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愛人が壊れてしまいました
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馬車の事故は偶然ではなかった。
ローレンスが砂まみれになって調べてくれたところ、馬車に細工がされていたことがわかったのだ。誰かが私を殺そうと、あるいは怪我をさせようとした。
ただ壊れるタイミングが遅かったのと、ローレンスが守ってくれたがために、大した怪我をせずに済んだだけだった。
第一容疑者は、私のせいで男爵家を追われたキンバリー。ローレンスが「行方を追う」といって出かけたきり戻ってこないので、また見つかっていないのだろう。
フィリップ様は私が死ぬところだったとわかって、私に優しくなった。私を失えば、国王ご夫妻から招待される回数が減ってしまうと思ったのだろう。さらにフィリップ様がブームに乗っかって立ち上げたファッションブランド「アイリス・オーセンティック」の売上も好調らしいから、彼は私を守るしかないのだ。
その優しさは決して、愛とは言えないけれど。
お母様を傷つけて狂わせた、お父様と愛人の愛。私をないがしろにして壊れたふりをさせた、フィリップ様とキンバリーの愛。
「愛って何だろう」と思うたびに、今ここにいないローレンスの顔が思い浮かぶ。
壊れた馬車の瓦礫の中で、私を抱きかかえてくれたときの、いつも無表情な彼の、必死な顔と声。彼が私のために必死になってくれたのは、愛なのかな。もしそうだったら、私は…
「ここだ」というフィリップ様の声がして、私は目を上げた。「アイリス・オーセンティック」の新店舗。極彩色の店内に、奇抜な服やアクセサリーが並ぶ。
「カラフルですね」
「ああ」
「なぜ店のコンセプトに合わせてこない」
私の服は一番私らしい、シンプルなドレス。
「すみません」と謝ったときに、「アイリス様」と震える声がした。
振り返ると、キンバリー。目が座っていて、その手には短剣。おもちゃじゃない、本物の。
「死ななかったのね」
「やっぱり、馬車の事故はあなたが…」
「そうよ…あなたさえいなければ!」
キンバリーは腕を振り上げた。彼女の目の中に、お母様の目にあったのと同じ狂気を見て、私は悟る。彼女は壊れてしまったんだと。私の壊れたふりが、彼女を壊してしまった。
ごめん、キンバリー。
さよなら、ローレンス。
私はぎゅっと目を閉じる。
「キンバリー、やめろ!」
自分の前に温かい壁ができた。その壁が、ゆっくりと崩れるように膝をつく。
「旦那…様…?」
肩越しに、彼の背中に刺さる短剣が見えた。
「アイリス、無事か?」
「はい…っ!」
「よかった」
フィリップ様の口から、たらりと血が垂れる。
「旦那様、しゃべらないでください。すぐに、すぐに医者を呼びますからっ!誰か!誰かお医者様を呼んでください!!誰かっ!」
キンバリーが「なんで」とつぶやく。
「なんで!なんでイカレ女を庇うの!私だけを愛してるって言ってたじゃない!嘘つき!フィリップの嘘つきっ!!」
キンバリーは怒りに任せてフィリップ様の背中から短剣を引き抜いて、彼の背中を何回も刺す。
「やめて!キンバリー!!もうやめて!!旦那様が死んじゃう!お願い、止めて…!」
フィリップ様の背中と床が、血に染まっていき、彼の身体から体温が失われていった。
ローレンスが砂まみれになって調べてくれたところ、馬車に細工がされていたことがわかったのだ。誰かが私を殺そうと、あるいは怪我をさせようとした。
ただ壊れるタイミングが遅かったのと、ローレンスが守ってくれたがために、大した怪我をせずに済んだだけだった。
第一容疑者は、私のせいで男爵家を追われたキンバリー。ローレンスが「行方を追う」といって出かけたきり戻ってこないので、また見つかっていないのだろう。
フィリップ様は私が死ぬところだったとわかって、私に優しくなった。私を失えば、国王ご夫妻から招待される回数が減ってしまうと思ったのだろう。さらにフィリップ様がブームに乗っかって立ち上げたファッションブランド「アイリス・オーセンティック」の売上も好調らしいから、彼は私を守るしかないのだ。
その優しさは決して、愛とは言えないけれど。
お母様を傷つけて狂わせた、お父様と愛人の愛。私をないがしろにして壊れたふりをさせた、フィリップ様とキンバリーの愛。
「愛って何だろう」と思うたびに、今ここにいないローレンスの顔が思い浮かぶ。
壊れた馬車の瓦礫の中で、私を抱きかかえてくれたときの、いつも無表情な彼の、必死な顔と声。彼が私のために必死になってくれたのは、愛なのかな。もしそうだったら、私は…
「ここだ」というフィリップ様の声がして、私は目を上げた。「アイリス・オーセンティック」の新店舗。極彩色の店内に、奇抜な服やアクセサリーが並ぶ。
「カラフルですね」
「ああ」
「なぜ店のコンセプトに合わせてこない」
私の服は一番私らしい、シンプルなドレス。
「すみません」と謝ったときに、「アイリス様」と震える声がした。
振り返ると、キンバリー。目が座っていて、その手には短剣。おもちゃじゃない、本物の。
「死ななかったのね」
「やっぱり、馬車の事故はあなたが…」
「そうよ…あなたさえいなければ!」
キンバリーは腕を振り上げた。彼女の目の中に、お母様の目にあったのと同じ狂気を見て、私は悟る。彼女は壊れてしまったんだと。私の壊れたふりが、彼女を壊してしまった。
ごめん、キンバリー。
さよなら、ローレンス。
私はぎゅっと目を閉じる。
「キンバリー、やめろ!」
自分の前に温かい壁ができた。その壁が、ゆっくりと崩れるように膝をつく。
「旦那…様…?」
肩越しに、彼の背中に刺さる短剣が見えた。
「アイリス、無事か?」
「はい…っ!」
「よかった」
フィリップ様の口から、たらりと血が垂れる。
「旦那様、しゃべらないでください。すぐに、すぐに医者を呼びますからっ!誰か!誰かお医者様を呼んでください!!誰かっ!」
キンバリーが「なんで」とつぶやく。
「なんで!なんでイカレ女を庇うの!私だけを愛してるって言ってたじゃない!嘘つき!フィリップの嘘つきっ!!」
キンバリーは怒りに任せてフィリップ様の背中から短剣を引き抜いて、彼の背中を何回も刺す。
「やめて!キンバリー!!もうやめて!!旦那様が死んじゃう!お願い、止めて…!」
フィリップ様の背中と床が、血に染まっていき、彼の身体から体温が失われていった。
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