家出少年ルシウスNEXT~聖剣の少年魔法剣士、海辺の僻地ギルドで無双する

真義あさひ

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番外編 異世界板前ゲンジ、ルシウス君と再会す

ゲンジのサーモンパスタ三連発

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 ゲンジ本来の専門、和食で鮭といえば塩や味噌、みりんなどの調味料に漬けた焼き魚や刺身、あるいは魚卵のイクラの塩漬けや醤油漬けがある。

 ところが、それらの大半は白い炊きたてご飯に合わせるもので、米はあっても単体で主食として食すよりピラフやリゾット文化のアケロニア王国だとあまり馴染まなさそうだった。

 衛生の関係で生の刺身も一般的でない。

 何より衝撃だったのは、魚卵イクラを「腐りやすいから廃棄」していたことだ。

「ぶ、文化がそうなら仕方ないよね……」

 ここでゲンジが粘っていれば、魚卵好きの王弟殿下が未来でハッスルすることもなくなるのだが、人生思うようにはいかないものである。



 リースト伯爵領産の品質の良い鮭に醤油や出汁を合わせるネタは、ディナー営業時間後の賄いでサーモンのクリームパスタをいただいたときに浮かんだ。

「お、ゲンジさんが何か思いついたみたいだぞー」

 わらわらと集まる厨房のシェフやスタッフたち。

「オヤジさん、何作るのー?」

 そして今日もなぜかいるルシウス。
 毎日、ゲンジのシフトの日は迎えに来てくれたついでに賄いを食べて帰るのが最近のお約束だった。

「チーフ、鮭の切れ端、使っちゃってもいいですかね?」
「明日の賄いに足す分だから構わないよ」

 と言ってくれたので遠慮なく使わせてもらうことにする。

「鮭とリーキで俺の故郷の味付けのパスタを試してみます。腹に余裕のある人はー」
「はいはいっ!」

 真っ先にルシウスの手が上がって、笑い声が弾けた。彼はパスタなら3人前はぺろりと平らげてしまう。今日はまだ一人前だ。

 まずは試食優先で一通り作ってみることにする。気に入ってもらえたら追加で作ればいい。

 湯は魔石のコンロですぐ沸く。
 太めのスパゲッティを茹でている間に、鮭の切れ端に塩を振って余計な水分を出しておく。
 フライパンにオリーブオイルを入れて、リーキという白ネギを太くしたような野菜の斜め切りと、一口大の鮭にしっかり焼き色を付けて火を通しておく。
 そこに醤油と胡椒。
 スパゲッティが茹で上がったら一人前を加えて、茹で汁少々で伸ばした出汁を加えて皿へ。上から粗挽き胡椒を皿に振りかけて完成。

 皆がシェアして味見している間に、次はリーキは焼き色を付けるが鮭は半生になるよう加熱して、醤油を。
 スパゲッティを加えた後にバターを一欠片。
 茹で汁で乳化を調整して、皿に盛る頃に僅かに鮭に生の部分がうっすら残る程度の加減である。
 こちらも仕上げに黒胡椒を。

 三皿目は、一皿目と同じように鮭にもリーキにもしっかり焼き色を付けて火を通し、一度皿に取り置く。
 空いたフライパンにオリーブオイルと軽く潰したニンニクを投入、うっすらキツネ色になったらニンニクは取り出す。今回はオイルに風味を付けるだけに留める。
 スパゲッティを加え、鮭とリーキを戻して仕上げに醤油を加える。
 今回は醤油の風味と塩気を生かしたかったので、あえて茹で汁は加えない。茹でたスパゲッティがまとっていた湯分だけだ。
 皿に盛り付けておしまい。胡椒や削ったハードチーズなどはお好みで。

「三つのうち、どれが気に入った?」

「「「全部美味しかったです!」」」

 反応は上々。
 賄いを食べた後でまだ胃袋に余裕のある者用に、追加をどんどん作っていった。
 要望によっては、ニンニク風味にバターを足してくれと言われたり、料理人たちからは結構細かい希望を出された。
 なお、ルシウスは全部気に入ったと言って全皿一人前ずつ要求してきた。その身体のいったいどこにスパゲッティは消えていくのだろう……。

(夜にこんなオイリーな飯食っても太りもしない。若いっていいよねえ)



 その後は簡単に醤油の使い方レクチャーを行った。
 このアケロニア王国で流通している醤油は、今のところ濃口醤油のみ。鮭に使うならステーキやムニエル、ベイクドサーモンなどにそのまま使ったり、ソースに応用したりすると相性が良いのではないか。

 試しに、まだ残っていた鮭の切れ端をバターで焼いてから仕上げに醤油をフライパンの鍋肌に垂らして少し焦がす。
 鮭を皿に盛り、上から焦がし醤油の混ざったバターを回しかけた。

「こ、これは……!」
「エール飲みたい……」
「いやラガーでしょ」

 そう。鮭の醤油バター焼き。酒飲みには堪らない味なのである。
 そこに厨房にあったフレッシュハーブをいろいろ加えてもいける。

「醤油は俺の故郷ではオリーブオイル並に欠かせない調味料でね。この店でも使って広めてくれたら嬉しいなあ」


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