上 下
32 / 64
夏休みは海で冒険なのだ(完結)

再び夢で神殿の中なのだ

しおりを挟む
「ピアディ。ピアディ。起きなさい」

 聖剣の聖者様おとうたんの深みのある声がする。
 落ち着いた大人の男の人の声だ。

「ぷぅ……(むぅう……まだおねむなのだあ……)」
「ピュイッ(ピアディ。おきて。おきてー!)」
「ぷぅ?(ユキノたんまでぇ?)」

 聖剣の聖者様おとうたんもユキノも、何だかとても必死な様子だ。

「ぷぅ?(おとうたん、いつのまにおとなに戻ったのだ?)」

 ピアディは短い前脚で目元をこしこしと擦って、目を開けた。

「ぷぅ!?」

 するとそこは、首都のお屋敷の聖剣の聖者様おとうたんの寝室ではなかった。

 肌に当たる感触が冷んやりしている。水の感触だ。
 だが濡れた感触はない。ふつうに息もできている。

 広い空間だが、かなり暗い。
 奥のほうに、ぼんやり青白く光る球体が二機。

「ぷぅ(ゆりかごなのだ。ということは、ここは祭殿の間。われいつの間に神殿に戻ってきたのだ?)」
「どうやら夢の中のようだ。ピアディ、お前いつの間に夢見の術を発動した?」
「ぷぅ~(そなの?)」
「無自覚か……」

 やれやれ、と溜め息をついた聖剣の聖者様おとうたんに抱っこされて、ゆりかごへと近づいた。

 子どもを創る、創成のゆりかごが祭壇に二機設置されている。
 右側には既に中身がある。白玉のような丸っこく白い生き物が目を閉じて、ぷぅぷぅ小さな寝息を立てていた。

「ぷぅ(これ、われなのだ。ここから可愛いウパルパに進化したのだ)」
「ピュア!(この頃からピアディ、可愛かったんだね!)」

 ユキノが真っ白もふもふの前脚で、ピアディになる予定のゆりかごを撫で撫でした。

「ふむ……」

 何やら聖剣の聖者様おとうたんはゆりかごを前に思案げだ。
 祭壇の前後左右をあちこち動いては、ゆりかごの状態をあれこれ確認している。

「サイズはこのまま……材質はやはり……」



 そのとき、祭殿の間の扉が開く音がした。

 ハッとなって振り返ると、そこには虹色キラキラをまとった、真珠色に光る小さな一角獣がいた。
 長い角で上手く扉を開けたようだ。

 ゆっくりと、白く長い毛を揺らめかせて海水の中を進んでくる。
 一角獣の傍には、その体長の半分くらいの胴体長めの銀色の魚が寄り添っている。シーラカンスに似た魚だった。

「ぷぅ(カーナたん。おにいたま)」

 古の時代の、ピアディの兄王とそのお嫁様だった。





しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

最初に私を蔑ろにしたのは殿下の方でしょう?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21,763pt お気に入り:1,965

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:17,722pt お気に入り:7,455

異世界転生したけどチートもないし、マイペースに生きていこうと思います。

児童書・童話 / 連載中 24h.ポイント:14,036pt お気に入り:1,039

伯爵様は色々と不器用なのです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:127,680pt お気に入り:2,639

貴方へ愛を伝え続けてきましたが、もう限界です。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:6,233pt お気に入り:3,810

処理中です...