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「見苦しいだなんて!むしろ素晴らしいわ!!」
その言葉が信じられなくて、思わず私は顔を上げる。私だけでなく、周囲の空気も固まっているのが明白だ。けれど王妃様は両手を打ち鳴らして、まるで大きな宝石でも見つけたかのように、本当に楽しそうに笑っていらっしゃる。
「この頃、退屈していたのよ。皆、同じような色、同じような形のドレスばかりで。でもあなたのドレスは、見る者の既成概念を払って目を覚まさせてくれるわ。まるで春の嵐のような、情熱の爆発ね!」
王妃様を相手に「いえ、そんな高尚なものではなく、ただ壊れているふりをしているだけのでたらめなドレスです」と言えるはずもない。
「私にはわかりましてよ。あなたの孤独と勇気が。ああ、本当に素晴らしいわ」
「…光栄でございます、王妃様」
なんと王妃様は、目に涙まで浮かべ始めた。なんだこれは。
「私以外にあなたの孤独と勇気と理解した者がいて?」
いるはずがない。この格好をしている本人の私だって、理解していないのだから。
「いいえ、王妃様」
「そうでしょうね。魂のレベルが低い人間にはわからないのよ」
違います、王妃様。彼らはまともなだけです。
けれど王妃様のお言葉で、会場の空気は完全に変わってしまった。「魂のレベルが低い人間」になりたくない人たちは、私のドレスと髪型を一斉にほめそやす。
《春の嵐、確かに…》
《あの配色は、見れば見るほど引き込まれますわ》
王妃様は、私の横で事態がどう転ぶのか見極めようとしているフィリップ様に向き直る。
「ハミルトン男爵、あなたも立派だわ。妻の前衛的な試みを認め、応援しているのだから。頭の固い男性なら、”こんな格好はするな””一緒に出歩くものか”と咎めそうなものを」
フィリップ様は必死に言葉を絞り出した。
「…妻の孤独と勇気を理解しようと努めております、王妃様」
「素敵だわ。ハミルトン男爵が、これほど思考が柔軟な方だとはね。国が抱えている問題についても柔軟な視点で意見をもらいたいわ」
王妃様がフィリップ様の肩を軽く叩く。
「お役に立てるのでしたら、ぜひ」
謎すぎる。私の壊れたふりが「フィリップ様悲願の諮問機関入り」を叶えそうになっている。壊れてフィリップ様に恥をかかせて領地に送られる妻のはずなのに、王宮のど真ん中で盛大に内助の功を発揮してしまっている。なぜ。
頭から湯気が出そうなくらい考えても、どうしてこうなったのかわからない。
「ハミルトン男爵夫人アイリス、私のお茶会にもぜひ参加してちょうだいな」
「光栄です、王妃様」
笑顔を作りながら、私は心の中で頭を抱えた。
ドレスと髪型についての称賛攻めと質問攻めにあってへとへとになり、ようやく退出して馬車に乗り込もうとすると、ローレンスが馬車の扉を開けてくれた。
「お見事です、奥様。旦那様の悲願…諮問機関入りをあっさりと叶えられましたね」
フィリップ様の願いを叶えるつもりなんてなかったのですが。そして私の願いは何も叶っていないのですが。
無表情のフィリップ様と、ため息で答えた私に、ローレンスがふっと笑みを浮かべたような気がした。
その言葉が信じられなくて、思わず私は顔を上げる。私だけでなく、周囲の空気も固まっているのが明白だ。けれど王妃様は両手を打ち鳴らして、まるで大きな宝石でも見つけたかのように、本当に楽しそうに笑っていらっしゃる。
「この頃、退屈していたのよ。皆、同じような色、同じような形のドレスばかりで。でもあなたのドレスは、見る者の既成概念を払って目を覚まさせてくれるわ。まるで春の嵐のような、情熱の爆発ね!」
王妃様を相手に「いえ、そんな高尚なものではなく、ただ壊れているふりをしているだけのでたらめなドレスです」と言えるはずもない。
「私にはわかりましてよ。あなたの孤独と勇気が。ああ、本当に素晴らしいわ」
「…光栄でございます、王妃様」
なんと王妃様は、目に涙まで浮かべ始めた。なんだこれは。
「私以外にあなたの孤独と勇気と理解した者がいて?」
いるはずがない。この格好をしている本人の私だって、理解していないのだから。
「いいえ、王妃様」
「そうでしょうね。魂のレベルが低い人間にはわからないのよ」
違います、王妃様。彼らはまともなだけです。
けれど王妃様のお言葉で、会場の空気は完全に変わってしまった。「魂のレベルが低い人間」になりたくない人たちは、私のドレスと髪型を一斉にほめそやす。
《春の嵐、確かに…》
《あの配色は、見れば見るほど引き込まれますわ》
王妃様は、私の横で事態がどう転ぶのか見極めようとしているフィリップ様に向き直る。
「ハミルトン男爵、あなたも立派だわ。妻の前衛的な試みを認め、応援しているのだから。頭の固い男性なら、”こんな格好はするな””一緒に出歩くものか”と咎めそうなものを」
フィリップ様は必死に言葉を絞り出した。
「…妻の孤独と勇気を理解しようと努めております、王妃様」
「素敵だわ。ハミルトン男爵が、これほど思考が柔軟な方だとはね。国が抱えている問題についても柔軟な視点で意見をもらいたいわ」
王妃様がフィリップ様の肩を軽く叩く。
「お役に立てるのでしたら、ぜひ」
謎すぎる。私の壊れたふりが「フィリップ様悲願の諮問機関入り」を叶えそうになっている。壊れてフィリップ様に恥をかかせて領地に送られる妻のはずなのに、王宮のど真ん中で盛大に内助の功を発揮してしまっている。なぜ。
頭から湯気が出そうなくらい考えても、どうしてこうなったのかわからない。
「ハミルトン男爵夫人アイリス、私のお茶会にもぜひ参加してちょうだいな」
「光栄です、王妃様」
笑顔を作りながら、私は心の中で頭を抱えた。
ドレスと髪型についての称賛攻めと質問攻めにあってへとへとになり、ようやく退出して馬車に乗り込もうとすると、ローレンスが馬車の扉を開けてくれた。
「お見事です、奥様。旦那様の悲願…諮問機関入りをあっさりと叶えられましたね」
フィリップ様の願いを叶えるつもりなんてなかったのですが。そして私の願いは何も叶っていないのですが。
無表情のフィリップ様と、ため息で答えた私に、ローレンスがふっと笑みを浮かべたような気がした。
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