですか。こんな妻ですよ?」
「国王陛下と王妃様がアイリスを気に入っているからだ。なぜかわからないが。だから私の近くにいてもらわないと困る」
「そんな…!もう諮問機関には入れたのですから、あとは自分の力でどうにかしてください!愛人が女主人をしている屋敷で過ごすなんて、いつか気が狂いそうで嫌なんです!」
「…そうか」
するとフィリップ様は私を追い出すのではなくて、あっさりとキンバリーを追い出すことに決めた。愛より実をとったのだ。
フィリップ様は「キンバリーはいなくなるから、憂いなくここにいればいい」と言う。でも本当にいいのかな、これで。
キンバリーが出て行っても、私とフィリップ様は愛し合うことは、もうない。結婚初日から愛人に正妻を迎えさせる人がまともだとは思えないし、好きになんてなれない。まともじゃないというなら私だってもはやまともじゃないし、フィリップ様も同じ気持ちだろう。
愛のない結婚を続けるなら、私はやっぱり、お母様と同じ道を辿るのではないだろうか。
けれどタウンハウスで暮らすことを決めて領地送りを諦めるなら、もう産みの苦しみに耐えて奇抜な格好をする必要はない。だから私はすべてを説明して謝るつもりで、普通の、まったく普通のオーソドックスでコンサバなドレスを着て、王妃様のお茶会に向かう。
「そろそろ着くわね」
「そうですね」とローレンスが答えてくれて、私はふっと息を吐く。怒られるかも。失望されるかも。軽蔑されるかも。でも自分らしくもない格好を続けるのも苦痛だから。
今日、言うのだ。
私が決意を新たにし、王宮の馬車寄せに馬車が止まる瞬間、ローレンスが「奥様、何か変です」と私を抱き寄せた。
「え、何…」
次の瞬間、何故か馬車が派手に壊れた。
「きゃあああっ!!!」
馬車の床が抜け、衝撃で私はローレンスと一緒に転げ落ち、ドレスは泥まみれで破け、髪はボサボサ。
「奥様っ!奥様、大丈夫ですかっ!?」
ローレンスが抱きかかえてくれる。ああ、この人の腕って、こんなに力強かったんだ。怖かった。心底怖かった。だけど安心して泣きたくなる。でも、なんでこんなことに。
けれど、馬車寄せにいた人々の反応は、まったく予想外のものだった。
「さすがアイリス様!なんて革新的な登場かしら!」
「野生のエレガンスね!素敵!」
ローレンスに抱えられて呆然とする私の目の前で、王妃様までが優雅に手を叩いておられる。
「なんという迫力。砂とボロ布でさえ貴婦人の衣装にしてしまうなんて、あなたはやはり天才だわ、アイリス」
いや、普通に事故です。馬車が止まった瞬間に急に壊れるとかありえないけど、コンセプトじゃなく事故なんです、王妃様。
その日を境に、わざと服や紙を破いたり汚したりする「ダメージファッション」が爆発的に流行したのは言うまでもない。
ファッション誌の見出しには『新時代の美学:アイリス、壊れた美の革命』という文字が躍る。もう壊れなくてもよくなったのに、どうしても私は壊れていないといけないらしい。
36
あなたにおすすめの小説
婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話
ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。
リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。
婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。
どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。
死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて……
※正常な人があまりいない話です。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました
ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」
政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。
妻カレンの反応は——
「それ、契約不履行ですよね?」
「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」
泣き落としは通じない。
そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。
逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。
これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。
妹の身代わりだった私に「本命は君だ」――王宮前で王子に抱き潰され、溺愛がバレました。~私が虐げられるきっかけになった少年が、私と王子を結び付
唯崎りいち
恋愛
妹の身代わりとして王子とデートすることになった私。でも王子の本命は最初から私で――。長年虐げられ、地味でみすぼらしい私が、王子の愛と溺愛に包まれ、ついに幸せを掴む甘々ラブファンタジー。妹や家族との誤解、影武者の存在も絡み、ハラハラと胸キュンが止まらない物語。
義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜
有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。
「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」
本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。
けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。
おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。
貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。
「ふふ、気づいた時には遅いのよ」
優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。
ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇!
勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!
氷の騎士と契約結婚したのですが、愛することはないと言われたので契約通り離縁します!
柚屋志宇
恋愛
「お前を愛することはない」
『氷の騎士』侯爵令息ライナスは、伯爵令嬢セルマに白い結婚を宣言した。
セルマは家同士の政略による契約結婚と割り切ってライナスの妻となり、二年後の離縁の日を待つ。
しかし結婚すると、最初は冷たかったライナスだが次第にセルマに好意的になる。
だがセルマは離縁の日が待ち遠しい。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる