179 / 217
番外編 異世界板前ゲンジ、ルシウス君と再会す
ゲンジのサーモンパスタ三連発
しおりを挟む
ゲンジ本来の専門、和食で鮭といえば塩や味噌、みりんなどの調味料に漬けた焼き魚や刺身、あるいは魚卵のイクラの塩漬けや醤油漬けがある。
ところが、それらの大半は白い炊きたてご飯に合わせるもので、米はあっても単体で主食として食すよりピラフやリゾット文化のアケロニア王国だとあまり馴染まなさそうだった。
衛生の関係で生の刺身も一般的でない。
何より衝撃だったのは、魚卵イクラを「腐りやすいから廃棄」していたことだ。
「ぶ、文化がそうなら仕方ないよね……」
ここでゲンジが粘っていれば、魚卵好きの王弟殿下が未来でハッスルすることもなくなるのだが、人生思うようにはいかないものである。
リースト伯爵領産の品質の良い鮭に醤油や出汁を合わせるネタは、ディナー営業時間後の賄いでサーモンのクリームパスタをいただいたときに浮かんだ。
「お、ゲンジさんが何か思いついたみたいだぞー」
わらわらと集まる厨房のシェフやスタッフたち。
「オヤジさん、何作るのー?」
そして今日もなぜかいるルシウス。
毎日、ゲンジのシフトの日は迎えに来てくれたついでに賄いを食べて帰るのが最近のお約束だった。
「チーフ、鮭の切れ端、使っちゃってもいいですかね?」
「明日の賄いに足す分だから構わないよ」
と言ってくれたので遠慮なく使わせてもらうことにする。
「鮭とリーキで俺の故郷の味付けのパスタを試してみます。腹に余裕のある人はー」
「はいはいっ!」
真っ先にルシウスの手が上がって、笑い声が弾けた。彼はパスタなら3人前はぺろりと平らげてしまう。今日はまだ一人前だ。
まずは試食優先で一通り作ってみることにする。気に入ってもらえたら追加で作ればいい。
湯は魔石のコンロですぐ沸く。
太めのスパゲッティを茹でている間に、鮭の切れ端に塩を振って余計な水分を出しておく。
フライパンにオリーブオイルを入れて、リーキという白ネギを太くしたような野菜の斜め切りと、一口大の鮭にしっかり焼き色を付けて火を通しておく。
そこに醤油と胡椒。
スパゲッティが茹で上がったら一人前を加えて、茹で汁少々で伸ばした出汁を加えて皿へ。上から粗挽き胡椒を皿に振りかけて完成。
皆がシェアして味見している間に、次はリーキは焼き色を付けるが鮭は半生になるよう加熱して、醤油を。
スパゲッティを加えた後にバターを一欠片。
茹で汁で乳化を調整して、皿に盛る頃に僅かに鮭に生の部分がうっすら残る程度の加減である。
こちらも仕上げに黒胡椒を。
三皿目は、一皿目と同じように鮭にもリーキにもしっかり焼き色を付けて火を通し、一度皿に取り置く。
空いたフライパンにオリーブオイルと軽く潰したニンニクを投入、うっすらキツネ色になったらニンニクは取り出す。今回はオイルに風味を付けるだけに留める。
スパゲッティを加え、鮭とリーキを戻して仕上げに醤油を加える。
今回は醤油の風味と塩気を生かしたかったので、あえて茹で汁は加えない。茹でたスパゲッティがまとっていた湯分だけだ。
皿に盛り付けておしまい。胡椒や削ったハードチーズなどはお好みで。
「三つのうち、どれが気に入った?」
「「「全部美味しかったです!」」」
反応は上々。
賄いを食べた後でまだ胃袋に余裕のある者用に、追加をどんどん作っていった。
要望によっては、ニンニク風味にバターを足してくれと言われたり、料理人たちからは結構細かい希望を出された。
なお、ルシウスは全部気に入ったと言って全皿一人前ずつ要求してきた。その身体のいったいどこにスパゲッティは消えていくのだろう……。
(夜にこんなオイリーな飯食っても太りもしない。若いっていいよねえ)
その後は簡単に醤油の使い方レクチャーを行った。
このアケロニア王国で流通している醤油は、今のところ濃口醤油のみ。鮭に使うならステーキやムニエル、ベイクドサーモンなどにそのまま使ったり、ソースに応用したりすると相性が良いのではないか。
試しに、まだ残っていた鮭の切れ端をバターで焼いてから仕上げに醤油をフライパンの鍋肌に垂らして少し焦がす。
鮭を皿に盛り、上から焦がし醤油の混ざったバターを回しかけた。
「こ、これは……!」
「エール飲みたい……」
「いやラガーでしょ」
そう。鮭の醤油バター焼き。酒飲みには堪らない味なのである。
そこに厨房にあったフレッシュハーブをいろいろ加えてもいける。
