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ユキレラは番犬を志す(※愛玩犬も捨て難い)
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ユキレラを伴ったルシウスは、そのまま呪詛の被害で寝込んでいるという王弟カズンの様子を見に離宮へ向かうことにした。
というより、離宮側から王弟殿下が目を覚ましたと慌てた使者によって至急来てくれと迎えの馬車が来ていて、途中で合流して乗り換えることに。
ルシウスの馬車は子爵邸まで戻しておいてくれるとのこと。
今回は特別に従者のユキレラにも入場許可が降りるとのことで、ありがたくご主人様に付き添うことにした。
(はわわ……離宮とはいえ王宮に足さ踏み入れることができるだなんて。ど田舎者には過ぎた栄誉だべ……)
しかも偉大な先王様と後添えの若い夫人との愛の巣だ。
だが、今は離宮の豪華さを堪能できる雰囲気ではない。
エントランスに足を踏み入れると、まるで葬儀会場か? というように沈み込んだ先王ヴァシレウスとその夫人セシリア女大公に出迎えられた。
セシリア夫人は金髪碧眼のダイナマイトボディ。背は平均より高めで、ちょっとだけ垂れ目の甘い雰囲気の美女だ。
まだ二十代前半、ぴちぴち。
ヴァシレウス大王は確かもう八十をとうに過ぎているはず。
なのに真っ黒なお髪と顎髭にはほんの僅かの白髪しかなく、知らなければ六十代でも通る精悍な大男だ。
年齢を重ねて、端正な顔立ちには男の色気が溢れ出している。
二人並ぶと年齢差はあるものの、美男美女で壮観だった。
案外、年寄りが若い後妻を貰った、という字面から受けるいやらしさのようなものがない。
年の差婚ながら関係は良好と聞いていた通りだった。
「偉大なるヴァシレウス大王陛下とセシリア女大公閣下にご挨拶申し上げます。……これは最近発見された我がリースト一族の傍系でユキレラといいます。以後、僕の従者となりますのでお見知り置きください」
先にルシウスからユキレラを貴人のお二人に紹介してから、彼らを紹介してもらったのだが。
ど田舎者のユキレラは卒倒しなかった自分を褒めてやりたかった。
セシリアには先日お会いしたばかり。
だが、ヴァシレウスはこのアケロニア王国が誇る偉大な先王様で、円環大陸でも唯一の大王の称号持ち。
とにかくとにかくお偉いさんなのだ。雲の上のお人なのだ。
ど田舎村にいたままだったら、新聞記事でお名前を拝するだけのお方なのである。
「ユキレラと申します。まだ礼儀作法も未熟で申し訳ありません。よろしくお願い申し上げます」
ルシウスからは、王侯貴族とはプライベートな場ならば、誠意ある立ち居振る舞いができていれば難しいことは何もないと教えられていた。
実際その通りで、今回は特に呪詛で倒れてしまったカズンの様子を見てほしいと、挨拶もそこそこにすぐカズンの私室へと通されるのだった。
聞けば、呪詛を受けてカズンはここ最近の記憶をごっそり忘れてしまっているそう。
ここ一ヶ月ほどの間に初めて顔合わせしたヨシュア坊ちゃんのこともアウト。
ルシウスは彼が生まれてから現在まで、ヴァシレウスに会いにたびたび会いに来ていたそうなので、辛うじてセーフではないかということだった。
(てことは、オレも忘れられちまったかな。まあ仕方ねえべな~)
まだユキレラ側にも王弟殿下に大した思い入れはない。
「それでね、ルシウス君。あたくしの可愛いショコラちゃん、目が覚めてから変なのよう」
「変、ですか? セシリア様」
「ほら、いっつも元気いっぱいで走り回ってたのに、……大人しくなってしまったの」
「え。壁は?」
つい、後ろから突っ込んでしまったユキレラだ。
いかん、と慌てて口を塞いだユキレラだったが、セシリア様は気にせず振り返って頷いてくれた。
「壁も走らなくなったわ。ちゃんと歩くようになったの。もちろん廊下をよ!」
「おお! お行儀良くなってしまわれたんですねえ」
「そうなのよう。親としては喜ぶべきなのだけど、わんぱくだったのが急に良い子になってしまって心配!」
親心は複雑なようだ。ましてやカズンは呪詛を受けて倒れているのだし。
それで実際、王弟カズンがどうなっていたかといえば。
お部屋の中で猫が『ごめん寝』する伏せ寝のポーズでぷるぷる震えていた。
具体的にはお部屋の隅っこで。
後ろからは幼児の半ズボンに包まれた大きなお尻だけが見えている。
一緒に付いてきていた乳母と思われる年配の女性が慌てて駆け寄って抱き上げていた。
4歳児だが、見た目は2.5~3歳児ぐらいなので女性でも抱えられる。
乳母からヴァシレウス大王へお渡しされて、おでこと頬っぺたにチュッチュッと父、母の順で宥められてからルシウスにお渡し。
先ほどまでいたリースト伯爵家でと同じように、ソファにカズンを座らせてルシウスは聖剣の聖なる魔力で呪詛の解除を試みたものの、失敗。
何度繰り返しても駄目だった。
そうして、ルシウスは先王ヴァシレウスやセシリア夫人を交えて、シリアスなお話し合いだ。
その間、ユキレラは乳母と一緒にカズンをあやす係だった。
「カズン様やヨシュア様が襲われたとき、護衛はいなかったんでしょうか?」
「もちろんおりましたとも! ですが、刺客は、その……この離宮でカズン様の侍従を務める者だったので……」
「あんらー」
おっといけない、思わずど田舎弁が出てしまった。
「最初っから獅子身中の虫が入り込んでいたんですねえ」
「……その通りですわ」
とりあえず同じ室内にいて、抱っこして背中をぽんぽんしているうちにカズンは寝入ってしまった。
それでご年配の乳母やさんと、ひそひそと情報交換をしていたユキレラだ。
(王都はスリリングな場所だなや。オレも何か武器か格闘術でも覚えなきゃかもしんね)
野良ユキレラはご主人様に出会って忠実な飼いユキレラとなった。
だが、それだけだ。
ただお側にいるだけの飼い犬から番犬ユキレラにステップアップしてもよいのではないか。
(んだんだ。本家の生き別れの兄ちゃん2号に今度会ったとき相談してみるっぺ!)
独学するより、何か良いお知恵を拝借できるものと思う。
というより、離宮側から王弟殿下が目を覚ましたと慌てた使者によって至急来てくれと迎えの馬車が来ていて、途中で合流して乗り換えることに。
ルシウスの馬車は子爵邸まで戻しておいてくれるとのこと。
今回は特別に従者のユキレラにも入場許可が降りるとのことで、ありがたくご主人様に付き添うことにした。
(はわわ……離宮とはいえ王宮に足さ踏み入れることができるだなんて。ど田舎者には過ぎた栄誉だべ……)
しかも偉大な先王様と後添えの若い夫人との愛の巣だ。
だが、今は離宮の豪華さを堪能できる雰囲気ではない。
エントランスに足を踏み入れると、まるで葬儀会場か? というように沈み込んだ先王ヴァシレウスとその夫人セシリア女大公に出迎えられた。
セシリア夫人は金髪碧眼のダイナマイトボディ。背は平均より高めで、ちょっとだけ垂れ目の甘い雰囲気の美女だ。
まだ二十代前半、ぴちぴち。
ヴァシレウス大王は確かもう八十をとうに過ぎているはず。
なのに真っ黒なお髪と顎髭にはほんの僅かの白髪しかなく、知らなければ六十代でも通る精悍な大男だ。
年齢を重ねて、端正な顔立ちには男の色気が溢れ出している。
二人並ぶと年齢差はあるものの、美男美女で壮観だった。
案外、年寄りが若い後妻を貰った、という字面から受けるいやらしさのようなものがない。
年の差婚ながら関係は良好と聞いていた通りだった。
「偉大なるヴァシレウス大王陛下とセシリア女大公閣下にご挨拶申し上げます。……これは最近発見された我がリースト一族の傍系でユキレラといいます。以後、僕の従者となりますのでお見知り置きください」
先にルシウスからユキレラを貴人のお二人に紹介してから、彼らを紹介してもらったのだが。
ど田舎者のユキレラは卒倒しなかった自分を褒めてやりたかった。
セシリアには先日お会いしたばかり。
だが、ヴァシレウスはこのアケロニア王国が誇る偉大な先王様で、円環大陸でも唯一の大王の称号持ち。
とにかくとにかくお偉いさんなのだ。雲の上のお人なのだ。
ど田舎村にいたままだったら、新聞記事でお名前を拝するだけのお方なのである。
「ユキレラと申します。まだ礼儀作法も未熟で申し訳ありません。よろしくお願い申し上げます」
ルシウスからは、王侯貴族とはプライベートな場ならば、誠意ある立ち居振る舞いができていれば難しいことは何もないと教えられていた。
実際その通りで、今回は特に呪詛で倒れてしまったカズンの様子を見てほしいと、挨拶もそこそこにすぐカズンの私室へと通されるのだった。
聞けば、呪詛を受けてカズンはここ最近の記憶をごっそり忘れてしまっているそう。
ここ一ヶ月ほどの間に初めて顔合わせしたヨシュア坊ちゃんのこともアウト。
ルシウスは彼が生まれてから現在まで、ヴァシレウスに会いにたびたび会いに来ていたそうなので、辛うじてセーフではないかということだった。
(てことは、オレも忘れられちまったかな。まあ仕方ねえべな~)
まだユキレラ側にも王弟殿下に大した思い入れはない。
「それでね、ルシウス君。あたくしの可愛いショコラちゃん、目が覚めてから変なのよう」
「変、ですか? セシリア様」
「ほら、いっつも元気いっぱいで走り回ってたのに、……大人しくなってしまったの」
「え。壁は?」
つい、後ろから突っ込んでしまったユキレラだ。
いかん、と慌てて口を塞いだユキレラだったが、セシリア様は気にせず振り返って頷いてくれた。
「壁も走らなくなったわ。ちゃんと歩くようになったの。もちろん廊下をよ!」
「おお! お行儀良くなってしまわれたんですねえ」
「そうなのよう。親としては喜ぶべきなのだけど、わんぱくだったのが急に良い子になってしまって心配!」
親心は複雑なようだ。ましてやカズンは呪詛を受けて倒れているのだし。
それで実際、王弟カズンがどうなっていたかといえば。
お部屋の中で猫が『ごめん寝』する伏せ寝のポーズでぷるぷる震えていた。
具体的にはお部屋の隅っこで。
後ろからは幼児の半ズボンに包まれた大きなお尻だけが見えている。
一緒に付いてきていた乳母と思われる年配の女性が慌てて駆け寄って抱き上げていた。
4歳児だが、見た目は2.5~3歳児ぐらいなので女性でも抱えられる。
乳母からヴァシレウス大王へお渡しされて、おでこと頬っぺたにチュッチュッと父、母の順で宥められてからルシウスにお渡し。
先ほどまでいたリースト伯爵家でと同じように、ソファにカズンを座らせてルシウスは聖剣の聖なる魔力で呪詛の解除を試みたものの、失敗。
何度繰り返しても駄目だった。
そうして、ルシウスは先王ヴァシレウスやセシリア夫人を交えて、シリアスなお話し合いだ。
その間、ユキレラは乳母と一緒にカズンをあやす係だった。
「カズン様やヨシュア様が襲われたとき、護衛はいなかったんでしょうか?」
「もちろんおりましたとも! ですが、刺客は、その……この離宮でカズン様の侍従を務める者だったので……」
「あんらー」
おっといけない、思わずど田舎弁が出てしまった。
「最初っから獅子身中の虫が入り込んでいたんですねえ」
「……その通りですわ」
とりあえず同じ室内にいて、抱っこして背中をぽんぽんしているうちにカズンは寝入ってしまった。
それでご年配の乳母やさんと、ひそひそと情報交換をしていたユキレラだ。
(王都はスリリングな場所だなや。オレも何か武器か格闘術でも覚えなきゃかもしんね)
野良ユキレラはご主人様に出会って忠実な飼いユキレラとなった。
だが、それだけだ。
ただお側にいるだけの飼い犬から番犬ユキレラにステップアップしてもよいのではないか。
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