破壊のオデット

真義あさひ

文字の大きさ
35 / 53

熊を豚小屋へぶち込みたい

しおりを挟む
 オデットは巧妙に、ドマ伯爵家の五男サムエルの誤解を利用して増長させていった。

 自分が新たな侯爵となるのだというサムエルの言質を取って魔法樹脂に録音し、それを溜め続けた。

 婚約者として婚約の翌日から二人で頻繁にお茶を飲むようにして、場所はいつも、学園の食堂を使うようにして。
 王都の通学路にあるお気に入りの店は使いたくないし、学園内の食堂なら人目も多いから、サムエルから変なことをされる心配もない。

 今日も放課後、オデットから3年のサムエルの教室に誘いに行った。
 接触機会は多ければ多いほど良い。



「リースト伯爵領は鮭が名産というけど、俺は魚なんかより肉のほうが好きだぞ。鮭なんてあんな食いごたえのないもの! 君と結婚して俺が侯爵となった暁には畜産のほうにもっと力を入れなければならないな!」
「……ええ、それもいいかもしれません。あなたの好きになさって?」

(お、オデット、駄目ですよ、暴れてはいけませんからね!)

 いつもさりげなく、グリンダが近くの席に背を向けて座っていて、オデットとサムエルが下手なことをしないように監視してくる。
 それで小声でオデットに注意してくるが、大丈夫だ。

(問題なくてよ、グリンダ。お前を豚小屋にぶち込んでやるわって思ってるだけだもの)

 豚に鮭はもったいない。
 ドマ伯爵令息サムエルは、熊のような見た目とダミ声の男だ。
 聞くに堪えないが、人間っぽい形をした豚だと思えばそんなに腹は立たない。

 とりあえずリースト侯爵領の鮭を貶す者は滅びよ。



 微笑みながら簡単な相槌を打っているだけで、サムエルはどんどん好き勝手に発言しては墓穴を掘っていく。
 こっそり、オデットとグリンダがひそひそ話をしていることにも気づかないくらい、自分の話に陶酔している。

 女王陛下から貰った猶予期間は二週間と少し。
 まだこの男と婚約して数日だが、もうさほど時間をかけなくてもいいだろう。



「ねえ、サムエル様」
「何だい、オデット」
「あのね、私、あなたにお願いがあるの」
「お願いだって?」
「ええ、大したことじゃないのよ」

 さあ、最後の仕上げをしよう。

「私が魔法剣士であることはご存知でしょう?」
「ああ。この前、校庭で生徒会長と戦ったとき、俺も教室から見てたよ! あれは凄かったな!」
「ふふ、ありがとうございます。……でもね、ほら。私、あなたと婚約したでしょう? あなたはもう3年生だから卒業してしまうし、淑女が戦うってはしたないと思いますの」
「まあそうだな。結婚後まで暴れられたら堪らない。そこは躾けなきゃ……いや、控えてほしいって頼もうと思ってたところだ」

(この男、“躾”って言いましたわね。誰を? オデットを???)

 後ろの席でグリンダがドン引きしている。

 オデットは聞こえなかった振りでスルーだ。
 もちろん、このサムエルの発言も、爪のネイルに模した魔法樹脂に音声を記録している。

「ええ、もちろんですわ、サムエル様。でもね。私、あなたが卒業する前にぜひ一度戦って、それで魔法剣士を引退する有終の美を飾りたいと思いますの。……おねだり、聞いてくださいます?」

 リースト侯爵家の一族のオデットは麗しの美貌の少女である。
 ちょっと可愛らしく、すすっと婚約者に身を寄せた。

「いいのか? 俺は強いぞ?」
「もちろん。もしあなたが勝ったなら、私を好きになさって?」

 相手の制服のブレザーの腕の裾をちょん、と指先で触れながら(本当は手に触れるのが良いのだが触りたくなかったので)、上目遣いにお願いしただけで、コロッとサムエルは落ちた。


しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

『めでたしめでたし』の、その後で

ゆきな
恋愛
シャロン・ブーケ伯爵令嬢は社交界デビューの際、ブレント王子に見初められた。 手にキスをされ、一晩中彼とダンスを楽しんだシャロンは、すっかり有頂天だった。 まるで、おとぎ話のお姫様になったような気分だったのである。 しかし、踊り疲れた彼女がブレント王子に導かれるままにやって来たのは、彼の寝室だった。 ブレント王子はお気に入りの娘を見つけるとベッドに誘い込み、飽きたら多額の持参金をもたせて、適当な男の元へと嫁がせることを繰り返していたのだ。 そんなこととは知らなかったシャロンは恐怖のあまり固まってしまったものの、なんとか彼の手を振り切って逃げ帰ってくる。 しかし彼女を迎えた継母と異母妹の態度は冷たかった。 継母はブレント王子の悪癖を知りつつ、持参金目当てにシャロンを王子の元へと送り出していたのである。 それなのに何故逃げ帰ってきたのかと、継母はシャロンを責めた上、役立たずと罵って、その日から彼女を使用人同然にこき使うようになった。 シャロンはそんな苦境の中でも挫けることなく、耐えていた。 そんなある日、ようやくシャロンを愛してくれる青年、スタンリー・クーパー伯爵と出会う。 彼女はスタンリーを心の支えに、辛い毎日を懸命に生きたが、異母妹はシャロンの幸せを許さなかった。 彼女は、どうにかして2人の仲を引き裂こうと企んでいた。 2人の間の障害はそればかりではなかった。 なんとブレント王子は、いまだにシャロンを諦めていなかったのだ。 彼女の身も心も手に入れたい欲求にかられたブレント王子は、彼女を力づくで自分のものにしようと企んでいたのである。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

処理中です...