「醤油は俺の故郷ではオリーブオイル並に欠かせない調味料でね。この店でも使って広めてくれたら嬉しいなあ」
ところが、それらの大半は白い炊きたてご飯に合わせるもので、米はあっても単体で主食として食すよりピラフやリゾット文化のアケロニア王国だとあまり馴染まなさそうだった。
衛生の関係で生の刺身も一般的でない。
何より衝撃だったのは、魚卵イクラを「腐りやすいから廃棄」していたことだ。
「ぶ、文化がそうなら仕方ないよね……」
ここでゲンジが粘っていれば、魚卵好きの王弟殿下が未来でハッスルすることもなくなるのだが、人生思うようにはいかないものである。
リースト伯爵領産の品質の良い鮭に醤油や出汁を合わせるネタは、ディナー営業時間後の賄いでサーモンのクリームパスタをいただいたときに浮かんだ。
「お、ゲンジさんが何か思いついたみたいだぞー」
わらわらと集まる厨房のシェフやスタッフたち。
「オヤジさん、何作るのー?」
そして今日もなぜかいるルシウス。
毎日、ゲンジのシフトの日は迎えに来てくれたついでに賄いを食べて帰るのが最近のお約束だった。
「チーフ、鮭の切れ端、使っちゃってもいいですかね?」
「明日の賄いに足す分だから構わないよ」
と言ってくれたので遠慮なく使わせてもらうことにする。
「鮭とリーキで俺の故郷の味付けのパスタを試してみます。腹に余裕のある人はー」
「はいはいっ!」
真っ先にルシウスの手が上がって、笑い声が弾けた。彼はパスタなら3人前はぺろりと平らげてしまう。今日はまだ一人前だ。
まずは試食優先で一通り作ってみることにする。気に入ってもらえたら追加で作ればいい。
湯は魔石のコンロですぐ沸く。
太めのスパゲッティを茹でている間に、鮭の切れ端に塩を振って余計な水分を出しておく。
フライパンにオリーブオイルを入れて、リーキという白ネギを太くしたような野菜の斜め切りと、一口大の鮭にしっかり焼き色を付けて火を通しておく。
そこに醤油と胡椒。
スパゲッティが茹で上がったら一人前を加えて、茹で汁少々で伸ばした出汁を加えて皿へ。上から粗挽き胡椒を皿に振りかけて完成。
皆がシェアして味見している間に、次はリーキは焼き色を付けるが鮭は半生になるよう加熱して、醤油を。
スパゲッティを加えた後にバターを一欠片。
茹で汁で乳化を調整して、皿に盛る頃に僅かに鮭に生の部分がうっすら残る程度の加減である。
こちらも仕上げに黒胡椒を。
三皿目は、一皿目と同じように鮭にもリーキにもしっかり焼き色を付けて火を通し、一度皿に取り置く。
空いたフライパンにオリーブオイルと軽く潰したニンニクを投入、うっすらキツネ色になったらニンニクは取り出す。今回はオイルに風味を付けるだけに留める。
スパゲッティを加え、鮭とリーキを戻して仕上げに醤油を加える。
今回は醤油の風味と塩気を生かしたかったので、あえて茹で汁は加えない。茹でたスパゲッティがまとっていた湯分だけだ。
皿に盛り付けておしまい。胡椒や削ったハードチーズなどはお好みで。
「三つのうち、どれが気に入った?」
「「「全部美味しかったです!」」」
反応は上々。
賄いを食べた後でまだ胃袋に余裕のある者用に、追加をどんどん作っていった。
要望によっては、ニンニク風味にバターを足してくれと言われたり、料理人たちからは結構細かい希望を出された。
なお、ルシウスは全部気に入ったと言って全皿一人前ずつ要求してきた。その身体のいったいどこにスパゲッティは消えていくのだろう……。
(夜にこんなオイリーな飯食っても太りもしない。若いっていいよねえ)
その後は簡単に醤油の使い方レクチャーを行った。
このアケロニア王国で流通している醤油は、今のところ濃口醤油のみ。鮭に使うならステーキやムニエル、ベイクドサーモンなどにそのまま使ったり、ソースに応用したりすると相性が良いのではないか。
試しに、まだ残っていた鮭の切れ端をバターで焼いてから仕上げに醤油をフライパンの鍋肌に垂らして少し焦がす。
鮭を皿に盛り、上から焦がし醤油の混ざったバターを回しかけた。
「こ、これは……!」
「エール飲みたい……」
「いやラガーでしょ」
そう。鮭の醤油バター焼き。酒飲みには堪らない味なのである。
そこに厨房にあったフレッシュハーブをいろいろ加えてもいける。
「醤油は俺の故郷ではオリーブオイル並に欠かせない調味料でね。この店でも使って広めてくれたら嬉しいなあ」
22
あなたにおすすめの小説
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる